ネットゲームは「デジタル麻薬」?

2023-01-16 16:16:15

鮑栄振=文

最近、多くの業界が新型コロナの影響で成長が鈍化する一方、ゲーム業界が急成長している。筆者も、地下鉄の車内やショッピングモール、公園など多くの場所で、スマートフォン(スマホ)でゲームをしている人を見掛ける。オフライン(実際)のさまざまな活動が制限されている現在、オンラインゲームはインターネットユーザーの文化・娯楽のニーズを大いに満たし、ネットゲーム業界は収益額・企業数共に増加傾向にある。 

昨年2月に中国インターネット情報センターが発表した「第47回中国インターネット発展状況統計報告」によると、2020年6月時点で、中国のスマホオンラインゲームのユーザー数は延べ5億3600万人に達し、スマホのネットユーザーの過半数を上回る57・5%を占めた。予想もしなかった実に驚くべき数字だ。 

「ITをやっている人にゲーム嫌いはいない。ゲームはドラッグのようなリスクなしに、ドラッグのような利益をもたらす」――中国の大手IT企業・奇虎360の創業者で会長兼CEOの周鴻氏がこう語るのもうなずける。 

しかし、小中学生の子どもを持つ保護者の多くが、ネットゲームは小さな子に害を与える「デジタル麻薬」だと考えている。 

  

ゲームは非行の入り口か 

ネットゲームが子どもに害を与える「デジタル麻薬」という考え方は、中国全土を震撼させた02年6月16日のネットカフェ放火事件にさかのぼる。 

その日、北京市海淀区のネットカフェ「藍極速網」に、14歳と15歳の男子2人がネットゲームをするために入店しようとしたが、未成年者であることを理由に入店を断られた。怒った少年たちは、仕返しにガソリン約1㍑を店のカーペットにまいて放火。あっという間に炎は燃え広がり、店内にいた大学生など25人の若い命が失われる大惨事となった。 

この事件は子どもを持つ保護者に大きな衝撃を与え、ネットカフェやゲームは彼らの敵視の対象となった。これらは麻薬のように危険で、子どもに触れさせてはいけないという思いが広まった。このような背景の中、「ゲームは子どもの非行への入り口」と声を上げたのが、未成年者の権利保護の分野で大きな役割を果たしてきた北京の麗華弁護士だ。 

弁護士と彼が主任を務める公益団体「北京青少年法律援助・研究センター」は昨年6月1日、改正「未成年者保護法」が施行されたその日、ネットサービス大手のテンセント(騰訊)が運営する中国で最も人気のオンラインゲーム『王者栄耀』(オナー・オブ・キングス)は未成年者の法的権利を著しく侵害しているとして、同法に基づいて北京の裁判所に未成年者保護の訴えを起こした。 

弁護士はその後、『王者栄耀』を訴えたと知ったタクシー運転手から、興奮気味にこんな話をされたという。「うちの子も『王者栄耀』をやるようになってね、そのせいで親子関係がぎくしゃくしちゃって。15歳なので、しかるのも良くないし、と言って何も言わないわけにもいかない。この問題について誰か声を上げてほしいと思っていたんですよ」 

弁護士もマスコミのインタビューに対し、次のように語っている。国内のネットゲームは発展があまりに速く、『王者栄耀』などが未成年者の健全な成長に与える悪影響は非常に深刻だ。この問題を適切に処理しなければ、一つの世代だけでなく何世代も害することになる。だからわれわれは立ち上がったのだ。だが、実は弁護士より早くこの問題に声を上げた弁護士がいる。 

  

未成年者がゲーム会社を提訴 

西安市の趙亮善弁護士は1610月、同市の呉さんという女性から相談を受けた。呉さんの息子(11)が『王者栄耀』にのめり込み、スマホアプリの支払機能を使い、呉さんが知らないうちにわずか3日間で1万元近い「装備」(ゲームで使う武器・防具など)を買っていたというのだ。 

未成年者が自由にゲームにログインし、有料の取引ができることについて、呉さんは『王者栄耀』の開発元テンセントが何らかの責任を負うべきだと感じた。だが、テンセントに連絡しても何の返答もなかったため、怒りのあまりテンセントを訴えたのだという。 

呉さん母子の依頼を受けた趙弁護士は、無報酬で代理人を務めることにした。この事案はマスコミから「未成年者がゲーム会社を訴えた初の事例」と呼ばれ、大きな関心を集めた。20年4月に行われた2回目の審理では、双方の争点である「装備を買う」という消費行為が未成年者によるものであること、またテンセントが未成年者向けネットゲームでの有料サービスの提供禁止義務を履行していないことについて、原告側が次々と立証した。その結果、テンセントは和解を提案、原告への返金にも応じ、双方は和解に至った。 

趙弁護士にとって予想外だったのは、この裁判の代理人を務めた彼自身がたちまちネットゲーム業界の注目の的になったことだ。趙弁護士の元には、ゲームに病みつきになった子どもの保護者たちから、ゲームのせいで子どもの学力が落ちた、異常な行動をするようになったなどという訴えが次々に舞い込んだ。趙弁護士は、テンセントとの訴訟は単なる裁判ではなく、ますます深刻化するネットゲーム分野の問題を映し出していることに気が付いたという。 

趙弁護士が調べたところ、インターネットの急速な発展に伴い、ネットゲームにはまる若者があふれ、中でも未成年者がその主役になっていることが分かった。自制心が弱い未成年者はネットゲームに夢中になりやすく、学業や心身の健康が深刻な影響を受けるケースも珍しくない。また、ネットゲームに起因する未成年者の刑事事件も、この2年連続で増えていた。 

  

法改正と取り締まりで改善 

こうした問題を、監督当局も黙って見過ごしているわけではない。 

昨年7月、上海市普陀区文化観光局の監督部門が、上海のG社が運営するウェブサイト「一角獣」(ユニコーン)に対し検査を実施。同社のオンラインゲーム『決戦沙邑』(砂上の決戦)が、身元確認なしに未成年者がゲームにログインやチャージ(入金)ができることを突き止めた。 

これは、同事件の直前の同年6月1日に施行された改正「未成年者保護法」に違反するものだった。同法には、未成年者のネット依存症に関する内容が盛り込まれ、条文は改正以前(2006年公布)の72条から132条に大幅増加。新たに第5章「インターネットの保護」が設けられ、未成年者の個人情報保護やネットゲーム、ライブ中継などについて定められた。また、未成年者のネットゲーム「中毒」対策についても、サービス事業者に対し、実名認証や対象年齢の表示、長時間プレー防止システムの構築の義務などを定めている。G社はこの「実名認証要件」に抵触したのだ。 

事件後、G社は直ちに是正したため、当局もそれに免じて過料10万元という比較的軽い行政処分にとどめた。 

監督当局の厳しい取り締まりの下、多くのゲーム会社が改正「未成年者保護法」に従っており、毎日22時から翌朝8時の間の未成年者向けネットゲームサービスの停止や、保護者が子どものゲーム利用状況などを監督・制限できる「見守り機能」の設置――などの対応を進めている。その効果か、今では未成年者のネットゲームへの過度な没頭という問題は、かなり改善されてきている。 

 

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