2026-01-29 14:50:00

中国の火鍋(鍋料理)は実にカジュアルで原始的な食べ物で、『清稗類鈔』(民国期の文筆家徐珂が編さんした清代の逸話集)にある「生火鍋」は、生の食材をそのまま鍋に入れて煮るだけ、という意味だ。 

アレンジ自在で、各家庭で味が違うのもまた魅力の一つ、好みの鍋つゆとつけだれを用意して、肉、海鮮、野菜などを好きに組み合わせれば、素材本来の味を楽しめるし、うま味が溶け込んだスープも味わえる。慈禧太后(西太后)は菊花火鍋を最も好んだという。味はもちろん、見た目も素晴らしいものだったに違いない。 

私が子どものころ、台湾地区で食べられる火鍋は東北地方の「酸菜火鍋」くらいなものだったが、1985年以降は日本のすき焼きやしゃぶしゃぶ、香港式の海鮮鍋などが続々登場、さらに韓国の石鍋を使った石頭火鍋、台湾独自の調味料沙茶を使った沙茶火鍋、麻辣センマイ鍋、羊のしゃぶしゃぶ、仕切りのある鍋に紅白2色のスープを入れたオシドリ鍋などが加わって、「鍋」の看板を掲げる店が日増しに増えていった。その後も、臭臭鍋(発酵豆腐にカビ付けした臭豆腐とモツの鍋)、トマト鍋、豆乳鍋、味噌鍋、かゆ鍋、レモングラス鍋、カレー鍋、中薬のスープで具材を軽く煮る養身鍋、中薬のスープで具材を煮込んだ薬膳鍋、鶏を花彫酒と甘めの味付けで煮た花彫鶏鍋、きのこ鍋、ロブスター海鮮鍋などが登場し、さらにはアヒルとショウガの漢方鍋姜母鴨やヤギの漢方鍋羊肉炉、豚モツとアヒルの血を固めた鴨血を激辛スープで煮込んだ台湾式四川鍋の「五更腸旺」までもが、「鍋戦線」に参入した。 

白居易の『問劉十九』には、「緑蟻新酒,紅泥小火炉。晩来天欲雪,能飲一杯無」とある。雪模様の夜に赤焼の小さな炉を囲んで新酒で一杯どうだろう、と友を誘う詩だ。赤く光る炉の炎の向こうに見えるのは、新酒の表面にうっすらと浮かぶ緑の酒かす。雪模様の寒い夜、友人と鍋を囲み、酒を酌み交わす――胃袋も心も温めてくれる、至福のひとときだ。 

私が子どものころに家で囲んだ鍋は、テーブルの上も、鍋の中も、そして人の声も、全てがにぎやかだった。立ったり座ったりして鍋をつつき、会話が弾むにつれて酒も進む。それはにぎやかな場を愛する人が大いに楽しめる場だ。鍋料理は、家族や友人と囲んでこそ風情あるものになる。火鍋店がいつも満席なのは、そこに理由がある。 

鍋の形も時代とともに姿を変え進化を続けてきたが、私は今でも昔ながらの北方の銅鍋が一番好きだ。中央に高い煙突があり、煙突の入口には炭火の火力を調整できる小さなフタがついている。母は家で友人をもてなすときに必ずこの鍋を取り出し、緑青ろくしょうは体に悪いと言って酢と塩で丁寧に磨いていた。食材の香りと炭火の煙が家じゅうに漂うなか、大人たちがにぎやかに話しながら白酒バイジウの瓶を次々と空けている……。鍋を囲んだ夜の情景は、どこか幻想的だった。 

鍋つゆは、気候や土地柄で違う。たとえば四川の麻辣火鍋。湿度が高い四川では、解毒作用がある辛い鍋で体内の湿を発散させ、病気を防ぐのだと地元の人は言う。四川人は年がら年中これを食べているので、辛さへの耐性がついているが、よそ者にとっては舌が焼けるように熱く感じ、頭皮までしびれてくる。汗ふきタオル持参で食べに行く友人もいたほどだ。 

四川には「青花椒」という強烈に痺れる緑色の山椒がある。麻辣火鍋の鍋つゆはには大量の油が使われているので、まるで油鍋のようだ。食材をそこにさっとくぐらせて食べるが、スープは基本的には飲まない。私は成都で初めてこれを食べたときには台湾の感覚で「鍋なのにスープを飲まないなんて」と無理やり数杯飲んだ。その夜、鏡の中に映る私は唇がふっくらとして妙にセクシーだった。 

鍋つゆ 

魚だしの鍋 

レンギョ(コイ科の魚)を白濁するまで煮出したスープは、何も加えなくても完璧な鍋つゆになる。 

かゆ鍋 

鍋つゆがわりに米の形が見えなくなるまでじっくり炊いたかゆで食材を煮る鍋。大鍋にたっぷりの水を張り、ごく少量の米を入れて米粒の形がなくなるまで2~3時間煮込みかゆを作るが、新鮮な中華湯葉と一緒に煮たり、仕上げに豆乳を加えたりすれば手軽に風味アップができる。かゆが食材を柔らかく包むため、なめらかな舌触りが楽しめる。ヘルシーで体への負担が少ない鍋として人気上昇中。 

酸菜白肉鍋 

東北地方の家庭が酸菜(乳酸発酵した白菜の古漬け)のために1年で60以上の白菜を買うのは、割と普通のことだ。白菜を丸ごと熱湯にくぐらせ、水気を切って冷ましたものをかめにぎっしり詰め込む。塩水で甕を満たしたら木の落し蓋をして空気中の雑菌を遮断し、さらに重しを乗せる。半年ほど漬ければ食べ頃だ。 

出来が良い酸菜は、程よい酸味、良い香り、良い歯ごたえ、後味の甘味が特徴だ。鍋に仕立てるときには細切りにしたものをラードで炒めておく。鍋つゆは、鶏の首や脚などゼラチン質の多い部位、魚の骨、ネギ、ショウガ、酒、水をしばらく煮たものを使う。そこへ炒めた酸菜、水で戻した干し貝柱、干しエビを加えてさらに煮込み、酸菜の酸味と旨味をスープにしっかり溶け込ませる。最後にかたまりのままゆでた豚バラ肉を薄切りにしたものを白菜の上から一面に敷き込み、塩と白こしょうで味を調えて5~10分ほど煮、肉の脂身がつややかに透き通ってきた頃が食べ頃となる。 

具材 

鍋でよく使われる食材は以下の通り。鍋つゆとの相性で組み合わせが異なる。 

薄切り肉 

牛肉、羊(ヤギも含む)、豚肉など、肉の種類を問わず、脂の入りが均一なものが良い。厚さは約4ほどに切る。一度に全部入れず、1枚ずつ鍋つゆにさっとくぐらせ、肉の周辺が縮れれば良い。「食べ頃は7秒半」という説もある。 

海鮮類 

ホタテ、エビ、イカ、カニ、カニカマ、エビのすり身、魚のすり身、魚の頭、カキ、ブラックタイガーなど。 

団子つみれ類 

蝦球(ゆでて丸まったエビ)、手ごね牛肉団子、魚団子、蟹味噌入り魚団子、貢丸(肉のすり身団子)、鶏団子、揚げた肉団子、野菜団子、エビ団子、脆丸(白身魚のすり身団子)、肉団子など。 

内臓類 

四川の鍋ものにはほぼ確実に内臓が入るが、牛センマイ、ガツ、シロ、マメ、ハツモト、ハチノス、コブクロ、テッポウなど種類も実に豊富だ。どの部位も臭みを取るために流水で20分ほどしっかり洗ってから下処理を行う。中華版血のソーセージの血腸は、豚腸に花椒、ネギ、コーリャン酒で風味をつけた豚の血を流し込んだものだ。鍋ものには弱火でゆっくり火を通し、ぶつ切りにしたものを使う。 

大豆製品 

揚げ湯葉、絹豆腐、堅豆腐など。 

野菜類 

白菜、キャベツ、春菊、玉ねぎ、とうもろこしなど。 

きのこ類 

エノキ、エリンギ、冬菇、オオシロアリタケ、ヤマブシタケ、シイタケ、フクロタケなど。 

根菜類 

コンニャク、山芋、にんじん、大根、さつまいもなど。 

主食類 

麺、板春雨、春雨、油条など。 

つけだれ 

とても自由度が高く、各人が好みの調味料を組み合わせてオリジナルの味をつくる。一般的に使われるのは、芝麻醤(ゴマペースト)、カラシ、醤油、黒酢、腐乳のつけ汁、韮の花の塩漬け、唐辛子味噌、おろしにんにく、ごま油、酒、レモン汁、酢、刻みネギ、刻み香菜(パクチー)、砕いたピーナッツ、大根おろしなどだ。テーブルにずらりと並んだ調味料は、色とりどりのパレットのように華やかだ。 

 

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