進藤榮一・一帯一路日本研究センター代表:共同研究機関で協力強化
呉文欽=聞き手 続昕宇=写真
進藤榮一・一帯一路日本研究センター代表
今月、第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムの開催が北京で予定されている。そして先月末までに、「一帯一路」に賛同し、中国との協力を示す文書に調印した国と国際機関はすでに150以上に達している。昨年10月、安倍晋三首相は訪中時に第1回中日第三国市場協力フォーラムに出席し、中日各界は52の協力覚書を締結した。両国の政治・経済界は、「第三国市場協力」によって中日両国が正式に「一帯一路」の協力を始めたものと見なしている。
米国国際政治を専門とする筑波大学大学院名誉教授の進藤榮一氏は早くから「一帯一路」に注目し、2017年には、日本初の「一帯一路」研究機関である「一帯一路日本研究センター」を設立した。「一帯一路」における中日両国の協力強化には、両国共同の専門研究機関が必須だと進藤氏は語る。
――一帯一路日本研究センター設立のきっかけをお聞かせください。
進藤榮一 私は1990年、講談社主催の国際シンポジウムのメインスピーカーとして中国に初めて行きました。以降、中国関係の先生方との交流が増えたために中国問題に関心を持つようになり、しかも訪問するたびに急速な発展を見せる中国を目の当たりにしてきました。2017年になって友人の中国人ジャーナリストや研究者たちから、「進藤先生、日本の『一帯一路』の報道は非常にゆがんでいます。『一帯一路』を日本で研究して日本から発信し、日本と中国の絆になるようなシンクタンクが必要ではないでしょうか」と提案されました。その時には時期尚早かと思ったのですが、同年9月28日に駐日中国大使館主催の日中国交正常化45周年・中華人民共和国成立68周年記念レセプションに参加した際、安倍晋三首相をはじめ河野外相らが出席しているのを見て、日中関係の潮目が変わり始めたと直感、発足を決意しました。
一帯一路日本研究センターの発足記念は、同年11月30日に日中国交正常化45周年を記念した国際アジア共同体学会年次大会と同時に日本記者クラブで行いました。メンバーには中国に関わる日本のメディア人や研究者を包括し、中国問題には関わっていない方や在日本の優秀な華人教授、韓国の専門家にも入ってもらいました。
――潮目が変わったと言われましたが、以前の日本は「一帯一路」をどのように見ていたのでしょうか。最近はどのように変化しましたか。
進藤 日本では「一帯一路」加入議論が出てくる以前、すでに09年頃から東アジア地域統合の官民共同国際会議で、アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立の提案が中国側代表から出ており、私は日本もそれに協力すべきだと主張し続けていました。しかし外務省の訓令が下りず、「一帯一路」構想にも日本がためらっているうちに潮目が変わり、17年5月に二階俊博さんが400人ほどの経済関係者を率い、北京で行われた第1回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムに参加したことで、日本も加入すべきという動きが国内、特に日本の自民党の知中派から出てきたのです。こうした政府や与党内における「中国を大切にしていくべきだ。日中関係なくして日本の未来はない」という考えを持つ政治家や官僚は今、日本に最も必要な要素だと私は強調したいのです。
もう一つは経済関係者の動きです。日本が経済発展に行き詰まっている今、欧米市場だけではやっていけません。中国の人口は約14億で、市場も巨大です。中国をマーケットとして捉え、そして中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)とインド、モンゴルを加えてアジアで新しい貿易体制を作り上げていくという気持ちが経済界に生まれ、それが後押しをしているのだと思います。
にもかかわらず、日本政府やメディアは特に最近「一帯一路」に対して及び腰です。ですからまずは第三国市場協力に注力すべきだと思います。例えば日本の経済進出が進んでいて政治的に安定したタイで日中第三国市場協力のカテゴリーを作るといった、アジアでの協力を出発点にしようというのが、安倍首相が掲げる第三国市場協力のコンセプトであり、「一帯一路」参画を進めていく第一歩だと思います。今後の展開に期待をしています。
――国際社会からは、「一帯一路」は中国の「債務のわな」や「新植民地主義」ではないかとの声も聞かれます。これについてどう思いますか。
進藤 「債務のわな」や「新植民地主義」論は、現実の国際感覚の無知であり情報操作だと思います。中国に対する見方のゆがみを表していると思います。特に港湾施設に関してはそうした意見が多いですね。スリランカのハンバントタ港やパキスタンのグワダル港、ギリシャのピレウス港を中心に、中国企業の巨大港湾企業が進出していますが、それが独占的な権益を確保する新植民地主義ではないかというのが彼らの主張です。
しかし17年におけるスリランカの対外債務総額は518億㌦で、対中債務額はその10・6%の55億㌦に過ぎません。ハンバントタ港の建設債務は11億㌦で中国が経営権を取得するものとされています。このような具体的な数字を示さず、あたかも中国が途上国に借金を負わせ、その借金をかたに領土を取っていくのだというような議論を展開するのはいかがなものでしょうか。パキスタンやギリシャでも同じです。債務総額や港湾債務の割合などの「現実」をフェアに議論せず、「中国は四方に爪を伸ばしてユーラシア大陸を手にし、世界を支配しようとしている」という「中国の赤い竜の爪論」のごとき言説ばかり論じるのはおかしい。まして、日本の中国研究者が言う、一帯一路は現世で実現できない「星座」のようなものだという「星座」論など、論外ですね。
――「一帯一路」における両国の具体的協力にはどのようなものがあるでしょうか。
進藤 日本の経済界、産業界は東アジアだけではなく、ユーラシア大陸ではカザフスタン、スリランカ、パキスタンなどの周辺諸国にも積極的に展開をしています。先日私は大連で「一帯一路」研究専門の教授から、カザフスタンでは丸紅とカザフスタン政府と中国が、エネルギー開発の共同事業を展開していると聞きました。また、エネルギーインフラ企業日本ナンバー2の日揮は、巨大な天然ガス(LNG)基地をロシアのヤマル地区につくっています。冬は零下50度になるような現地に日揮の技術者やロシアとフランスの業者が入り、産出したLNGを、北極海から釧路を経て大連まで運ぶルートができました。このルートを中国政府は18年1月に「氷上シルクロード」と正式に呼びました。このような現実は日本ではあまり知られていないでしょう。
――第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが4月に北京で行われます。進藤さんはシンクタンク分科会に参加される予定ですが、フォーラムへの展望と期待をお聞かせください。
進藤 私は最近になって中国でシンクタンクとの会議を数回開いて意見交換を行い、各国のシンクタンクは単一で活動せず、相互連結を強めるべきだと感じました。
例えば欧州でマーシャル・プランができた際には、各国の事情を調べて政策提言をする機関・先進国を中心にした経済協力開発機構(OECD)という研究調査機関ができました。「一帯一路」はマーシャル・プランと根本的に異なるものの、OECDのような調査機関は今後ますます必要になってくることでしょう。そこで世界ナンバー3とナンバー2の経済大国である日中の知力を結集し、「一帯一路」共同研究院のようなものを、大学院博士課程専門科を入れて設立してはどうかと、フォーラムで提案する予定です。いうなれば、日中による「一帯一路」を主軸にした連合大学院のようなものですね。調査研究機関に専門教育機関を付け加えることで日中相互理解が深まり、「一帯一路」の協力関係を前進させることに期待できます。