聞き手=萩原晶子
民家と間違えそうな、住宅街に溶け込む外観
大型美術館やアートスポット、ショッピングモール内のアートスペースが増えている上海。だが、街を丹念に歩いていると、住宅街に溶け込むように存在しているギャラリーも増加していることに気づく。2014年にオープンした「杜若雲章画廊」もその一つ。ギャラリーマネジャーの龔芳儀さんに話を聞いた。
——「杜若雲章画廊」について教えてください。
庭には林旭東が手がけたパブリックアート「機器豹」が
龔芳儀:今年でオープン4年目になる私設ギャラリーです。企画展やワークショップなどを開催しているほか、ここを拠点として国内外でのイベントも手がけています。たとえば、ショッピングモールでのアート展のサポートなどですね。ギャラリーとしてのコンセプトと私の仕事は、皆さんの普段の生活とアートを結びつけること。一般的に上海のギャラリーにやってくる方は、それほどアートに興味がなければ「ちょっと中を覗いて、写真を撮って終わり」というような方が多いです。でも、私たちは「それほど興味がない人」にも作品をわかってもらいたいと考えています。たとえば、先ほども観ていただきましたが、スタッフによる作品の解説タイムは毎日開催しています。時間外に来た方には、全展示作品の解説付きファイルを配って、できるだけじっくり作品に向き合ってもらうようにしています。
展示作品の解説タイムは毎日開催。一枚ずつ鑑賞のポイントを紹介してくれる
——どんなお客さんが多いですか。
龔芳儀:これも私たちのギャラリーの特徴なのですが、統計を取れないほどさまざまな方がいます。子ども連れ、中高年層、カップル、外国人、通りがかりの人など、本当にいろいろ。会員登録している人も多く、展示が変わるたびに来てくれる常連も多いです。企画展の人気度も、客層がバラバラなので「特に好評だった」というものが思いつかないほど。ただ、日本人アーティストの企画展はやはり注目されます。同じアジアということもありますが、作品のコンセプトを理解しやすいのではないでしょうか。熱心に鑑賞してくれるのは、現地の20代女性層ですね。一説には、中国のアート市場は彼女たちの上に成り立っているとも言われています。
自由に資料を閲覧したり、交流したりできる庭席
——ギャラリーのある永嘉路はどんなエリアですか。
龔芳儀:歴史建築が多い住宅街です。私たちのこの建物も1921年竣工の歴史建築。ほか、通り沿いには孔祥熙や田漢の旧居もあります。散策の途中でギャラリーを見つけて入ってくる方も多いと思います。
上海らしい老房子のデザインをそのまま生かした館内 古民家をそのままギャラリーにしている。誰かの家にお邪魔したような気分に
——龔さんは上海のアートシーンをどう見ていますか。
龔芳儀:2013年以降、美術館やアートスポットが一気に増えてアートファンたちの選択肢も広がったと思います。私は北京に住んでいたこともあるのですが、やや伝統的な北京に対し、上海は国際的で多彩なジャンルの美術館がある。しかも美術館やアートスポットだけでなく、公園、図書館、複合モールなど、私たちアートに関わる人にとってはさまざまな場所にチャンスがある街だと感じています。なんというか、「幸せな街」なんです。私にとってアートは仕事ではありますが、でも前提としてアートは人にとって楽しいものでなければならない。だからこれからも、楽しみながらいろいろな作品を上海のアートファンたちに紹介していきたいと思っています。
来館者には手製の資料が渡される。じっくり読みながら鑑賞できる
杜若雲章画廊
上海市徐匯区永嘉路498号
021-6415-7709
11:00〜18:00(月曜休館)