「G7」後の世界と中国

2023-05-24 16:04:00

文=ジャーナリスト 木村知義  

 

今号のテーマは、「G7広島サミット(主要7カ国首脳会議)」後の世界と中国です。 

中国と向き合う営みを続ける日本の私たちにとって、G7に何を見ておく必要があるのか、さらに、G7後の世界と中国を見つめるためにどんな視点と問題意識が必要なのか、サミット開催時点に立ち戻って「復習」しながら考えてみます。 

  

終わりを告げる「G7」の時代 

ウクライナのゼレンスキー大統領の「電撃的」な参加もあり、今回のG7ではある種の「高揚感」が日本列島を覆いました。しかし冷静に考えてみると、多くのメディアが伝えたような「議長国、日本よくやった」感とはまったく異なる世界の姿が見えてきます。 

その第一は、G7という「枠組み」で世界をリードしたり、問題を解決したりできる時代はすでに終わったことを、また改めて、告げ知らされたことです。 

1975年、当時の「富裕6か国」でスタートした「先進国首脳会議」は、たとえ構成国を増やし、看板を「主要国首脳会議」に書き変えたとしても、「枠組み」、世界観をそのままにして世界を差配できると考えるのはまったくのおごりか、そうでなければ錯覚というべき時代になったということです。 

これは99年、アジア金融危機を機に生まれた「G20」が、当初の「財務大臣・中央銀行総裁会議」から「首脳会合」の開催へと発展した頃からすでに知られていたことですが、今回のG7でそのことをより深く認識させられることになりました。つまり、「先進主要国」の「枠組み」による「ほころび」を無視できないからこそ、「アウトリーチ」と称して、いわゆる「グローバル・サウス」といわれる「招待国」を加えた会合を催すことになったのでしょう。 

なによりもまず、現在のG7が世界の人々心に響くものにはならないことを学びとる必要があります。 

  

中国が「主役」の「G7」!? 

今回のG7について考えていくと、なんとも矛盾に満ちて理解に苦しむ事柄に多く突き当たります。その最たるものは、G7の主たるテーマは一体何だったかという戸惑いです。結論から言えば、会議の席にいない中国が最大のテーマだったと言うべきです。G7の陰の主役は中国だったというわけです。 

日本政府のG7公式サイトに掲げられたサミットの「重要課題」には、「法の支配に基づく国際秩序の堅持」と「グローバル・サウスへの関与の強化」の二つが挙げられていました。 

「首脳コミュニケ」で、この「法の支配に基づく国際秩序の堅持」に関わって、「中国に率直に関与し、我々の懸念を中国に直接表明することの重要性を認識しつつ、中国と建設的かつ安定的な関係を構築する用意がある」と述べながら「東シナ海及び南シナ海における状況について深刻に懸念している。力又は威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する」に始まり、台湾、チベット、新疆ウイグル、香港にまで踏み込んで語られたことはすでに知られている通りです。 

さらに、「我々の政策方針は、中国を害することを目的としておらず、中国の経済的進歩及び発展を妨げようともしていない」としながらも、「世界経済を歪める中国の非市場的政策及び慣行がもたらす課題に対処する」「不当な技術移転やデータ開示などの悪意のある慣行に対抗する」「経済的威圧に対する強{じん}靱性を促進」などとして、「経済的威圧に対する調整プラットフォーム」を創設し、中国を抑止していくとなったのです。  

  

日中関係を「傷つけた」サミット 

何から何まで中国「抑止」に終始したG7サミットだったことが見えてくるのですが、これほどまでに中国を{そ・じょう}俎上に載せて「G7vs中国」という対決構図を描いてみせたG7サミットはかつてなかったでしょう。その先導役を担ったのが議長国日本であり、岸田首相だったことは実に深刻です。 

案の定と言うべきか、中国外交部は「G7は中国側の深刻な懸念を顧みず、頑なに中国関連議題をあおり立て、中国を中傷・攻撃し、中国の内政に粗暴に干渉した。これに対し、中国側は強い不満と断固たる反対を表す」というコメントを発表し強い抗議の意思を示しました。また、外交部の孫衛東副部長は5月21日、日本の垂秀夫駐中国大使を呼び、「日本はG7輪番議長国として、G7広島サミットの一連の活動および共同声明の中で関係国と共に中国を中傷し、中国の内政に乱暴に干渉し、国際法の基本的原則と中日間の四つの政治文書の精神に背き、中国の主権と安全、発展の利益を損ねた。中国はこれに強い不満と断固たる反対を表明する」と「厳正な申し入れ」を行うことになりました。 

8月には日中平和友好条約締結から45年を迎えますが、それを前にして、G7が日中関係に「深い傷」となったことは、日本の私たちが重く認識しておかなければなりません。 

  

変わる世界という認識の大切さ 

しかし、各国の指導者や関係者が、こうした中国抑止にこぞって賛同していたわけではないことを知っておくことがさらに重要です。メディアで伝えられたもののほんの一部ですがクリップしておきます。 

・独放送局ZDFの取材に対してショルツ首相は、「サプライチェーンや対中輸出も継続する」と説明。また、「中国の成長を抑制することには誰も興味がない」と語った。(ロイター5月21日) 

・仏『フィガロ』紙は「中国に対する立場で、フランスと日米の間で大きな違いがあった」。首脳声明の中国を巡る文言で、「マクロン大統領は抑えた表現にしようとした」。これに対し、日本は「フランスの立場を理解しなかった。フランスを『G7の弱い環』とみなした」と報じた。(産経新聞5月22日) 

・広島で被爆し、カナダを拠点に核兵器廃絶を訴えている被爆者のサーロー節子さんは、「G7広島サミットは大きな失敗だった。首脳たちの声明からは体温や脈拍を感じなかった」と批判。ウクライナのゼレンスキー大統領の出席に関して、「武器支援のことばかりで、話し合いによる解決策が聞こえてこない。広島でそうした話をされるのはうれしくない」と心情を吐露した。(共同通信5月21日) 

世界はすでに「一様」ではない風景に変わっていること、実に多様な考え方、立ち位置によって世界は動いているということを、私たちは知らされました。そうした多様な立ち位置の国々は米国に「まつろわない」という意味で「非米世界」という存在であり、すでに「非米世界」が世界の多数を占める{すう}趨勢にあるのです。米国一国覇権は衰退過程に入っていると言うべきです。世界は米国の思うようには動きません。それゆえに米国は同盟諸国を総動員してなんとか盟主としての地位、覇権を守ろうとしているのだと言えます。しかし、フランス、ドイツなどNATO諸国でさえ、必ずしも「米国一辺倒」ではありません。米国だけしか見ず、「日米同盟」の深化が全てという日本の在り方に対して根本的な省察が必要な時代に来ているのです。 

これが、「G7」後の世界と中国を見据える際に欠かせない視点であり問題意識だと考えます。 

 

人民中国インターネット版

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