「老地方麺館」のねこ

2017-12-28 15:42:45

文=萩原晶子 写真=長舟真人


 上海市内の古い商店や食堂には、たいてい店番ねこが飼われている。店番ねこは、看板ねこでも店主のペットでもない独特な存在だ。彼らが飼われる目的はネズミや害虫退治だが、毎日それらが出るわけでもないので、基本的にはただ店先にいるのが主な仕事。店主とも客ともつかず離れずの関係を保つことができ、落ち着いていて頭がいいことも店番を任される条件となる。


             サビトラの母猫                             今までに3回出産。現在は5か月の息子と暮らす

 襄陽南路に位置する「老地方麺館」の店番ねこは、推定10歳の母ねこと生後5か月の子どもの2匹。サビとキジトラが混じった毛皮のほうが母ねこで、この店に居ついて8年だという。名前はつけていないそうだが、店主の呂茂玉さんは「とにかくやさしい性格のねこ。人の話もとてもよく聞く」と、仕事のパートナーとして彼女を絶賛する。

「老地方麺館」は上海有数の老舗麺料理店

 「老地方麺館」は、開店時間の朝6時半から満席の状態が続く人気店だ。店内の3つの円卓が相席の客でぎっしり埋まり、外には席が空くのを待つ人だかりができる。特に混みあうのは人気の「現炒浇頭麺(注文後に炒めたおかずをのせた麺)」が出る時間帯で、その間ねこたちはテーブルの下でじっと息を潜めている。「仕事だから店内にはいるが、注目はされたくない」ということだ。客はもちろん、店主の呂さんにさえもなでられるのは嫌いだという。

赤いけれど辛くない、上海の伝統的な麺の具材が並ぶ

 朝9時半、「現炒浇頭」を作る厨房の人たちが休憩に入ると、「浇頭麺(作り置きのおかずをのせた麺)」の時間になる。角切りの根菜や干し豆腐を甘辛く炒めた辣醤、厚みのある湯葉を結んだ百叶結の醤油煮など、昔ながらの上海の麺の具がテーブルに並ぶ。客足がゆるやかになってくるとねこたちはテーブルの下から恐る恐る出てくる。

店主の呂さんとねこの関係は、理想的な「つかず離れず」の距離

 「ほら、おかずが並んでいても絶対テーブルに飛びのったりしない。本当にやさしいねこ」と、呂さん。褒めながらなでようと手を伸ばすと、ねこはとても嫌そうに顔を背けていた。

老地方麺館
上海市襄陽南路233号

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