「一帯一路」10周年国際シンポ 先達の歴史とメディアの在り方

2023-12-19 11:29:00

木村知義=文 

京でも秋の訪れが感じられるようになった1013日、「一帯一路」イニシアチブ10周年国際シンポジウムが開かれました。翌週の17日と18日に、北京で第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが開催されるのを前にしたタイムリーなシンポジウムの開催で、中国駐日本国大使館、中央広播電視総台アジア太平洋総局、中国外文局アジア太平洋広報センター、一帯一路日本研究センターによって共催されたものでした。『人民中国』の公式サイトに李家祺記者によるレポートが掲載されていますので、シンポの詳細についてはそちらに委ねることにして、ここでは会場に身を置きながら触発された気付きから2点に絞って申し述べておこうと思います。 

シンポジウムは2部構成で行われました。 

第1部の開会式では、呉江浩駐日本大使による基調講演はじめ、内外各界の多彩なゲストから「一帯一路」と中国に関わる充実したメッセージを聴くことができました。 

第2部は、「シンクタンク視点」「アジア太平洋対話」「メディアフォーラム」の三つの分科会でディスカッションが行われました。放送メディアで仕事をした筆者にもお声掛けがあり、「メディア」分科会のモデレーターを務めました。 

先達の歴史に思いをはせる 

エッ?とノートをとる手が一瞬止まりました。分科会で銀行、商社、物流といった実務に関わる方々のお話を聴き始めたときです。銀行と商社のお二人は自社紹介を、日中国交正常化の前から中国業務に取り組んでいたことに触れて語り始めました。 

そのメガバンクはそんな前から中国業務を始めていたのだろうかと考えて、ハッと気付きました。経営統合で今はその銀行名が消えていることに思い至り合点がいったのでした。私が思い当たったのは、元東京銀行(現三菱UFJ銀行)駐華総代表をお務めになった大久保勲氏でした。日中関係を回顧するテレビ番組などに何度も登場されていますので読者の皆さんもご存じかもしれませんが、大久保氏は、昨年9月「中国網(チャイナネット)」で、1971年1月に日中覚書貿易事務所駐北京事務所に赴任したことにはじまり、「歴史に残る大きな出来事を、昨日のことのように思い出す」として、周恩来総理の会見は何度も経験しているが、「最も忘れがたいのは711220日の会見であった。会見が始まってしばらくたった時、周総理が『この中に銀行の人がいますね』と言われた。私がそっと手を挙げると、周総理が『もっと前にいらっしゃい』と言われ、前に進み出ると、私の席が用意され、マイクも置かれた…」と回顧されています。 

商社の方は、72年3月、総合商社として初めて中国政府によって「友好商社」 と認定され対中国貿易を展開してきたと話を切り出し、中国とのビジネスの歴史を交えながら現在およびこれからの中国との経済協力について発言されました。ここではすぐに伊藤忠商事常務を務められた藤野文晤の顔が浮かびました。国交正常化前から社内で日中関係の重要性を説き、香港に赴いてまだ国交のない中国との関係づくりに努力を傾け中国とのビジネスの道を切り開かれたこと、その後北京で中国総代表として中国の経済人のみならず多くの指導者と信頼関係を築いた方であることを思い起こしたのでした。 

お二人とも、日中関係を考える際には忘れることのできない尊敬する大先達です。今回のシンポで登壇された方々は、このお二人の先達と比べれば世代はずっと若いのですが、日中関係における自社の歴史に誇りを持つがゆえに、わが事として、こうした自社紹介から始められたのだろうと思います。こうした大先達の先見性と血のにじむような尽力があって日中関係の現在があるのだと、いま一度胸に刻まなければと思ったのでした。 

ディスカッションに触発されて 

限られた時間の中で、日中双方2人ずつのパネリストに「一帯一路」とメディアについて意見を求め、さらにこれからのメディアの在り方について意見を交わすという、なかなか厳しい設定で臨んだディスカッションでした。 

中央広播電視総台(チャイナメディアグループ)アジア太平洋総局副局長の廖麗さんは事例を挙げながら、①現場に立って、自らの目でしっかりと見る②変化を知り、変化に目を凝らす③それを基に考え、思考を深めることが重要だと、メディアの本質に関わる問題を提起。長く『人民中国』の東京支局長を務めた中国外文局アジア太平洋広報センター副主任の于文さんからは、情報の氾濫するネット時代と「言葉の壁」という問題にも触れながら、いかに的確に伝えるのかという視角から、私たちの問題意識を触発、喚起する発言がありました。 

ジャーナリストとして活動する一方、大学で学生たちと向き合うという複合的な立場をお持ちの富坂聰さんからは、日本における中国報道がはじめに結論ありきに陥っている問題点を鋭く突くと同時に情報の受け手の側のリテラシーも問われていると重要な指摘がありました。フジテレビ国際取材部長の垣田友彦さんは、シルクロードにまつわる思いを語りながら、二度の北京支局勤務の体験から「もう少し自由に取材ができることを」と、これからに向けて問題提起をされました。 

4人の方々がそれぞれの立場と体験に基づいて率直に発言されてとても有意義な意見交換ができたと思いました。その上で、「もう少し自由な取材ができれば」という問題については日中双方でさらに議論を深めていくことを課題として残しながら、一方で、その前提として、取材という行為は双方の信頼関係において初めて可能になることを思い起こす必要があることを申し述べました。 

ジャーナリストならばみんな身をもって知っていることではあるのですが、取材を可能にするまで、相手との信頼関係を築くためにどれほどの努力の積み重ねが必要か、まして、国情、社会の仕組みが異なる中国において、取材する際に求められる信頼関係は一朝一夕に築くことのできるものではない、その重さをまず認識しなければならないのではないか、取材とは信頼関係があってこそだということを共有したいと、あくまでもその場で触発された私見としてですが、申し述べてディスカッションを締めくくりました。 

シンポジウムの会場に身を置きながら、この日のテーマである「一帯一路」イニシアチブに関わる知見を豊かにするだけでなく、私たちが中国と向き合う際に忘れてはならない歴史や先達の存在、また、メディアの在り方のみならず、双方の信頼関係の重要性とそれを築く大変さについても、しみじみとそして深く考える時間となったのでした。 

ここで申し述べたことはこの日のシンポジウムのほんの一断面だけですが、読者の皆さんと共に、中国と向き合う際の、目と耳そして感性を鍛え、思考をより深くするために、その一端を記しておこうと考えました。 

 

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