ICTとヘルスケアのシナジー効果を求めて(上)

2020-12-18 14:04:13

NECとニチイ学館が協業推進中

塚本武 NEC(中国)総裁 坂本健 日医(北京)居家養老服務有限公司総経理

王衆一=聞き手 王浩=写真 

 

塚本武

早稲田大学卒業後、NECに入社。NECインドネシア社長を経て、2018年からNEC(中国)総裁。

 

坂本健

2001年にニチイ学館に入社。13年から北京駐在。17年から日医(北京)居家養老服務有限公司総経理。

 

今年の第3回中国国際輸入博覧会(輸入博、11月5日~10日)で、アシックスの展示ブースは常に長い行列ができていた。それは、NECがアシックスと開発した「歩行姿勢測定システム」を使い、自らの歩行姿勢を計測したいという大勢の人の順番待ちの列だ。

6㍍離れたところから手を上げ、スタートの合図が出てから検査システムの前まで歩行し、年齢、性別データを入力すると、QRコードが表示される。それをスマートフォン(スマホ)でスキャンすると、計測データや歩行改善アドバイスがすぐスマホに表示される。日本のICT(情報通信)技術はここまで進化したのかと多くの人が驚きを隠せない様子だった。

ICT技術とヘルスケアの結合でどんなシナジー効果が生まれるかをNEC(中国)の塚本武総裁と日医(北京)居家養老の坂本健総経理に聞いた。

 

――中国におけるNECは、日本でのイメージとかなり違い、近頃特にヘルスケア分野でますます注目を集めていますね。

 

塚本武 NECは1972年の日中国交正常化に伴い、中国ビジネスをスタートしました。最初は通信、その後は半導体などが主な業務であり、当初は合弁の形で関連技術も多々中国に移転しました。その後、中国の急速な発展に伴い、われわれも自社の持つITと通信技術を融合し、さらなる強みを創出して社会貢献しようと考えています。中でも、中国の高齢化社会がますます進行するに当たり、2年前からヘルスヘア領域にも進出することとしました。

日本は、約40年前から高齢化社会という難しい課題を抱え、NECはICTの側面から日本の介護保険制度を支えるさまざまなプロジェクトに参画し、経験やノウハウを蓄積してきました。今でも中国の65歳以上の高齢者数は約1億7000万人と、日本の全人口約1億2000万人を上回っており、2050年には、倍以上の3億7000万人の規模になることが予想されています。

私も中国に赴任して以来、各地をいろいろ視察しました。11月初旬には、山東省済南市で、同市の党委員会書記、市長と会談し、直近の重要政策などについてお話を伺いました。その中で、来年からの第14次五カ年計画、さらに35年までの15年計画において、市民の健康増進、ヘルスケア、介護が、市政府の五大政策の中の二つを占めており、中国政府が介護やヘルスケアを極めて重視していることを実感しました。

われわれはICTの専門家ではありますが、残念ながら介護の専門家ではありません。今の多岐にわたる中国の高齢化社会問題に1社で取り組むには、おのずと限界があります。そこで、NECのグループ会社、中国に進出している日系の介護の専門業者様や中国企業様とアライアンスを組み、トータルソリューションの形で日本の介護のノウハウと知見をローカライズして提供することで、中国の高齢化問題解決に微力ながら貢献したいと決意を新たにしました。

 

――日医は、中国の介護の現場におけるICT化の実状についてもっともご存知かと思いますが。

 

坂本健 中国介護市場におけるICT化はいまだ黎明期であり、ICTは一部の施設管理や高齢者一人一人の健康状態、要介護状態の把握、管理に使われているにすぎません。われわれは、日系の介護サービス事業者であり、専門的な介護サービスを提供するに当たり、日本式介護のDNA、すなわち、お年寄りの介護度の進行をできるだけ緩やかにし、人生を楽しむ時間を最長化していただくことを理念としています。その実現や効果測定に介護DX(デジタルトランスフォーメーション)は必須であり、それはあらゆる取り組みに比較的自由な環境である中国介護市場でさまざまなトライアルを実施するのが近道と考えています。故にNEC様のようなITメーカーとの連携はどうしても必要となります。

 

――NECは、済南市で具体的にどのようにITを駆使した介護業務を展開されていますか?

 

塚本 済南市では「医養結合(医療と養老の融合)プロジェクト」を推進しており、NECはこれを統合管理するICTプラットフォームを提供しようと考えています。それは、介護施設、地域コミュニティー、在宅の介護3分野を全て網羅し、一括してデータを収集、管理、AI解析を行うことです。それによって、行政においては「現状の見える化」と「社会保障費低減」、介護事業者には「効率化によるコスト低減と先進技術導入による市場競争力強化」、またそのケアスタッフには、3M=ムリ、ムラ、ムダ解消による「肉体的精神的負荷軽減」、そして、高齢者やご家族には、介護状況やご希望に合わせた「個人に特化したケアサービスの提供」と、世界でもあまり例を見ない行政、介護事業者、エンドユーザーの三位一体および三方よしを実現する介護DXであります。

本プラットフォームの下にはIoT(モノのインターネット)や独自のセンサーによるデータ収集ソリューション、すなわち介護ロボット、歩行姿勢測定、健康シミュレーション、笑顔測定などさまざまな仕掛けがあり、AI解析に通じる各種データを収集します。

 それらをNFCやWi-Fi、Bluetooth、Mobileなどの通信技術を駆使し、データベースに飛ばし、これを因果分析はじめAI解析技術で解析し、例えば一人一人の高齢者に最適化されたケアプランの自動生成などにつなげていきます。また、ポスト・コロナの時代に適応するICT技術を駆使した「非接触」、「遠隔」を基本コンセプトとする安心安全な環境づくりも行っていきます。

 

2020年中国国際サービス貿易交易会で展示されたNECのスマートベッドセンサー(写真提供・NEC(中国)有限公司) 

関連文章