小野元生 「変革と成長」で新常態に挑む

2021-05-26 10:58:02

王衆一=聞き手

 

小野元生(おの もとお)

三井物産専務執行役員東アジア総代表兼三井物産(中国)有限公司董事長

東京外国語大学卒、三井物産入社後、鉄鋼製品畑を中心に通算19年にわたり中国語圏に駐在。2018年から同社専務執行役員東アジア総代表。2019~20年、中国日本商会会長。

 

三井物産東アジアブロックは、北京・上海・広州・香港・台湾の5ユニットの一体経営により、本社中期経営計画の柱である「変革と成長」における重要な役割を担っている。また同社海外地域戦略プラットフォームの中核として、「エネルギーソリューション」「ウェルネス」「食・農・ニュートリション(栄養摂取)」「リテール・サービス・生活産業」を重点領域に事業を推進している。

今回は、昨年の新型コロナウイルス感染症の1年を振り返りながら、現在の同社の活動と今後の戦略・課題について、東アジアブロックの小野総代表に話を聞いた。

 

――いち早く新型コロナの抑え込みに成功した中国において、三井物産東アジアブロックの対応は?

小野元生 昨年は新型コロナウイルス(COVID-19)が、瞬く間に世界中にまん延し、時間経過の長短、遅速すら違和感のある、かつて経験がない大変難しい年でした。中国経済は世界に先駆けて復興が進み、昨年の国内総生産(GDP)の成長率は2・3%と世界の主要エコノミーの中で唯一経済のプラス成長を実現しました。

当社の場合、昨年の中頃には感染症流行の鎮静化を待って中国国内の出張も再開し、リアルのネットワークとオンラインツールを駆使しての事業経営となりました。幸い、ブロック内約720人の社員が新型コロナに感染することなく、困難な環境下にもかかわらず新エネ・RE(再生可能エネルギー)・種子などの領域で新規事業を立ち上げることができました。

今後とも、まだまだ国をまたぐ移動制限が続く中、地場の役割・機能を拡大・進化させながら、新常態の下において既存の事業基盤の良質化、新規案件の開発に引き続き取り組んでいきます。

 

――注目している、力を入れている分野や事業は?

小野 キーワードはESG(環境・社会・企業統治)、とりわけE(環境)に注目しています。昨年9月の国連総会で中国が「2060年までのカーボンニュートラル」を宣言しました。大変チャレンジングな目標ですが、一度走り出すと規模感を伴う動きが加速する可能性があります。GHG(温室効果ガス)低減・削減につながる取り組みとして▽LNG(液化天然ガス)の供給インフラ確保・域内パートナーとの連携を含めたバリューチェーン(価値連鎖)の構築▽RE関連では台湾海龍洋上風力発電・屋根置き太陽光事業、SGLT事業(排ガス活用によるバイオエタノール製造新技術導入)、水素関連諸領域▽サーキュラーエコノミー(循環型経済)の観点で、中国のバッテリーリサイクルの大手「格林美」(GEM)社とのEVバッテリーリサイクル事業、金属リサイクル、再生PET(ポリエチレンテレフタレート)、紙の循環型事業などに取り組んでいます。他にも環境を切り口とした取り組みは数多くあり、柔軟な発想を持って、さまざまな領域・切り口からこの分野を開拓していきたいと思います。

消費者起点のビジネスにも注目しています。高齢化が進む中、今後ますますハイエンド医療サービスのニーズが高まることから、ウェルネス(健康)分野の取り組みも進めます。その一つとして、同分野において最大手の社である華潤集団、東アジア屈指の投資会社である「厚樸投資」(HOPU)と共に香港にCMHヘルスケアファンドを設立し、中国を中心とした病院事業や中国内外のヘルスケア周辺事業に注力していきます。

また、中国では、画像や言語処理、映像やライブコマースなどの先端技術を駆使したデジタルが一気に広がっており、中国の新しいイノベーションを日本など広く世に出していくことにも取り組んでいます。例えば、テンセント(騰訊)グループとMOU(基本合意書)を締結、日本での「Douyu Japan」(斗魚、ライブストリーミング)事業に加え、中国市場の開拓を狙う日本企業の販促活動を支援する越境EC共同事業などの検討を進めています。

 

――ビジネスを実現していくために最も重視していることは何でしょうか?

小野 三井物産にとっての最大の経営資源は「人材」です。「人財」と言っても良いですね。その観点で、当社のマテリアリティ(重要課題)の一つでもある「新たな価値を生む人をつくる」ことが重要だと考えています。地場のスタッフが「仕事をするのは私たち自身だ」「主人公として自分たちがやるのだ」という仕事へのオーナーシップをしっかりと持つことが重要です。そのために、多様な「人材」が集まり、「偶発的な出会い」「自発的なコラボレーション」を通して、新たな挑戦と創造を生み出すための全社活動、「Work–X」(Workplace Experience)にも海外拠点として先行して取り組み、フリーアドレスやスペースの導入、数々の先進的なDX(デジタル・トランスフォーメーション)施策などを進め、部門の枠を超えた事業提案の創出にもつながる新たな働く場所の設営も進めています。また、当社の価値観の具現化に向けたグループ行動指針の「With Integrity」の浸透も非常に大切です。これは、組織として、人として正しくあることを求め、ESGのS(社会)とG(企業統治)につながるものです。

 

同社は、CSR(企業の社会的責任)活動の一つとして、中国の学生を日本に招き、企業活動や文化を学んでもらう日本商会の事業で中心的役割を担っている(写真提供・三井物産(中国)有限公司)

 

――近々帰任(今年3月末)されると聞きました。今後中国とはどんな関わり方を考えていますか(注・インタビューは3月に行われた)。

小野 4月から顧問として東京本社で経営を支援します。これまで積み重ねてきた経営、営業、コーポレート、中国語圏でのさまざまな経験を生かし、社内外の特に中国関連事業に引き続き携わることができればと思います。21年は中国共産党創立百周年、22年は日中国交正常化50周年と大きな節目が続きます。今後とも、当社のビジネス活動を通して日本と中国の健全で良好な両国関係構築と発展に向けて尽力、貢献していきたいと思います。

 

編集長のつぶやき

商社は事業の変革によって成長を獲得しようとしており、三井物産はエネルギー、医療、デジタル産業などいろんな面で果敢にチャンレンジしていると取材を通し、改めて強く感じた。

関連文章