吉田裕道 植物由来ワクチンで貢献
王衆一=聞き手
吉田裕道(よしだ ひろみち)
田辺三菱製薬研発(北京)有限公司董事長兼総経理
千葉大学薬学部総合薬品科学科卒業後、1989年、田辺製薬株式会社(現在の田辺三菱製薬)に入社。以後、一貫して医薬品開発の業務に携わる。2014年4月から北京駐在。21年4月より現職。(写真・王浩/人民中国)
世界の新型コロナウイルス対策は各国さまざまだ。中国は「ゼロコロナ」対策を取り、日本は国民への補助金支給を重視し、新型コロナが経済や生活に与える影響を極力抑えようとしている。その両国が共に取り組んでいることが一つある。新型コロナのワクチン開発だ。ワクチンで新型コロナのハイリスク患者の数を相当数減らすことができれば、感染症の拡大抑制に大きな力を発揮することが期待できる。
田辺三菱製薬グループは、早くから植物を使ったワクチン技術を開発し、特に新型コロナワクチン分野での研究が注目されている。今回は、そのワクチンの研究開発について、田辺三菱製薬研発(北京)有限公司の吉田裕道董事長に話を聞いた。
――御社の植物由来のワクチン開発について、中日のマスコミは共に注目し、期待しています。
吉田裕道 当社の子会社であるメディカゴ社が新型コロナウイルス感染症の予防を目指して開発している、植物由来のウイルス様粒子(VLP)ワクチンについて、2021年10月2日から日本で臨床試験を始めています(MT-2766)。また、22年の春までに同ワクチンの日本での承認申請を目指しています。
――着実に開発が進んでいるようですが、日本での臨床試験はどのような形で行われていますか。
吉田 20歳以上の日本人男女、計145人の被験者に対して実施しています。試験方法は、ランダム化プラセボ対照試験です。被験者を高用量群、低用量群、プラセボ(有効成分の入っていない偽薬)群の3群に分け、21日間隔で2回接種します。これによって、日本人におけるMT-2766の安全性および免疫原性を確認します。
MT-2766は、カナダ、米国、英国、ブラジル、アルゼンチン、メキシコで、約2万4000人の治験参加者を対象に最終段階の臨床試験での接種を終了し、現在結果を集計しています。また、今年中にカナダ政府に承認申請、新年度内に同国内での供給開始を目指しています。
こうした海外で実施した試験および本試験のデータを用いて、日本におけるMT-2766の早期の承認取得を目指します。
――日本ではどうやってワクチンの開発を加速させていきますか。
吉田 当社は日本では、阪大微生物病研究会と協業し、インフルエンザや4種混合のワクチンなどの販売を通して、日本国内でワクチン販売のトップ企業として感染症予防に貢献しています。
一方、現在カナダの子会社が開発を進めている植物由来のVLPワクチンは、新技術のため、短期間では他の国や地域に技術移管することは難しいことから、まずは北米からの輸入を考えています。
中期的には、今後の新型コロナワクチンの国内需要を見極めた上で、将来の安定供給を視野に日本での製造について検討していきます。
米国(ノースカロライナ州)にある植物由来ワクチンの製造所(写真提供・田辺三菱製薬研発<北京>有限公司)
――ワクチン以外にもさまざまな研究開発に取り組んでいるようです。
吉田 当社グループは、中期経営計画21-25においてワクチン領域を、中枢神経・免疫炎症領域と並ぶ重点領域と位置付け、新しいモダリティ(治療手段)の開発に取り組んでいます。すなわち、新しいタイプのワクチンとなる植物由来VLPワクチンという選択肢を届けることで、世界の最重要課題である感染症予防により一層貢献していきます。
――中国での生産・販売状況はどうでしょうか。
吉田 当社は2006年に北京に設立以来、医療用医薬品の開発業務を行っています。また天津(天津田辺製薬)では、循環器用薬や消化器用薬などを中心に医療用医薬品の製造販売を行っています。
開発業務においては、これまでにアレルギー疾患治療薬や希少疾患治療薬の中国での承認取得を実現しており、現在、糖尿病領域などの治療薬の開発を手掛けています。これらを通して、さまざまな疾病領域で中国の医療現場への貢献を目指しています。
編集長のつぶやき
2021年も、新型コロナの変わらぬ猛威の中で暮れていった。ワクチンの開発、しかも日本企業によるワクチン開発の成果は非常に期待されている。