「医療観光医療」を中国からに発信 飯泉嘉門徳島県知事インタビュー

2018-06-19 14:03:16

  聞き手=于文 写真=呉文欽

   

2017年秋、上海環球金融中心最上階の100階で「天空の舞い」を披露する徳島県阿波踊り協会選抜連(写真提供徳島県)   

 「手を上げて、足を運べば阿波おどり」と言われるほどシンプルな動きを情熱的なリズムに乗せ、阿波おどりの知名度は海を越えて中国にも伝わった。2017年には700万人の中国大陸からの観光客が日本を目的地に選び、グルメや温泉、買物などを楽しむ中、「医療観光」という徳島独自の観光資源に着目する人が増え始めているようだ。

 他の都道府県に比べ、徳島県と中国の間には目立った交流があるとはいえない。しかし「阿波おどりと医療観光」という独自の観光資源は、広い中国でも日々注目が高まり、情報が交流を呼び、交流が互恵を生んでいるようだ。その歩みを飯泉嘉門徳島県知事に語ってもらった。   

飯泉嘉門徳島県知事   

——初訪中ではどちらに行かれましたか。

飯泉 湖南省です。湖南省といえば毛沢東主席の生誕地として知られていますが、張家界の風景は『三国志』の劉備ゆかりの白帝城や峨眉山など、四川省の街並みや景観に近いものを感じました。

 知事就任前にもさまざまな局面で、中国の皆さんとは交流を育んできました。山梨県の課長当時の1990年には、山梨県と四川省の友好提携5周年記念で四川省長訪日の受け入れを担当しています。劉備はまさに四川省蜀の国の人ですよね。翌年も課長を続けていれば四川省の成都に行けたのですが、残念ながら交代したため、実現できませんでした。   

——三国時代の人名や地理にお詳しいですね。三国志ファンなのでは。

飯泉 はい。小学6年生の時に本屋で偶然手にした、岩波文庫の『三国志』の挿絵に引かれたのが出発点です。試しに1冊買って読んだら面白くて、全巻読破してしまいました。中学に入学してからは、春秋戦国から隋唐までの『十八史略』を漢文で読むことで、『三国志』とは別の中国と触れ合うことができました。春秋戦国時代も好きですよ。漫画誌の『週刊ヤングジャンプ』連載中でアニメ化もされている『キングダム」は、始皇帝が全国制覇を目指す段階を描いたもので、好きな作品の一つです。小学校のころから中国のさまざまな時代に起こったストーリーに触れることで、特に歴史に関心を持ち続けています。   

徳島県の霊山寺は四国八十八霊場の第一番札所。四国にある88の寺院は空海が幾度もめぐり修行をした場所と言われている(写真提供徳島県)   

——初訪中で湖南省と友好関係を結びましたね。きっかけを教えてください。 

飯泉 2010年の上海万博です。大阪府がパビリオンを持つということで、関西広域連合でチームを組んでいる私たちも、上海万博と大阪を盛り上げるべく、5月に徳島ウイークを展開することになりました。そこに湖南省の代表団が来場して意気投合したのです。翌年の11年には湖南省を訪問して友好提携を正式に結び、四国大学と湘潭大学の学術交流も決定しました。

 その際、長沙黄花国際空港の拡大が話題になり、徳島県もちょうど徳島阿波おどり空港を沖合展開して2500メートルの滑走路を建設する計画があったため、お互い直行便を出し合って交流を深め、観光地の友好提携も行おうという話に発展したのです。この訪問は鳴門市長も一緒だったため、張家界市と鳴門市という大きな観光地を結び付けようということで、その調印式には私も立ち会いました。

   

湖南省と徳島県の縁は観光資源で結ばれたとも言える。湖南省の張家界市は旅行都市として成立した。武陵源風景名勝区(写真・鄧道理)は世界でも珍しい珪岩の石柱が立ち並ぶ景観が評価され、中国における第一陣の世界遺産と世界第一陣の地質公園に指定された。また、徳島県といえば鳴門市のうず潮(写真提供徳島県)が有名だ。鳴門海峡の潮流は平均時速13-15キロの速度で流れていることからうず潮が発生し、世界3大うず潮にも選ばれている。

——1973年の天津と神戸の友好都市提携以降、締結された友好省市は251にものぼりますが、徳島県と湖南省の友好交流の特色は何でしょうか。 

飯泉 湖南省とは2012年に本格的な交流を始めましたが、湖南省の方々は徳島の医療に大変注目され、まずは定期チャーター便の就航に着手しました。

 徳島県は全国に先駆け、「医療観光」というコンセプトを打ち出しています。文科省は現在、糖尿病治療に関する教育機関への補助に力を入れていますが、徳島はこの方面に特に力を入れており、糖尿病合併症の治療薬や検査用機械の開発などを行っています。その結果、世界レベルの糖尿病一大研究開発拠点という国のお墨付きの下で補助金をもらい、徳島大学を中核とした研究開発を大塚グループも参加して行ってきました。中国でも糖尿病が急増していることから、徳島県との提携には大きなメリットがあるということです。しかし糖尿病はがんのように急を要する病気ではないため、観光しながら最先端の医療が受けられるという、「健康と観光の両立」を考えたプランを打ち出したところ、それが受け入れられ、多くの方々に訪問していただきました。 

——中国との交流で、徳島県の発展に一番役立っていると思われる要素は何でしょうか。 

飯泉 上海万博で徳島の情報を発信したことで湖南省との縁ができた経験から、同年11月に上海事務所を設立し、上海から中国全土に向けて徳島の情報を発信しています。

 事務所設立は、今や世界の大国になった中国で、阿波おどりや医療観光といった徳島独自の観光資源をより広く発信していくことが、大変重要だと思われたからです。17年秋には、阿波おどりのインパクトをコンテンツのベースに、医療観光を中国全土に発信する「とくしま医療観光フォーラムin上海」を、上海環球金融中心の文化メディアセンターで開催しました。

 今は中国でも徳島がさまざまな形で発信されています。最もインパクトがあるのはやはり阿波おどりのようで、大きなイベントでは「ぜひ阿波おどりを先頭に」とオファーが来ますが、今後は中国での知名度をさらに高め、医療観光での訪日促進や徳島からの中国進出で、交流を盛んにしていきたいと思っています。徳島からはすでに大塚グループをはじめ、日亜化学工業などの37社が中国への進出を果たしていますが、今後は中国での知名度をより高めていくことが、交流の大きなポイントになると思っています。   

大塚製薬グループ旗下の大塚国際美術館は、大塚製薬創業の地である徳島県鳴門市に設立された、世界初の陶板名画を展示する美術館。陶板の特殊印刷技術を用い、原作と全く同じ大きさに作成された複製品が展示され、世界的に有名な古代の壁画から現代アートまでの幅広いコレクション1000点あまりを有している 

——「中日平和友好条約」締結40周年という節目の年に際し、徳島県のトップとしての中日関係に対する期待や、将来的にどのように中国と付き合うべきだという提案はありますか。 

飯泉 今年の「日中平和友好条約」締結40周年、2年後の東京オリンピックパラリンピック、さらにその翌年の21年には、生涯アスリートの祭典であるワールドマスターズゲームズがアジア初の日本で開催されるなど、日中間の友好交流を深めるチャンスは多々あると感じています。ワールドマスターズゲームズは、徳島も加盟している関西広域連合が受け入れをし、徳島も競技地になっていることから、多くの中国の方々に利用していただければと思っています。またこれを機会に、スポーツはもちろんのこと、学術や子ども同士の交流、経済交流、医療観光など、別分野での発展にも期待が持てるでしょう。この40周年を契機に、医療観光をはじめとしたさまざまな交流がより進むことに期待しています。

   

飯泉知事から『人民中国』へのメッセージは「一期一会」。「人生の一瞬は決して重なることはありません。日中両国は一衣帯水、始終顔を突き合わせることができる距離であっても、両国間の交流ひとつひとつに『一期一会』の気持ちで大切に当たるべきだと私は思います」とその意味を語る

   

「中国の発展には特に注目している」と語る飯泉知事に、『習近平 国政運営を語る』の日本語版第1巻と中国語版第2巻を贈呈

徳島と言えば誰もが思い浮かべる阿波おどり

 

 

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