野菜
毎日野菜や果物を手のひら五つ分程度食べなさいと、医者は推奨する。中国の野菜は実に豊富で、すぐに思いつくものだけでも、サツマイモの葉、空芯菜、ニラ、ヒユナ、シュンギク、キャベツ、シソ、香椿(チャンチン)、娃娃菜(ベビー白菜)、ヘチマ、ニガウリ、マコモダケ、インゲン、豆苗、オクラなどが挙げられ、西洋にないものも多々見られる。
それぞれの野菜にはビタミンが含まれているが、せっかくの栄養がなくならないよう、軽くゆでたり炒めたりと、調理時間を短くすることが多い。かつての台湾では、さっとゆでたものに醤油膏(糖分を加えとろみをつけた醤油)をつけたりニンニク醤油であえたりといった伝統的な食べ方や、香味野菜で香りを添えた強火炒めがせいぜいだったが、経済状況が良くなるにつれて飲食へのこだわりが生まれ、味の嗜好にも変化が見られるようになった。今では野菜料理の味付けもかなり豊富で、最近ではパッションフルーツ、青パパイヤ、リンゴ、トマトなど、果物の風味を添えたものが流行中だ。比較的よく見られる野菜料理としては、空心菜の腐乳(発酵豆腐)炒め、キャベツのベーコン炒め、山蘇(オオタニワタリ)の豆豉炒め、豆モヤシの煮干し炒め、ヒユナのシラス炒め、ニラのひき肉炒め、芥蘭(カイラン)のオイスターソース炒め、白ゴマペースト味のトウガンやモヤシの蒸らし煮、空芯菜のエビソース炒め、ベビー白菜、大根、アスパラを使った干し貝柱炒め、シュンギクや大根の鰹節炒め、銀杏の花椒塩炒め、細筍やマコモダケの豆板醤炒めなどが挙げられる。
また、調理中に味を染み込ませる料理としては、素揚げインゲンの辛味炒め、カボチャやジャガイモのグラタン、キャベツの酢炒め、三杯茄子(同量の砂糖、米酒、醤油で味付けしたナスの炒めもの)などが挙げられ、あえ物や漬物ならば、ダイコン、ニンジン、キャベツ、ハクサイ、キュウリなどの塩水漬けや、中国カラシナやササゲを乳酸発酵させた「酸菜」「酸豆角」などが、食が進む副菜としてよく食卓に上る。
素材同士の組み合わせとしては、アヒルの塩漬け卵とニガウリ、ホウレンソウと皮蛋、アサリとヘチマ、昆布と豆モヤシ、ニラと緑豆モヤシ、雪裏蕻(セリホン)と豆乾(押し豆腐)や百葉(薄くのした押し豆腐)、酸菜とガツ、腊腸(中華ソーセージ)と葉ニンニクなどがよく見られる。
野菜の食べ方を語るなら、下ごしらえについても語るべきだろう。わが家の料理上手なお手伝いさんなどは、買い出しから調理に至るまでの一切に細心の注意を払い、手を抜くということを知らない。そんな彼女と一日中市場を歩きまわると、多くのコツが学べる。例えば茎がパキッと折れない野菜は新鮮でないと言って買わないし、根菜はたたいて音を聞く。根菜は内側から腐り始めるので、音で分かるのだという。芽が出そうなものはダメ、ニガウリは白っぽくてイボが大きいもの、トウガンは皮が緑で中が白く、ずっしり重くてしっぽが黒くなっていないもの、セロリは緑が濃いほど良く、マコモダケの切り口を見て黒点があったりスカスカになっていれば、それは育ちすぎで新鮮ではない……。
お手伝いさんと一緒に買い物をして下処理をすると、丸一日を費やしてしまう。午前中いっぱいかかって市場で厳選した食材を家で選り分けるのに、さらに半日かかるからだ。今の野菜は成長促進剤が使われていて目に見えない化学変化が起こっているから、それぞれの薬剤が合わさって起こる化学反応を防ぐために、必ず野菜は仕分けしなければいけない、とお手伝いさんは言う。特にニンジンは要注意だそうだ。
お手伝いさんは酢、もしくは塩とレモンを加えた熱湯で包丁やまな板を洗う。冷蔵庫は野菜が蒸れて柔らかくなり、水分がなくなるからと嫌う。冷蔵庫保存が必須なのはホウレンソウ、アブラナ、小白菜(パクチョイ)で、注意深く水を吹き付け、通気性のある新聞紙やざら紙で包んで下段に立てる。冷蔵庫保存が可能なものは他にもいくつかあり、瓜類は悪くなりやすいヘタを切り落とし、種やワタを取り除いて新聞紙で包み、逆さに立てる。切ったトウガンはラップで包み、豆類は保存容器に入れて乾燥しないようキッチンペーパーをかぶせ、新ショウガもラップで包む。
とりあえず冷蔵庫に入れる必要がないニラ、中国セロリ、シュンギク、ネギ類などは、それぞれ束ねて浅いバットに立てておく。こうすることで乾きにくく、かつ腐りにくくなるという。ナスも表面に傷がなければ、冷蔵庫に入れなくても良い。香菜(パクチー)も冷蔵庫には入れず、紙に包んでからビニール袋に入れ、口を閉じずに保存する。私は時々自分で育てたピカピカの香菜を彼女にあげるのだが、その時はまず根を摘み取り、1~2日太陽に当ててから縛ってベランダにつるして保存している。食べるときにぬるま湯で戻せば、不思議なことにあの香りが見事によみがえるのだ。
彼女のトマトに対する忍耐力も大したものだ。熟しきっていないトマトはビニール袋に入れて口をしっかり閉じて保存するのだが、毎日袋を開けて10分ほど新鮮な空気にさらして再度口を閉じ、冷暗所で保存する。彼女がトマトが入っていたビニール袋をペーパータオルで丁寧に拭いているのを見て理由を聞くと、余分な水気を取っているのだという。こうすればトマトも優に1カ月は保つらしい。
お手伝いさんのベランダには、玉ねぎ、葉ニンニク、ジャガイモを入れたさまざまなカゴがある。万事がきちんと揃っているのが好きな彼女は、カゴはニンニクが整然と並ばないから嫌なようで、空気穴のある陶器の専用ポットで保存している。時には潰して小瓶に詰め、冷蔵庫で保存する。この小瓶一つで、大体半月は使える。
彼女のベランダには、土を入れた発泡スチロールの箱が時々出現する。彼女は冬のタケノコを土に埋めて保存するのが好きで、時にはひねショウガも埋めている。冬のタケノコの保存には特に慎重で、傷があるものや育ち気味のものは皮をむいてから軽く煮て、カゴに入れてぶらさげておく。これで10日間は保つそうだ。カゴはお手伝いさんが一番喜ぶプレゼントで、直射日光が当たらないキッチン側のベランダは、カゴで野菜を干すのにうってつけなので、保存野菜の菜園と化している。
チンゲンサイの葉はとても柔らかく、農家は虫除けのために多少農薬をまくので、お手伝いさんは料理前に流水に沈め、ゆっくりと農薬を洗い流している。キャベツなど葉が巻いている野菜は、切ってから洗う。葉物野菜は炒める前に湯通しし、すぐに冷水につければ鮮やかな緑色が保てる。ゆでるときは沸騰したお湯に野菜を入れ、少量の油をたらす。ホウレンソウ、空芯菜、マコモダケにはシュウ酸カルシウムが含まれるので、炒める前に必ず沸騰した湯でゆでるそうだ。
生活三宝・葱姜蒜
中国料理に欠かせない香味野菜の葱(ネギ)、姜(ショウガ)、蒜(ニンニク)は、中国人の「生活三宝」だ。香味野菜の刺激成分は皮膚から吸収され、血行を促し冷えを抑え、殺菌、増毛、除菌などの効果がある。中華料理の90%はネギで風味を加えたり肉などの生臭さを抑えたりできるので、私はネギ用植木鉢で育てて、いつでも使えるようにしている。
「冬に大根、夏にショウガで医者いらず」という言葉がある。私が子どもの頃、父が経営していた金山農場では新ショウガを育てて日本に売っていたのだが、真っ暗な栽培場に入るのがとても怖かったのを今も覚えている。そんな私も今やショウガなしでは夜も日も明けないほどで、特に冬場は冷えを感じるや、ショウガと赤砂糖のお茶で体を温める。スキーで海外に行くときも、その習慣は変わらない。真っ先に中国料理店に出向いてひねショウガを買い、宿でショウガ茶を煮て冷えを取る。ショウガシロップをかけた豆花(ごく柔らかい豆腐)は冬場のヘルシーな甘味で、ショウガ汁を牛乳にたっぷり加えた姜汁撞奶は、寒さに冷えた胃を温めてくれる最高の「飲み物」だ。
ショウガ汁やにんにくペーストは料理の生臭みを取って素材のうま味を引き立て、免疫力を高めてくれる。重症急性呼吸器症候群(SARS)がはやった頃、私は子どもたちに生ニンニクを毎日食べなさいと「命令」していた。
ニンニクはたたいてペーストにし、数分置いてから食べると、アリシンが生成されて健康効果が高まる。ニンニクの甘酢漬けは北方の加工品で、ギョーザと一緒に食べられる。ニンニクを食べ過ぎて口臭が気になるときは、牛乳を飲むと良い。金門には「黒ニンニク」と呼ばれる発酵ニンニクを熟成させたものがあり、ニンニク特有の辛味がなく食べやすい。
ネギや新ショウガは冷蔵庫保存が良い。料理で出たネギ、ショウガ、ニンニクの根本や皮などは捨てずに布袋に入れ、浴槽に沈めておくと血行促進の入浴剤となる。