考察 中国・アフリカ協力フォーラム
今年9月4日から6日にかけて、中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)北京サミットが北京で開催されました。中国とアフリカ53カ国の国家元首、政府首脳、代表団団長、アフリカ連合委員会議長、外相と経済協力を担当する閣僚、さらにグテーレス国連事務総長らが出席しました。
開催を伝えるCCTVのニュースを見たとき思わず「エッ」と声を上げました。なんと全人代などが開催される会議場が、アフリカと中国双方の出席者で埋まる大規模な会合となっていたからです。その驚きとともに、これはしっかり勉強してみなければならないと触発されたのでした。そこで、「サミット」開幕式での習近平主席の基調演説、「歓迎宴」での習氏のあいさつ、「中国・アフリカ協力フォーラム―北京行動計画」(いずれも新華社=中国通信による)、「新時代の全天候型中国・アフリカ運命共同体の共同構築に関する北京宣言」(中国外交部HP)を読んでみることにしました。
「現代化」とは?
これらの文書を読むと、まず「現代化」が重要な論点となっていることに気付きます。習氏は基調演説でこのように述べています。
「現代化の実現は世界各国の奪うことのできない権利だ。西側の現代化のプロセスはかつて多くの発展途上国に深刻な苦難をもたらした。第2次世界大戦後、中国やアフリカをはじめとする第三世界の国々は相次いで独立と発展を遂げ、現代化のプロセスにおける歴史の不公平を是正してきた。中華人民共和国はまもなく生誕75周年を迎え、中国式現代化によって強国建設、民族復興の偉業を揺るぎなく全面的に推進している。アフリカも現在新たな目覚めの中にあり、アフリカ連合の『アジェンダ2063』が描く現代化の目標に向かって着実に前進している。中国とアフリカが共に追求する現代化の夢は、必ずやグローバルサウスの現代化ブームを巻き起こし、人類運命共同体構築の新たな一章を書き上げるだろう」。さらに、「国家の現代化建設を推進するには、現代化の一般法則に従うだけでなく、自国の実際にも合わせなければならない。中国はアフリカと国政運営の経験の交流を強化し、各国が自国の国情に適した現代化の道を模索することを支援し、各国の権利と機会の平等を確保していきたいと願っている」と語っています。
「現代化の一般法則に従うだけでなく、自国の実際にも合わせなければならない」という指摘は、私たちが普段「現代化(近代化)」という言葉で思い描くものへの省察を迫るものです。私たちの「現代化」概念は欧米化とほぼ同義のこととして語られてきました。しかし、そうではなくて、それぞれの国、民族の歴史や伝統、文化に根差した、内から湧き上がる内発性を大事にした現代化を目指そうというのです。西欧の近代世界システムとは異なる新たな地平で現代化の夢を描き、追求していこうというのです。それゆえに「中国とアフリカが共に追求する現代化の夢は、必ずやグローバルサウスの現代化ブームを巻き起こし、人類運命共同体構築の新たな一章を書き上げるだろう」というわけです。「グローバルサウスの現代化ブーム」という言葉に、新たな現代化への希求が世界を変えていくことを予感させられます。
そこで、少し元に戻って、私たちのアフリカ理解を整理しておかなくてはならないと思います。
アフリカとはどんな存在なのか
アフリカは「暗黒の大陸」と語られることがよくあります。アフリカを植民地とした欧州の帝国主義列強、あるいはアフリカから多くの人々を奴隷として連れ去った米国など、自らを「先進国」とする側からの驕りと差別を深く内包する言葉というべきですが、こうした「帝国の視点」とは別の視点から、「暗黒の時代」を強いられたアフリカの歴史について認識を深める必要があります。
よく知られていることですが、アフリカは人類誕生の地としての歴史を持っています。人類の起源は、およそ700万年前、東アフリカにあるとされており、およそ10万年前にアフリカでホモ・サピエンスが誕生し、そこからユーラシア大陸、北・南米など地球を巡る人類の「グレートジャーニー」が始まったのです。
そして多様な民族が住み、そこでは、まさにアフリカの人々が身にまとう衣装に見られる彩りそのままに多様な文化が育まれ、自然との共生のつつましくも豊かな生活があった地でもあります。しかし、近代欧州の帝国主義列強の植民地分割の抗争の地としてアフリカの人々の生活は蹂躙され、支配されるという歴史をたどりました。さらに第2次世界大戦後も、旧来の軍隊による暴力むき出しの抑圧支配、収奪による植民地主義から「装い」を変えた、経済の支配力を通じた新植民地主義の搾取、収奪に苦しむアフリカという時代が続きました。
こうした時代に被抑圧民族・人民への連帯を掲げ続けたのが新中国を誕生させた中華人民共和国でした。つまり、半封建、半植民地の苦しみを民衆の力ではねのけ革命中国を実現した中華人民共和国は、アフリカのみならずアジア、ラテンアメリカの新植民地主義の支配の下にあった人々を勇気づけ、自身の力で社会を変えることができるという希望をもたらすことになったのでした。
欧米帝国主義の言葉としての「暗黒の大陸」ではなく、まさに帝国主義の暴力的な支配に呻吟してきた歴史という意味で、アフリカは「暗黒の大陸」であったと言えるのです。その「暗黒」から脱して自らの歴史を取り戻し、自らの歴史をひらくアフリカの人々の苦闘は、筆舌に尽くしがたいものだということをわれわれはぜひ知っておく必要があります。かつて帝国主義列強の分割抗争によって暴力的に線引きされた「国境」や民族、人種の分断などによって現在もなお「争い」の絶えない社会状況に苦しむ人々がいることの背後に横たわる歴史に無知であってはならないと思います。
「真実親誠」と「義利観」
もう一つ、触発された言葉があります。習氏の基調演説で「中国とアフリカの兄弟姉妹らは真実親誠(真の友好協力・実りのあるウインウイン・親しい関係・誠実)理念に基づいて、手を携え前に進んできた」というくだりです。この「真実親誠」は「中国・アフリカ協力フォーラム―北京行動計画」でも登場します。「双方は中国アフリカ関係が真実親誠の理念と正しい義利観の導きの下で、開放と包容ならびに内容・性質の異なったものを受け入れることを堅持し、高いレベルの中国アフリカ運命共同体を共に築こうとする新時代に入ったことを高く評価した」というのです。ここでは「真実親誠」に加え「義利観」という言葉も登場します。「義」と「利」です。こうした言葉をどう理解するのか、このくだりに接したときよみがえる記憶がありました。
かつてNHK総合テレビで放送されたNHKスペシャル「チャイナパワー第2回 巨龍アフリカを駆ける」(2009年11月29日放送)の制作に関わったディレクターの話を聞いたことがありました。放送当時番組のホームページにはこんな「企画趣旨」が掲げられていました。
「世界的な経済危機のなかで巨大化する中国の存在感、企業の海外進出は勢いを増すばかりだ。その象徴は、各国のグローバル企業がこぞって進出しているアフリカでの活動である。豊かな天然資源、成長するマーケットとして注目を集め、将来の世界の経済成長の鍵を握るともいわれるアフリカ。欧米の企業が、経済不況で相次いで撤退し、現地がそのしわ寄せに苦しむ中で、中国企業はアフリカと共存共栄をはかるプロジェクトを次々と立ち上げ、そのシェアを急拡大している。エチオピアでは、世界で唯一、一国の携帯電話システムの整備を全てひとつの中国企業が引き受け、辺境の地で、文字通り道なき道をいくような工事が進行している。(中略)番組では、アフリカの開発の最前線で活動する中国企業に密着、そのあらたなネットワークはいかにしてつくられ、今後の世界でどんな意味をもっていくのか考えていく」
今のNHKの中国報道とは隔世の感ありという感慨を抱きますが、番組では、エチオピアの辺境の村で、重機も何もない工事環境で、中国から派遣された青年たちが携帯電話の中継無線塔を組み上げていく様子が映し出されました。電話が開通したときの村人たちの喜びの表情は言葉を超えたメッセージとなりました。
制作に関わったディレクターは「分厚いソールの靴を履いていても地面の熱さ(「暑さ」ではなく「熱さ」という言葉を使いました)が伝わってくる灼熱の中で、通信塔を手作業で組み上げていく中国の青年たちの姿を見て驚いた」と率直な感想を語りました。
村人たちの暮らしとまったく変わらない、クーラーもない仮設小屋で寝泊まりしながら工事に当たる青年たちの姿に心を揺さぶられたことを記憶しています。もちろんもう15年がたちますから、機械化や環境整備など、今ではアフリカ支援の様子も大きく進化しているだろうと思います。しかし、現地の人々と視線を同じくし、気持ちや暮らしを共にする支援の在り方は今も変わらず息づいているだろうと思います。つまり、「真実親誠」と「義利観」と語られることが理解できたというわけです。中国がこうした言葉に込める意味はどういうことなのかを実体的に捉えていくことがとても大事だと思うのです。
「行動計画」とアフリカの今後
そこで「利」の問題です。
ここで挙げたエチオピアにおける通信インフラの建設も、まさにアフリカに暮らす人々の「利」を向上させるものだったわけですが、今回の「行動計画」では「今後3年間、中国側がアフリカを支援する重点措置」について、文明の相互参照、貿易の繁栄、産業チェーンの協力、相互接続、発展協力、医療と保健、農業振興と民生改善、人的・文化交流、グリーン発展、安全保障の共同構築の「10大分野」における「パートナー行動」として詳細に語っています。そしてこの「10大パートナー行動」の実施を後押しするために、今後3年間、中国政府は2100億元の信用貸付資金枠の提供と800億元の各種援助、中国企業の対アフリカ投資を700億元以上推進することを含め、3600億元の資金支援枠を提供すること、また、アフリカ諸国が中国で「パンダ債」を発行することを奨励・支援し、中国とアフリカの各分野での実務的協力のために強力な支援を提供することを表明しています。さらに、こうした中国独自のアフリカへの支援策を「一帯一路」共同建設協力とアフリカ連合の「アジェンダ2063」、特に「アフリカインフラ開発計画」「国連の持続可能な開発のための2030アジェンダ」、アフリカ各国の発展戦略と緊密に連携させながら行動計画を進めていくことが提唱されています。
資金面での支援、協力にとどまらず、まさに「全天候型」の広い分野におけるアフリカへの支援、協力策が提起されているのですが、とりわけ、人材育成について実にきめ細かく挙げられていることが目を引きます。これら全てがアフリカの未来にとって重要な「利」として意味を持ってくると感じます。
こうした強力な実務的支援の「行動計画」の土台として、すでに実績が重ねられている「一帯一路」イニシアチブに加え「グローバル発展イニシアチブ」「グローバル安全保障イニシアチブ」「グローバル文明イニシアチブ」があり、加えて、先の中国共産党「三中全会」によって、中国が「中国の特色ある現代の社会主義」を目指す新たな歴史段階を歩むことになったことを確認、共有したこと、これらが総体として、中国とアフリカのこれからの協力関係において、大きな力となっていることを忘れてはならないと思います。
中国が、21世紀の時代におけるアフリカとの新たな協力関係を構想し、アフリカと中国の共同利益、ウインウインの関係を築きながらアフリカの飛躍、発展のために力を尽くそうとしている姿を見ながら、地球の未来に関わる大きく、重い意味を持つ地域であるアフリカについて認識を新たにするとともに、途上国への支援、協力の在り方について、多くの発見と触発を得たのでした。