山水の中の真に迫る生き物

2018-03-05 16:33:34

画家・書道家 韓必省

本誌特約ライター王金晶 

韓必省

1966年生まれ。浙江省温州市蒼南県出身。中国人民政治協商会議第12期全国委員会委員、中国国民党革命委員会中央委員会委員、中国書法家協会会員、『人民画報』書画院芸術顧問。

『松風臨水』  68×139cm 2017

百匹の猿を描いた絵巻物

 ある冬の早朝の天津、清らかな空気の中で、韓必省氏は自宅で2時間近くかけて密画(細密画)の早朝レッスンをして、その後アトリエに行って一日の仕事を始めた。来客がなければ、彼は午前中ずっと絵を描いたり、書をしたためたりして過ごす。彼のアトリエには墨のかぐわしい香りが漂っていた。

 江南の山水画がアトリエの壁の上に輪郭を現しつつあり、これからさらに細かく筆が入れられ、色がつけられる。「あと2週間ほどでようやく完成といったところかな」と韓氏は言う。彼は創作に対して決して手抜きすることはなく、早朝から家で動物や花鳥などの密画を描き、アトリエで主に山水画や書などの創作を行うことが、彼の数十年来の習慣となっている。「早朝は邪魔が入らず、家で心静かに過ごせるため、密画創作には最適なのです」と語る。

 韓氏の密画といえば、10年もの歳月をかけて創作した『百猻諧楽図』について語る必要があるだろう。この長さ15㍍、幅1・5㍍の巨大な絵の中には、百匹余りの猿がさまざまな姿で動き回っており、真に迫っている。2013年に行われた「詩の言葉を使った絵画――韓必省書画作品展」においてこの作品が発表されるなり、好評を博した。絵の中のこれらの猿は、仲間と共にあるいは1匹で、林の中で楽しそうに遊んだり、山の渓流で餌を探したりしていて、奇岩が重なり合い、青竹が茂る中で、うつ伏せになったり、立ったり、座ったり、寝っ転がったり、しゃがみ込んだり、ぶら下がったり、ひっくり返ったりして、妙趣に満ちている。この絵を見た人は思わず手を伸ばして猿のふわふわな毛をなでてみたくなる。

 この作品のために、韓氏は多くの山を巡り、観察・写生を行った。さらにそれは国外にまで及んで、最も遠いところではマダガスカルまで足を運んだ。こうした3年にわたる写生によって、彼は豊富な素材を蓄積し、背景には中国の伝統的な花鳥画や山水画の技法を融合させ、構図は虚と実が混ざり合い、色調は明快で典雅である。絵巻の初めと終わりには、さらに韓氏の記した題記があり、書道と絵画が互いに引き立て合っている。

詩と書と絵が一体化

 韓氏の絵画は密画から入ったもので、密画の大家である劉奎齢氏の絵に大きな影響を受け、30年余りをかけて、すでにそれをかなり会得している。作家の馮驥才氏は「私は彼(韓必省)の絵画作品に彼が師から学んだ技や基礎を見い出す。それらの鳥や獣には、劉奎齢氏の超絶した写実技巧が含まれている。彼は(先輩たる大家に対し)技術的な摸写を行っているのではなく、その風致や神髄を追求しているのだ」と評価している。

 ここ10年ほど、韓氏は山水画から人物画まで、密画の基礎の上に写意技法の全体的な理解に至っている。17年末、天津美術館で行われた「緑水青山――韓必省山水画展」で、彼の80点余りの山水画作品が展示された。浙江省温州の恵まれた自然景観と文化的蓄積が韓氏に深い影響を与え、彼の筆のもとでは、江南の山はことのほか美しく、浙江の水は清く美しい。

 韓氏の最近の山水画は今までのものと大きく変わってきている。一つには、絵のサイズが大きくなり、時には10平方㍍以上の巨大な作品や10㍍以上の長い絵巻が出現し、多くは中国北方の雄大な河川が描かれている。そして柔らかな筆致の中にさらに力強さと堅さが溶け込み、中国山水画の二大流派である南宗派の含蓄と北宗派の雄大さが一体となって、情感の表現が飄々としたものから重厚なものへと変わった。また、詩と書と絵の緊密な一体化がさらに進み、絵の中に詩があり、詩を躍動する隷書で揮毫し、さらに完全な芸術作品となっている。

 韓氏は19歳の時に天津に行って絵を学び、習字は6歳の頃から始めた。楷書・草書・隷書・篆書といった各種の書体を全てこなすが、中でも彼が最も愛し、得意とするのは隷書である。彼の書道は臨書(手本の摸写)・背帖(手本を見ずに摸写)に始まり、さらに書道の大家劉炳森氏の手引きも受け、その字は整って重厚であり、独特の風格がある。劉炳森氏は彼に、「書道を習うことは人が道を歩くようなものだ。始めたばかりはゆっくりと歩かねばならず、縦横はらいを正確に書かねばならない。そうしなければ年を取った時に歩けなくなり、字はまひしてしまう」と教えた。

 韓氏は、文化の力とは世界中が意思疎通できるものであり、芸術の美は隔たりを解消するものであると考えている。彼の作品は日本、ドイツ、フランス、韓国などで展示されたことがあり、さらに中曽根康弘元首相に贈られ、収蔵されている。彼は自分が平和と美の使者となり、人間の善良さと自然の調和が中国書画芸術の中に溶け込み、人類の魂の滋養となることを願っている。

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