小倉和夫 国際交流基金顧問
聞き手=呉文欽 写真=陳克
2018年に入り、中日関係は改善の兆しを見せている。政治経済では「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」協力での具体的な模索に入り、文化交流では中日合作映画が続々リリースされ、両国での好評を得た。
中日平和友好条約締結40周年を迎える今年、過去の経験からいかに学び、現在と未来に目を向けた場合、どのような領域において新たな協力関係を結ぶにふさわしいかを考える必要がある。そこで今回は、元フランス大使で現在国際交流基金顧問を務め、近年積極的に中日交流事業に携わる小倉和夫氏に話を聞いた。民間交流が依然として中日関係の基礎となる今、小倉氏は「一帯一路」が両国の新たな協力関係の「触媒」だと語る。
――昨年中日両国の首脳が数度にわたる会談を行い、両国関係改善の兆しが見えています。中日関係の現状をどう見ていますか。
小倉和夫氏 全体的に良い方向に向かっており、特に若い人の間では交流が順調に進み、親近感もあると思います。しかし国民全体の好感度が完全に改善されたといえるにはまだ至っていません。半分は政治の責任ですが、半分は国民自身の責任だと思います。少子高齢化社会などにより将来に不安を抱き、活力がないなか、非常に元気がいい中国に一種の警戒感を抱くという現象が日本の国民に広がっています。その解消には、発展した中国に対し自信を持って向き合う姿勢が必要だと思います。
また、日本人の高齢者は中国史や唐詩、『紅楼夢』『三国志』などの古典を知っていますが、若い日本人は今の中国を知っていても中国の昔の文化をあまり知りません。これはとても残念なことで、文化を通じてもっと中国を知る努力が必要です。日本文化の元となる中国文化を理解することが、今後の日中友好にとっての礎になると思います。もちろん中国の人々にもより日本を知ってもらいたいですが、過去よりもむしろ日本の「今」を理解してもらいたく思います。中国からの観光客が増えている今は、日本理解の促進に格好の機会でしょう。
――文化交流で理解を深めるということですね。
小倉 日本が内向き思考を外向きに転換するのと同時に、大国になった中国も国外に向けどのようにふるまうべきかを考える時期だと思うので、両国間の協力を実現することは非常に望ましいことだと思います。
その点、2020年の東京五輪、22年の北京冬季五輪と続く今はスポーツで理解を深めるチャンスです。また、『空海−KU‐KAI− 美しき王妃の謎』のような合作映画や演劇共演などの「協力」にも期待しています。
今までは文化というと「交流」が主な流れでした。これももちろん大切ですが、少々時代が古いように思えます。なぜなら、「交流」は日本文化あるいは中国文化を紹介し合う、一方通行の発信方法だからです。対して「協力」は何かを一緒に創り出す行為で、今後はその精神を大切にしていくべきだと私は考えています。映画の共作や両国の俳優の共演などの「協力」は、今後の日中関係における大きな柱になるのではと私は見ています。
――今年は周恩来総理生誕120周年ですね。1990年代に『パリの周恩来』という本を執筆されたきっかけと、周恩来総理の中日関係への貢献について評価をお願いします。
小倉 1970年代に人となりを知ってから、私は周総理を非常に敬服しています。周恩来総理は最後まで革命の精神に忠実に生きた、勇気ある方でした。革命の情熱に駆られた人間はどうしても極端に走りますが、周総理は革命家としての情熱と政治家という立場を見事に両立しています。
周総理同様、海外暮らしでさまざまな体験をしたこと、孫文以降の中国人の日本留学について調べるうちに、周総理の体験を詳細に調べてみたいと思うようになったのが執筆のきっかけです。嵐山にある「雨中嵐山」の碑文や周総理が通ったといわれる神保町の中華料理店を訪ねたり、フランス滞在中に周総理が滞在したホテルを見学したりして、自らの体験と周総理の体験を重ね合わせるにつれ、周総理の「人」としての魅力に深く魅入られました。
周総理は非常に人間味あふれる、豊かな人間性を持った方でした。日中国交正常化の実現に、周恩来総理が果たした役割は大きかったと思います。その際の「日本国民も中国人民も、頭に置いておかなければいけないことが一つある。共に戦争の犠牲者だった。それを忘れるべきではない」という言葉は、特に忘れてはいけません。今はこの「共に犠牲者だった」という視点が忘れられることが多いように思えます。
――今年は中日平和友好条約締結40周年です。過去の経験が中日関係の健全化や安定化に生かせると思いますか。
小倉 日中国交正常化は決して一夜にしてなし得たものではなく、政治的指導力と長期的民間交流の双方があって実現できたということを、私たちは忘れてはいけません。政治指導者が指導力を発揮し、両国首脳が友好関係を結ぶことも大切ですが、その根幹を支えるのは民間交流です。民間交流の増加には、両国首脳の政治的指導力が不可欠ですし、逆に指導者が友好関係を保つためには、民間交流が盤石でなければいけません。官と民の両者が相まってこそ、日中関係の将来は安定的に発展するものと思います。
しかし民間交流を拡大させるためには、政治が介入すべきこととすべきではないことを分けて考える必要があります。政治的指導が必要な部分は別として、政治が自らを抑制し、民間のイニシアチブに任せておく部分も必要です。
――昨年5月に安倍首相が「一帯一路」の支持を表明して以降、協力関係を積極的に模索する動きが出ています。「一帯一路」で両国はどのような協力が実現できると思いますか。
小倉 「一帯一路」は有意義な概念だと思いますが、日本国内では「新しい中華秩序」「中国覇権の現れ」と見る人もいるようです。しかしこの見方は間違っていると私は思います。中国が国際責任を果たす意欲を持っている証拠と見るべきでしょう。
世界的課題を解決するため、日中両国は米国や他国も含めた協力を行う義務があると思います。大国となった中国と先進国の一つである日本はアジアで指導的な立場に立ち得る国として、世界的な課題にどう向き合うか、国際社会に向けいかに責任を果たすかで協力し合うべきで、また協力し得ると思います。「一帯一路」は、世界的な多くの問題を解決していく上でのプラットホームになり得ると思いますし、またそうなってこそ、「一帯一路」のコンセプトにも意味が出てきます。中国の覇権確立のためではないと発想を転換すれば、非常に有意義なものだと気付くことができるでしょう。
具体的な協力方法ですが、陸、海、空の三つに分けた上で、協力体制の構築を行うのが良いでしょう。陸の観光、運輸、インフラ整備、海の漁業、海洋開発、空の宇宙開発、航空、航空安全などさまざまな分野での協力が期待でき、各分野における世界的課題や共通課題で日中が協力するための触媒的作用に大いに期待しています。
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