聞き手=萩原晶子
市街地の南西、黄浦江に沿って延びる龍騰大道。その1〜2kmほどの範囲内に、2013年ごろから私設美術館や展示施設が続々オープンしている。エリア名は「西岸(ウエストバンド)」。2019年にはポンピドゥセンターの分館や、アジア初進出となるホテル「ロッコ・フォルテ」がオープンを予定しており、アートスポットとしてだけでなく、レジャー、カルチャーの集積地として注目を集めている。今回は、そんな「西岸」エリアで2018年末現在もっとも新しい美術館「上海油罐芸術中心」のスタッフに話を聞いてみた。
Q: 「上海油罐芸術中心」について教えてください。
5機の燃油タンクから成るアート施設
——今年の秋にオープンした複合アート施設です。オーナーはアジアを代表するアートコレクターの一人・喬志兵。北京の尤倫斯芸術中心や上海外灘美術館を手がけているといえばわかる方も多いのではないでしょうか。特徴としては、以前このエリアにあった空港(旧龍華空港)で使われていた油罐(航空機用の燃料タンク)をそのままリノベーションして展示空間にしている点です。こういった美術館は世界的にもめずらしいと思います。
Q:敷地内は美術館というより公園のような雰囲気ですね。
遠景。黄浦江沿いに6万平米の敷地を擁する
——敷地面積は6万平米です。そのなかにさまざまな展示施設、芝生広場、書店、ワークショップスペース、レストランなどが点在しています。燃油タンクは5機ありますが、それぞれライブハウスとして音楽イベントに使えるもの、レストランになっているものなど、どれも内装を変えていて、アート観賞だけではない楽しみ方もできるようになっています。デザインは北京のOpen設計事務所の李虎氏が手がけました。アートと自然を身近に感じられるように設計したそうです。
メイン展示館。グランドオープンは来年3月
Q:現在開催中の展覧会について教えてください。
燃油タンクを使った展示室のエントランス
——まだ内装工事中のスペースも多いのですが、燃油タンクを使った展示室の一つで日本人アーティスト・池田亮司氏の個展をスタートさせています。開催中の上海ビエンナーレのプロジェクトの一つとして企画したものです。「data.tron [WUXGA version]」と題された新作展で、期間は2019年1月6日まで。「datamatics」という作品シリーズの一つで、物理と数学をテーマにした実験的なマルチメディア系インスタレーションを展示しています。燃油タンクの中という特殊な空間が作品とマッチし、作品と一体になったような感覚を味わえる展示になっていると思います。アートはもちろん、音楽やデザインに興味を持っている若い人がたくさん観にきてくれているようです。
内部はこんな感じ(池田亮司展開催時の様子)
Q:まだオープンしたばかりですが、今後はどのような作品を展示していくのでしょう。
——実はまだプレオープン中なんです。グランドオープンは2019年3月を予定しています。その際の最初の企画展は、オーナーの喬志兵のコレクション展を予定しています。これまでさまざまな展覧会や美術館に関わってきた人なので、内容も期待できるものになるのではないでしょうか。
倉庫、芝生広場などほかにもさまざまな施設が点在している
Q:上海という街にとって、「西岸」はどんな存在だと思いますか。
——現代アートの一大集積地でしょうか。M50などの従来のアートスポットからも多くのギャラリーが移転してきていますし、大型美術館、文化芸術機構、アーティストのアトリエなども増えています。黄浦江沿いの広々とした散策道も魅力。ジョギングやボルダリングを楽しむためにやってくる人も多いです。文化、芸術面以外でも、上海の新たな顔ともいえるエリアだと思います。
上海油罐芸術中心
上海市龍騰大道2350号
10:00〜17:00 (変更あり)