ICTとヘルスケアのシナジー効果を求めて(下)
NECとニチイ学館が協業推進中(下)
塚本武 NEC(中国)総裁 ・ 坂本健 日医(北京)居家養老服務有限公司総経理
王衆一=聞き手
塚本武
早稲田大学卒業後、NECに入社。NECインドネシア社長を経て、2018年からNEC(中国)総裁。(写真・王浩/人民中国)
坂本健
2001年にニチイ学館に入社。13年から北京駐在。17年から日医(北京)居家養老服務有限公司総経理。(写真・王麗
――今後ポスト・コロナ(新常態)の社会は、ますますデジタル化が進むと予想されます。
塚本武 私は2018年に中国に赴任して以来、中国経済の持続的発展をドライブするデジタル化の波を強く感じました。20年には、中国国際サービス貿易交易会が北京で開催されました。弊社も出展させていただいたわけですが、開幕式冒頭の習近平国家主席の「中国が世界で率先してデジタル化を進めていくというメッセージ」のみならず、さまざまな先進デジタル技術を駆使した展示物を目の当たりにし、ポスト・コロナに向け、中国社会もさらに変革していこうとしていると強く実感しました。同時にここ中国でデジタル応用技術を生かした新しいサービスを積極的に提供していこうと決意しました。
先日も、日医の坂本総経理と共に民政部で講演させていただき、私も「介護DXと中日協力」と題し、介護分野における日本のDX実証実験の取り組み状況や、それらから得た教訓などを今後の中国介護DX推進に向けた民政部への建議としてお話しさせていただきました。
このように、弊社の保有するICT(情報通信)技術ならびに日本や他国におけるデジタル化推進の知見や経験をもとに、今後の中国のデジタル化推進にも微力ながら貢献できると考えています。
――中国の介護制度は、日本とはかなり異なると感じますが?
坂本健 中国の「養老」は、日本のような介護保険制度に基づき、介護サービス費の個人負担が1割、その他は国からの補助でサービスが提供されるようなシステムは今のところありません。あくまでも、個人支出に頼らざるを得ない部分が多く、中国での介護業務展開には、所得階層や地方特性などさまざまなニーズが存在します。故に日本のやり方そのままではなく、中国の国情、制度、文化、風習に合わせてサービスを提供していく必要があると思います。ただ、これらローカライズに当たってのコアは、言わずもがな日本の介護事業者が長年蓄積してきた知見、ノウハウなどの無形資産であり、先述した日本式介護の理念と共に重要となります。この無形資産の価値を見える化し、中国の方々にも付加価値=効果として認めていただくためにもDXの推進は必要と考えます。
昨年に上海で開催された第3回中国国際輸入博覧会では、NECがASICSと共同開発した「歩行姿勢測定システム」に長蛇の列ができた(写真提供・NEC(中国)有限公司)
――NECはさまざまな日系企業、中国企業との連携も積極的に推進していますね。
塚本 介護産業は裾野が広く、一社で全分野を包括できる会社はありません。故にわれわれは例えば商社などの日系企業様や保険会社などを筆頭にさまざまな中国企業様との提携を積極的に行い、提供する製品やサービスの多様化ならびに質の向上を図っています。日医様との提携もこの一環であり、日医様の持つ介護現場での知見、ノウハウを弊社の得意とするICT技術と融合させることにより、介護DXを推進していきたいと考えています。
――その中でも、NECと日医との協業シナジー効果をもっと出してもらいたいと期待しています。
塚本 ITや通信技術は万能ではなく、付加価値実現のためのツールにすぎません。付加価値の創出には、本物の現場ノウハウ、知見とICTの融合、補完が一番重要であると考えます。その点で、ニチイ学館様との協業は、弊社の介護事業推進のコアと言えます。
日本式介護の優位性をベースに、自社の足りない知見、ノウハウや技術を日系連合で相互補完し、新たなビジネスモデルや付加価値を共創し、中国ひいては日本を含む全世界の高齢化社会問題解決に貢献していきたいと考えます。
坂本 NEC様との協業は、高齢者能力判定ソリューションを共同開発して以来、継続しており、本ソリューションは、弊社の中国での介護サービスにも活用しています。今後ニチイ学館としても、中国での介護サービス向上や業務効率化、データ見える化による自社介護サービスの効果立証においてもDXを進めたいと考えており、NEC様との協業は今後も積極的に展開していきたいと考えています。
編集長のつぶやき
NECは、ICT分野では長年の技術蓄積があり、1970年代から中国でビジネスを展開している。一方、ニチイ学館は介護分野では日本トップ企業の一つであり、その提供サービスは高い評価を得ている。これら異業種の雄が中国市場では日系連合としてシナジー効果を求めてアライアンスを組み、新たなビジネスモデルの創出に挑戦している。