「都会の宿り木」書店に集う人々

2020-10-26 16:03:19

邢菲=文・写真提供

新型コロナウイルス感染症による不況が続く中、以前取材した書店の店主が経営を維持するため副業を始めたと聞いた。広州市にあるこの24時間営業の書店「1200bookshop」は、2015年にCNNの「世界のクールブックショップ17軒」に選ばれた。中国でも若者の本離れが叫ばれているが、同書店は特に若者に愛されている。

広州は人口1500万以上、経済規模(GDP)は上海、北京、深圳に次ぐ中国第4位の都市だ。この大都会に中国では前例のなかった書店が出現した。最大の特徴は24時間営業。瞬く間に全国から注目を浴びるようになった。

40㌔離れたところから車で来た」

「ネットの書き込みで絶賛されていたのを読んだので、息子を連れてきた」

「週末ここで本を読むためにこの近くに家を買った」

1階の小さな入り口をくぐり狭い廊下を通って階段を上り、2階にある主な営業エリアに入る。250平方㍍のスペースに約2万冊の本がある。一番多く置いているのは文芸関係の本。

ここは書店というより、まるで書斎だ。窓際の明るい場所には大きなソファーがいくつか置かれ、客は皆コーヒーを片手に読書をしている。飲み物を1杯注文すれば、本を買わなくても、封をしていない本なら全て読んで構わない。さらに「無料読書エリア」には簡易な机や椅子が設けられ、何も注文しなくても読書が許される。

客層は10代~30代が特に多い。平日の利用客は1日平均400人、週末には1300人にもなる。本を購入するというより、ここにしかない時間と空間を求めにやって来る。

 

24時間営業の書店「1200bookshop」

ある20代の女性が1200bookshopとの出会いを語ってくれた。「最近いいことがない。仕事を辞めたし、彼氏とも別れた。ルームメートとももめて連絡を取らなくなった。あの夜は行くところがなく、人生で最悪の日だと思った。そんなときにこの書店を見つけた。深夜なのに明かりがついていた。ホットミルクを注文し、本を読み始めた。いつの間にか眠ってしまった。この書店があって良かった」

階段の両側の壁一面に、書店を利用した人たちの心情が書かれた紙が貼られている。「私の心にいるあなた。一緒に本屋に来ると約束したのに、結局来たのは私だけ」

24時間営業のため、時折家出少年たちが迷い込んでくる。そういうときは、ただ警察に通報するのではなく相談相手となり、家に帰るよう説得するという。陳さん(23)は、5カ月前にふるさとを離れて広州に来た。1カ月前から夜に泊まるようになった。「ここをとても信頼している。ファストフード店で眠るときなどは、いつも荷物が盗まれることを心配していた。この書店なら荷物をどこに置いても安心だ。携帯を充電したまま外に出たりもする。読書好きなら、悪いことをしないはずだ」

深夜の町で、この書店はまるで灯台のように光っている。コーヒーを注文するホワイトカラーからスリッパを履いているホームレスまで、さまざまな事情を持つ利用者がソファで眠っている。窓に書かれた一文がこの書店の目指す役割を黙々と語る。「為一座城市点燃一盏深夜的灯」(深夜の町に明かりをともす)。

書店のモットーを考えたのは、店主の劉二囍さん(36)。13年前、ふるさとから進学で広州にやって来た。大学卒業後、建築会社に就職したが、やりがいが感じられず台湾へ留学。その間、バックパッカーとして歩いた台湾一周の距離1200㌔が店名の由来だ。

「そのときにたくさんの書店を訪ね、人情をたくさん味わった。例えば、多くの人が車に乗せてくれたり、食べ物や水をくれた。家に泊めてくれた人もいる。私の心を温めてくれたようなことを24時間営業の書店を通して人にできないかと考えた」。二囍さんはソーシャルメディアで24時間営業の書店に出資したい人を募ってみた。わずか2カ月で1号店を開くことができた。

取材中のある日、武漢から30代の女性がやって来た。ネットで書店の高い評価を知り、経営している六つの会社を休み、わざわざ見学しに来たという。「今、自分の抱えている事業は行き詰まっている。人々の心のニーズをつかめていないからだと思う。この2~3年、武漢には人の心を温められる場所がない」

彼女は二囍さんにアドバイスを求めた。「以前、ここと似たような書店に行ったとき、もう2度と行かないとクレームの電話をしたことがあります。スリッパや上半身裸で来ている労働者が店にたくさんいました。そういう格好をする人はそもそも本を尊重していないと思いました」

「他の客に迷惑をかけなければ、スリッパでも問題ないと思います。書店は一部の限られた人のためだけでなく、ホームレス、労働者、清掃員にも役立つべきだと思います。社会の底辺にいる人たちのための書店がそれぞれの町に必要です。本を買える人たちのために豪華な書店を開くなら、買えない人たちはもっと本離れになってしまうでしょう」

「自分がクレームをつけたことを後悔しています。本当に勉強になりました。感謝しています。ハグしてもいいですか?」女性経営者の顔に納得の笑顔が現れた。

「私は安徽省の小さな村に生まれ、中学校に進学するとき村を離れた。私の親戚たちは出稼ぎ労働者として大都会に行く。彼らは大きな町に着いたら駅で寝ることもある。仕事が見つからなかったり、クビになったりしたときの彼らの無念さを私はよく分かっている。もし田舎から出て来て寝床を見つけられないでいる人が私の書店に現れたら、私は自分の親戚たちの苦労を思い出して助けてあげたいと思う」。こう話す二囍さんの目には、涙のようなものが光っていた。

撮影班が広州を離れる前夜に、20代の女性がスーツケースを引っ張りながらやって来た。「テレビ番組でこの書店のことを知り、興味を持つようになった。広州はにぎやかな町。ブルジョアな雰囲気に満ちていると思うが、自分には遠い存在でしかなかった。この書店でたくさんの夜を過ごした。誕生日の日もここで過ごした。落ち込んだときも、うれしいときもここに来た。私は農村の出身だ。農村と都市との差は大きいと思う。都市部では図書館や書店など教育資源が豊かだが、私のふるさとにはいまだに書店がない。いつかふるさとで自分の書店を開きたい。農村の子どもに本を読むチャンスを与えたい」。広州での最後の夜を書店で過ごし、翌日の早朝、女性はふるさとに向かった。

武漢の女性経営者は見学の3カ月後、1200bookshopのような書店を武漢で開いた。新型コロナウイルス感染症が一番ひどかったときには、経営維持のため、3カ所の不動産を売り出す広告をソーシャルメディアに出した。一方、二囍さんは2軒の書店を閉店したが、デザイナーの仕事を再開しながら残りの5軒のために踏ん張っている。その努力の原動力は以前の取材時にすでに教えてくれていたと思う。

「私はいい人でありたいわけではない。人からもらった温もりを他人にも分け与えたいのだ。今の中国人の読書数は先進国の人とは比べものにならない。中国人が読書好きになれば、それは大きな進歩だ。数年後、きっともっと多くの人が本を読むようになると信じている」

 

書店内の階段で本を読む人たち。両側の壁には心情が書かれた紙がたくさん貼ってある 
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