芸術門

2018-05-31 13:31:29

アートに関わる人に聞く、上海のいま

 聞き手=萩原晶子

外灘裏手に佇む。建物は元中国工商銀行

 中国だけでなく、アジア各都市とリンクしながら運営しているギャラリーが上海に増えている。香港とシンガポールにもスペースを構える「芸術門」もその一つ。アジアの現代アート界では指折りのギャラリーだ。外灘エリアの歴史建築群の裏手にひっそりと佇む異空間で、ディレクターを務める張勇さんに話を聞いた。

奥へと歩くごとに新たな作品が現れる構造(520日まで開催していた朱金石展の様子)

——「芸術門」について教えてください。

張勇:創設者は20年以上アジアのアート界で活動してきた女性ギャラリストの林明珠です。中国とアジア各地の現代アートに込められた理念や哲学を紹介していくことが私たちのギャラリーのコンセプト。一般的なアートファン以外に、キュレーター、評論家、コレクター、美術館スタッフなどが見学に来ることも多いですね。上海は、アジアのアートを紹介するというコンセプトにおいて理想的な都市だと思います。大型美術館も近年増えていますし、国際的なアートフェアも多く、各国のアーティストやキュレーターが上海に注目しています。それと、ギャラリーとして利用しているこの建物もぜひ鑑賞してみてください。1936年に竣工した建物で、もとは銀行(地下の展示室は当時の金庫をそのまま使っている)。デーヴィス、ブルック&グランが設計した建物だそうです。

天井にはめ込まれている鏡に作品が映り込む

——現在はどんな展覧会を準備していますか。 

張勇:526日〜722日の日程でイラン出身のアーティストGolnaz Fathiの個展を開催します。タイトルは「字里行間」。新作のペン画、アクリル画を17点展示する予定です。ペルシャ書道で世界的に有名なアーティストなのですが、線のリズム感が独特で、ずっと観ていると言葉では言い表せないような不思議な感覚を覚えるはず。Golnaz Fathiは、白い紙に繰り返し文字の練習をして、紙が真っ黒になったところにインスピレーションを感じると言います。繰り返しの練習の中で、筆を動かす純粋な喜びと思いがけない筆の動きが出てくるのだそう。アクリル画にもペルシャ書道の筆致を生かした独特のタッチが見て取れます。

じっくり解説を読めるこんなゾーンも

——「芸術門」での仕事はどうですか。

張勇:この世界に入ってもう10数年経ちますが、入った当時の中国には今のようにアートに関心のある人はそんなにいませんでした。今の中国のアート界の発展があるのは、私よりも長くこの世界に関わり、ひたむきに頑張ってきた人たちがいたからだと思います。ギャラリーでの仕事は、毎日挑戦とチャンスが共存しているような感覚ですね。ただ作品を展示するだけではなく、個展を開催したアーティストの将来を考えたり、作品を売るための営業マンとしての仕事もこなさなければなりません。同時にコレクターや美術館などとも常に連絡をとっていることが必要です。さらに、アートフェアへの参加という大仕事もあります。でも、うちはスタッフ全員アートが大好きで、面白いアイデアを出してくれる人もたくさんいる。基本的にはどの業務もとても楽しいです。

          地下展示室への階段。見落とし注意               金庫として使われていた当時のドアがそのまま使われている

——今後の目標を教えてください。

張勇:「芸術門」は、高名潞(美術評論家)による中国の現代アートに関する理論の一つ「意派」のアーティストの個展を主に開催しています。意派とは、2007年に開催された「中国“抽象”三十年」という企画展で高名潞が定義したもの。欧米の現代アートの概念では作品の意図などが解釈できないものを指します。それらをメインに扱うことで、多くの人に意派という現代アートのジャンルがあることを知ってほしい。あとは、今後も中国国内のアーティストたちを世界へ発信していく場として運営を続けていくことが目標です。

 

地下展示室内の様子

 

芸術門 PearlLam Galleries

上海市江西中路181

021-6323-1989

10:3019:00

 

 

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