豆腐と春雨

2024-10-29 09:43:00

食後のデザートとして親しまれている豆花は、沸騰直前まで温めた濃い豆乳を、あらかじめ深鍋で水溶きした塩水にがりとサツマイモデンプンに注ぎ入れて静置し固めたもの。それを平たい専用のおたまですくい取って食べる。 

豆腐乳(こうじをつけた豆腐を塩水漬けしたもの)作りで最も重要なのは、カビ付けと密閉発酵で、味付けは地方によって異なるが、基本的にはまず角切りにした豆腐に塩を塗って乾燥させる。それから先のプロセスは各家庭により異なるが、豆腐乳作りで難しいのは、弾力があるよう仕上げることと、温度と湿度のコントロールだ。台湾式の豆腐乳は少し固めの豆腐を選んで、周囲の固いところを切り取ってから角切りにし、塩をすり込んで天日で干す。何度か裏返しながら、表面が茶色っぽくなるまで干せば良い。途中生える白いカビは問題ないが、黒斑が出たら米酒できれいに拭き取る。斑点が出ている部分があまりに多ければ、その豆腐は使えない。 

次に天日干しした豆腐を湯通ししてから自然乾燥させる。小さく切ったパイナップルを瓶の底に敷き詰め、干した豆腐をのせ、その上に白ざらめと玄米を敷き詰め、再度豆腐を乗せて米酒を瓶の口から1~2下くらいまで注ぐ。最後にコーリャン酒を数滴たらしてふたをしっかり閉め密封する。そのまま2カ月以上寝かせれば完成だ。寝かせる時間が長いほど、まろやかな風味になる。人によってはパイナップルの代わりに大豆こうじやコーヒー豆を使うが、それはそれでまた違った風味になる。 

私は江蘇省の呉江で豆腐乳の作り方を学んだことがあるが、同地では切った豆腐をホコリよけの粗布で覆い、冬は保温のための布団をかけて、豆腐の表面が白いカビで覆われるまで発酵させる。一方、水に花椒と塩を加えて沸騰させ、すっかり冷めたところに黄酒(紹興酒を代表とする米が原料の醸造酒)を加えたものを作っておく。熱湯消毒して自然乾燥させた容器に豆腐を並べ、先の塩水を振りかけ、さらに豆腐→塩水を繰り返す。トウガラシの粉を入れても良い。容器がいっぱいになったら冷暗所でしばらく置き、カビが全て溶ければ食べごろとなる。 

豆腐乳は南乳や猫乳とも呼ばれ、なかでも良く見られるのは、紅腐乳、白腐乳、瑰(ハマナス)腐乳、中華ハム腐乳、ラー油腐乳などだ。清代の文人で食通の袁枚は当時の料理について記した『随園食単』で、「広西の白腐乳が最も良い」としているが、人それぞれの習慣や嗜好(しこう)があるから一概には言えない。私は遠方に旅行することが多く、時には現地の食べ物が口に合わないのだが、持参したひと瓶の豆腐乳が、あたかも近場の旅行のような気持ちにさせてくれる。 

「中国のチーズ」とも呼ばれる「臭豆腐」は、豆腐の角切りを「臭鹵水」(臭い漬け汁)に浸して発酵させたものだ。昔ながらの臭鹵水は、野生のヒユナ、冬瓜、ショウガ、花椒など数十種の野菜や香辛料を塩漬けにしたもので、次第に臭気を発して発酵が進み、発酵水となる。最初にできた臭鹵水は8~9カ月ほど寝かせれば発酵促進剤として使える。何度も使って薄まった時は、野菜をまた足せばいい。しかし今の時代、そんな悠長な仕事をする製造元はそうそうない。 

臭豆腐が不思議なのは、「臭いがおいしい」ということだろう。私が子どもの頃は、臭豆腐というと油で揚げて甘いタレと唐辛子味噌を少しつけるくらいのものだった。臭豆腐はヨーグルト同様、プロバイオティクスを含む食品だ。わが家のお手伝いさんも臭豆腐を自作するが、漬け汁の野菜はホウレンソウだけだ。洗って乾かし、細かく切ったホウレンソウを熱湯消毒して乾かした容器にぎっしり詰め込んで1週間も置くと臭鹵水の出来上がり。豆腐を浸ければ2日で臭豆腐になる。 

豆腐料理の他、わが家の得意料理には「乾絲」(細切りの押し豆腐)料理も名を連ねる。乾絲は切って売っているものではなく、押し豆腐を買ってきて自分で切る。白い押し豆腐がなければ煮しめて色がついた押し豆腐を仕方なく買い、味がついた表層を丹念に削いでから細切りにする。他の食材は一切不要で、鶏火清湯(金華ハムと鶏肉を煮出したスー プストック)と合わせるだけで十分おいしい。ごくごく細く切られた乾絲の味は確かに素晴らしいが、中華料理の「切る」技術の神髄を見ることができるのも、また大きな魅力である。 

台湾の市場で豆腐と並んでよく売られているのが、魚豆腐と芙蓉豆腐だ。豆腐と名付けられてはいるが、どちらも大豆製品ではない。魚豆腐の原料は魚のすり身で、芙蓉豆腐の原料は卵と鰹節だ。卵と片栗粉で作る「蛋豆腐」もあり、これは芙蓉豆腐よりも水分がやや少ない。 

大豆は多くの国で生産されているが、豆腐やその加工品はほとんど作られていない。気を整え、体熱を取ってくれる緑豆は、私たちにとっては素晴らしい暑気払いの食材だが、これも他民族の台所ではなかなかお目にかかれない。夏の必需品である緑豆湯(緑豆のスープ)は、緑豆が煮崩れそうになった頃に緑豆の粉を少量加えることで味がぐんと良くなる。緑豆からは粉絲(春雨)や粉皮(幅広の春雨)も作られ、いずれも中国人の食卓には欠かせない。緑豆粉100%の春雨はいくら煮込んでも決してとろけず、粘度が高く歯ごたえが良い。 

春雨は冬粉とも呼ばれる。豆を水に浸してすりつぶした液体をこして出たデンプンをよく練り、一般的な春雨の場合は漏斗状の器具に通して糸状に湯の中に落とし、火が通ればつるして乾かし、冷凍してから常温で解凍したものを乾燥して完成となる。春雨を使った代表的な料理には、「蟻上樹」(豚ひき肉と春雨のピリ辛炒め)「油豆腐細粉」(揚げ豆腐と春雨のスープ)などがあり、ダイエットのために春雨を主食にしている人もいる。刻んで野菜と混ぜ、ギョーザや精進まんの餡にすることもできる。台北の淡水には「阿給」という名前の有名な軽食があり、これは揚げ豆腐に春雨をたっぷり詰めてスープ煮にしてから甜麺醤をかけたものだ。 

手作り粉皮の工程は熟練の勘に頼る部分が多く、良質な豆選びも大切だ。緑豆デンプンを水と混ぜ、銅製の丸い型に少量すくって入れ、煮立った湯にくぐらせるとあっという間に火が通る。それをすぐ冷水に放って固め、型からはがして風通しの良い場所の干し台にかけて乾かす。しかも乾燥は完全にお天気任せで、晴れた日なら午前10時から8~10時間ほどで乾燥するが、天気が悪い日は作ることができない。 

水晶のような透明感がある粉皮は、キュウリと白ごまペーストであえた「鶏絲拉皮」(鶏の細切りと粉皮のあえ物)にすることが多い。「砂鍋魚頭」(魚の頭の土鍋仕立て)に、ニンニクの芽と粉皮を一緒に入れて煮込めば、粉皮のツルツルとした食感が心地よい、北方の人々が大好きな家庭料理となる。 

 

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