菜食(きのこ)
昔から、中国人にとって天然のキノコは山の宝物だった。元代の『農書』には、すでにシイタケの栽培法が記載されている。
2009年、私はシイタケの自家栽培を学んだ。太いホルトノキにドリルで穴を開け、菌糸を入れる。ロウを垂らして封をしてビニールで覆い、横にして地面に並べる。乾かないよう毎日水を少量かけ、ひと月ごとに木の方向を変える。1月の終わりに菌糸を植えた私の原木は、7月にビニールがとれた。その後は木を立てかけて水をたっぷりかけ、3~4日ごとに上下を返す。10月には肉厚のシイタケが次々と生えてきた。
初めての栽培の成功に、私は欣喜雀躍した。新鮮なシイタケは生食もでき、少量のオリーブオイルと塩を少々つけるだけで絶品のひと皿となる。たった5本の原木で10月から翌年3月まで収穫でき、わが家のシイタケ需要を十分にまかなった。雨が少ない時期は成長が遅くて肉厚になるが、雨が降ると一気にたくさん生えてきて、大きくはなるが薄くなる。自家製干しシイタケは、手作りをアピールしつつ友人にプレゼントすると、誰もが高級ギフトを贈られたように喜んでくれる。
シイタケを大量に栽培している友人は、乾燥用の倉庫まで建てている。彼はシイタケを大きな鉄の棚にしつらえた金網にずらりと並べ、地面に掘った穴の中で薪をくべていぶすという伝統的な方法で乾燥させているが、温度を一定に保たなければならないので、24時間ずっと見張っている必要がある。栽培もまた大変な作業だ。なぜならリスがシイタケを盗みにくるからで、リスよりも早起きし、明け方の4時にはシイタケの見張りをしないといけない。
キノコ類は天然のアルカリ性食品で、干したキノコは中国人にとって重要な調味料でもある。精進料理の多くは干しシイタケで味を決める。私の家では干しシイタケを冷水で12時間かけて戻すが、皿を重石にして余分な水分が入らないように工夫している。この戻し汁は、鶏スープの素や化学調味料などといった化学的なものよりも健康的だし、料理により旨味を添えてくれる。
キノコ類は光合成が不要で、栄養を分解してからタンパク質やミネラル、ビタミンなどを吸収し、成長のエネルギーに変えている。キノコの傘の裏には多数のひだがあり、無数の胞子が蓄えられている。胞子は風に乗って飛び散り、新たな命を芽吹かせる。胞子が飛び立つ前が、キノコの収穫に最も適している。
友人のおばあさんが100歳を迎えるということで、誕生日を祝いに行った。祝いの席でおばあさんは、毎日少量の白キクラゲと黒キクラゲを食べていると話してくれた。血管の詰まりを治療するための民間療法にも、キクラゲを使った料理が登場する。材料は裏が白いのが特徴のアラゲキクラゲを干したもの10㌘、豚肉の脂身がない部分50㌘、ナツメ5個、ひねショウガの薄切り3枚。キクラゲを水で戻したら他の材料と一緒に鍋に入れ、水をカップ5杯分加えて弱火で2時間以上煮込む。これを1日1回、25日間続けて食べる。キクラゲは血をきれいにし、血栓を予防できることが医学的に証明されている。白キクラゲは「庶民のツバメの巣」とも呼ばれ、コラーゲンが豊富で美容に良い。白キクラゲを柔らかくなるまで水で戻し、石づきを取り除いて水を加えてミキサーにかけ、リュウガン、ナツメ、ハスの実、氷砂糖と煮込めば、美容に良い白キクラゲの糖水ができる。白キクラゲは水戻しするとかなり大きく膨らむので、一つで1週間は食べられる。
中国の雲南、貴州、四川などの原生林は工業汚染がないため、世界で最も多く天然に近い状態でキノコが作られている。例えば精進料理でよく見るキヌガサタケは、深山の竹林で育つが、枯れやすいため天然ものは希少だ。味は淡白なので、乾燥ものを冷水で戻し、水気を絞ってからスープなどで含め煮に
して味を入れる。市場で見掛けるもののほとんどは栽培ものだ。キヌガサタケの色は淡い黄色だが、不自然に白いものは漂白されていると思って間違いない。
冬虫夏草はその名のとおり、冬には虫で夏にはキノコになる。標高3000~5000㍍の高地で育ち、雪線近くの草原にいるコウモリガの幼虫に寄生する天然の菌類だ。幼虫を栄養源として急速に成長し、虫と同じ長さになると、最も貴重な「頭草」となる。その後、虫の2倍ほどの大きさに成長したものは「二草」と呼ばれている。冬虫夏草は免疫力を高める効果があり、上物は金よりも高価で売られている。
これら山の宝物には、健康に良い成分が多く含まれていることが近年の研究で分かっているが、自然の状態での栽培が難しい。そこで菌糸の研究が進められ、冬虫夏草や霊芝などの栽培に広く応用されている。「台湾の宝」と呼ばれる天然の牛樟芝(ベニクスノキタケ)は、腐朽した牛樟の木切れの内壁にしか生えない真菌で、非常に稀少だ。私は阿里山でお茶に関する取材をしたとき、原住民が生えている場所まで連れて行ってくれるという話を聞いた。肝臓病に効くとされるので、抽出物を液体や顆粒にしたものが売られているが、効能についてはどれもいささか誇張気味だ。
霊芝は炎帝の末娘である瑤姫が転生したと言い伝えられており、中国の古典には不老長寿の薬草としてよく登場する。『白蛇伝』には、白素貞が恋人許仙を救うために仙人の霊芝を盗む感動的な物語が描かれている。
不思議な効能で知られる霊芝だが、数年前に家のリフォームで庭の土留め壁を取り壊していたとき、樹齢100年を数えるクスノキの根元で、一株の霊芝を発見した。意気揚々と植物学の教授に自慢したところ、霊芝は木の成長を阻害するものだと言われてしまった。霊芝は植物ではなく光合成が必要ない。樹木の下に生えて木の根から栄養を吸い取ってしまうため、木を弱らせてしまうそうだ。事実、霊芝を取り除いた後のクスノキは、以前よりも力強く育っていった。霊芝が大地の精気を吸い取るという古典小説の言説を、目の当たりにした出来事だった。
近年、霊芝の効能の研究が多く見られるが、2013年には台湾の研究機関が霊芝多糖体の抗がん作用を発表した。鍵は霊芝の多糖抽出物に含まれるフコースで、これが免疫細胞の増殖を促進し、がん細胞を抑制する役割を果たしてくれるという。