呉文欽=聞き手・写真
「真実はいつもひとつ」――中国の「80後」「90後」(1980年代、90年代生まれ)にとって、『名探偵コナン』の主人公・江戸川コナンのこの決めゼリフは、幼いころの思い出そのもの。だから、2015年3月に旧鳥取空港が「鳥取砂丘コナン空港」に愛称化した時にも、ネットを中心に中国では大きな話題となった。
アニメの他にも、鳥取県は砂漠化防止などの環境保護や、河北省、内蒙古自治区との間に結ばれた熱い友情で中国と深く関わる。そして、安倍晋三首相の昨年10月の訪中に随行し、「第1回中日第三国市場協力フォーラム」に出席した平井伸治鳥取県知事は、吉林省との協力関係をつくる新たな場として、中国が推進する「一帯一路」に今、熱い視線を注いでいる。
平井伸治 鳥取県知事
――安倍首相が昨年10月に訪中し、「第1回中日第三国市場協力フォーラム」に参加した際、知事も同行されましたね。知事と中国との縁をお聞かせください。
平井伸治知事 日本海に面した鳥取県は、大陸からの文物が古くから多数到来する、中国大陸に最も近い地域だと私は思っています。遺跡からは2000年前の中国の貨幣も見つかっているほど、中国とは長きにわたって交流してきました。
今は東京が日本の中心で表玄関だと思われていますが、時代をさかのぼれば、大陸に近い地域の方がむしろ最先端でした。また、世界のナンバー1になろうとしている東アジア経済圏の中心・中国に向き合う形で位置することを、私たち鳥取県は大切に考え、交流を続けて来ました。さらに鳥取県は、日中友好をLT貿易で支えた政治家の一人・古井喜実先生の出身地です。その影響から河北省と長く交流を続け、おととし末には吉林省とも姉妹提携を結びました。
特筆すべきは、鳥取大学の遠山正瑛先生による、内蒙古での植樹で砂漠化を食い止める砂漠緑化運動です。全国からのボランティアが中国で100万本のポプラを植えたことが評価され、「中国政府友誼賞」を受賞しました。
私自身は鳥取県の総務部長だった2000年7月、河北省の石家荘市で開かれた、中国財政部と同省が主催する「日本地方自治財政セミナー」に出席するため、初めて中国を訪問しました。その時に、長年友好を培ってきた歴史があるからこそ今の交流があるということを実感し、古い友人として迎えていただいたことにとても感謝しました。
「第1回日中第三国市場協力フォーラム」に参加する前、吉林省と第三国市場協力の調印をしました。これは、中国第一汽車グループと鳥取の部品産業の提携の可能性を探ったり、航路で日本海からロシアを経由して吉林省に入る物流ルートの試験運航を行い、その経験をもとに「一帯一路」とも重なるプロジェクトを、今後の第三国市場での協力につなげていくための調印でした。
人民大会堂では、日中の経済界の要人や政界、行政の関係者と登壇し、『名探偵コナン』や『ゲゲゲの鬼太郎』の街・鳥取を、中国語を交えつつ紹介したところ、高い関心を持っていただけたようでした。さらに、共に友情を育みたいという思いを込めて「朋友」という歌のさわりを中国語で歌ったところ、まるでコンサートのように来場者の皆さんが唱和し、その盛り上がりに驚いて歌詞を忘れてしまいました。まさか人民大会堂で中国の皆さんと一体感を得られるとは想像もしていなかったので、本当に感激しました。
――『名探偵コナン』は中国でも大人気ですので、出席者も関心を持ったのでしょうね。
平井 鳥取県を中国のお客様に紹介する時には、温泉や砂丘よりも「マンガの街」という紹介の方がすんなりと理解していただけるようなので、中国向けのPR方法として、まんが王国のプロジェクトを進めています。
鳥取空港が15年3月に「鳥取砂丘コナン空港」に愛称化した時には、中国の微博(ウエイボー、SNSの一つ)での反響が予想外に大きく、「コナンの名前で空港を作ったら、毎週鳥取で殺人事件が起きるのではないか」といったジョークも出たということでした。空港の名前から「まんが王国とっとり」を広く理解していただき、良かったと思っています。
――鳥取砂丘は、中国人の間でも人気が高まっている観光名所ですが、砂漠化防止研究の一大拠点とも聞いています。研究を中国の砂漠化防止に活用することはできますか。
平井 鳥取大学の遠山先生が始めた植樹プロジェクトも、当初は100万本のポプラを植えるなど無理だと言われました。しかし先生は、「一本一本から始めなければ砂漠の緑化はできない」と主張されました。
鳥取県には、世界中の砂漠を緑化して農業に利用するための「乾燥地研究センター」があり、遠山先生は、鳥取の砂地にスプリンクラーを設置して農地に転換するパイオニアでした。その経験から、中国の黄砂が韓国や日本にも飛来することに思いを致し、砂漠化を食い止めて緑化を進めていこうと決意されたのです。この考えに人々が呼応して全国的な運動となり、多くのボランティアの参加により目標が達成されたのです。
この経験から、鳥取県は砂漠の緑化のノウハウとスピリッツを持っています。例えば最近も小渕恵三元首相の名前を冠した「小渕基金」を使い、倉吉市民やNPOの方々が河北省での緑化活動を推進するなど、中国の緑化に取り組み続けています。また、鳥取砂丘にある鳥取大学の「乾燥地研究センター」は、ゴビ砂漠やサハラ砂漠など世界中の砂漠と衛星通信を使ってリアルタイムで情報を共有し、砂漠化対策のノウハウを世界に発信していますので、今後は中国との協力もできればと思っています。
「鳥取・吉林ADAS(先進運転支援システム)・EV(電気自動車)プロジェクト」推進に関する覚書に調印し、握手を交わす平井伸治知事(左)と景俊海吉林省長(昨年10月25日、北京で。写真提供・鳥取県庁)
――中日関係の発展と地方間交流・協力について、どのような青写真を描いていますか。
平井 日中関係は現在改善の方向に向かっていますが、国や政府同士ではいろいろなことが起こりうると私は思っています。しかし鳥取県には2000年以上にわたって中国と交流をしてきた歴史があり、中国との友情を育んできたパイオニアだという自負があります。また、人と人や地域と地域の交流を築いていくことが、未来に向かって大きな役割を果たしていくと思っています。
人同士、異文化同士が理解をすることが大きな土台となり、国同士の関係を発展させます。土台が大きければ、たとえ嵐が起こっても、大地はしっかりと残るはずです。鳥取に住むわれわれは歴史的な使命感を感じつつ、河北省や吉林省との友好関係を中心に、日中友好を育んでいきたいと思っています。さらに今年は、上海などからのチャーター便の実現や、それに向けた具体的なプロモーションも強化することで、より広範な交流を結んでいこうと思っています。
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