もう一つの目で見つめた中米首脳会談

2026-05-18 10:59:00

5月、これまでにない世界注視の中で中米首脳会談が行われました。非常に多くのことを考えさせられた首脳会談だったと感じます。そこで、問題提起の意味も込めて、筆者が見つめた中米首脳会談についての「読み解き」の一端を述べてみようと考えます。

なぜ世界がこれほど注視、注目したのか

「これまでにない世界注視の中で」と述べましたが、かつてなくメディアの注目度が高かったということは皆さんもお感じになったと思います。一例を挙げれば、報道番組内で、トランプ大統領の搭乗機「エアーフォースワン」が着陸する前から空港から中継したり、トランプ氏を迎えての晩餐会を定時ニュースの中で中継を織り込みながら伝えたりと、これまでの中米首脳会談では記憶にないことでした。

では、なぜこれほど世界はトランプ大統領の訪中、習近平主席との首脳会談に注目したのでしょうか。それは一言で言えば、まさに世界が歴史的転換点に直面している状況の中でトランプ大統領が中国に赴き習主席との会談に臨んだということにあると考えます。

習主席の会談冒頭発言に世界と時代に関わる重要な鍵となる言説がありました。

「現在、100年に一度の変動が加速し、国際情勢は変化と混乱が交錯しており、世界はまた新たな岐路に立たされている。中米はいわゆる『トゥキディデスの罠』を乗り越え、大国関係の新たなパラダイムを構築することができるのか。手を携えてグローバルな課題に対応し、世界により多くの安定性をもたらすことができるのか。両国民の福祉と人類の未来に着目し、両国関係の素晴らしい未来を共に切り開くことができるのか。これらは歴史の問い、世界の問い、人民の問いであり、大国の指導者が共に書くべき時代の答案でもある」(新華網日本語版5月14日、以下引用は同じ)というくだりです。

ここに私たちが知るべき世界の大局と時代認識が集約的に語られています。とりわけ「『トゥキディデスの罠』を乗り越え、大国関係の新たなパラダイムを構築することができるのか」という問い掛けは非常に重要です。よく知られているように「トゥキディデスの罠」とは、ハーバード大学のグレアム・アリソン教授が、新興アテネの台頭に恐怖した覇権国スパルタが戦争へと突き進んだ歴史に倣い、急速に台頭する新興大国が既存の覇権大国の地位を脅かし、恐怖や猜疑心によって、望まぬ戦争に陥る可能性が高くなるという構造的なジレンマを指摘したものです。そうした「罠」に陥ることなく「新たなパラダイム」を構築することができるかどうかが問われているという語り掛けは、まさしく今が新たな世界秩序への道を開く「とば口」に差し掛かっていることを私たちに告げ知らせるものだと言えます。

今回の首脳会談を二国間の枠を超えたより大きな歴史的な文脈に位置付けたこの「問い」がまさしく世界共通の重い「問い」となっていることが、今回の中米首脳会談に世界の耳目を集めることにつながったと考えます。

こうした位置付けで見つめた今回の首脳会談は、「有理、有利、有節」の3語に集約されると考えます。

まず「有理」を追求した首脳会談

会談に関わって、メディアや識者からは、中国と米国のどちらが「勝つ」か、あるいはどちらに「分があるか」といった、まるで「勝負事」のように語る言説がかまびすしく聞かれました。こうした言説にくみするつもりはありませんが、率直に言えば、会談前から「勝負」はついていたと言って間違いはないと思います。つまり、中国の側が全てにわたって優位に立っていたということです。

トランプ氏との首脳会談は、直近では昨年10月、韓国・釜山でのAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議に合わせた会談でした。英「エコノミスト」が会談を前にして「「Why China is winning the trade war」という論評を掲載(10月23日)したことは本年3月号で触れました。「ベッセント米財務長官は、中国経済が『弱い』と発言している。だが現実は違う。中国は貿易戦争に勝利しつつある」として、中国が勝利している理由を3点にまとめて説得力のある論を展開しました。そして今回、香港を拠点に活動するブルームバーグのシニア・エディター、ジェニ・マーシュ氏は、トランプ氏が「昨年10月に韓国で行われた直近の会談時と比べ、はるかに弱い立場に置かれている」と指摘しました。ブルームバーグはまた「トランプ氏が経済的・戦略的な苦境の深まりに直面している一方で、中国がイラン戦争の余波への対処において相対的な成功を収めていることは、習氏が掲げる自立路線の正当性を裏付ける結果となっている」とも書きました。それゆえに、中国がどういう態度で会談に臨むのかが注目されました。

習主席は「中米の共通利益は相違を上回り、中米それぞれの成功は互いのチャンスであり、中米関係の安定は世界にとって有益である。双方はライバルではなくパートナーとなり、互いに成果を上げ、共に繁栄し、新時代の大国が正しく付き合う道を歩んでいかなければならない」と{じゅんじゅん}諄々と説きました。つまり考えや立場に違いがあったとしても、「理」を第一として大局に立つことをトランプ氏に促したというわけです。新華社によると中米両国関係の新たな枠組みとして「建設的な戦略的安定関係」を構築することに双方が同意したということです。「建設的な戦略的安定関係」とは、協力し合うことを基本とし、節度をもって競争して、意見の違いをコントロールできる平和的で安定した関係だとしています。この枠組みを、「今後3年、さらにはそれより長い期間の中米関係に戦略的指針を与える」ものにするというのです。

こうして見つめると、首脳会談はまるでトランプ氏の「学習の場」となっていることが見えてきます。習主席が「理」を説いてトランプ氏の悟りを求める場になっていたというわけです。

双方にとって「有利」が大事!

次は、「理」を説いた後に、「利」はどうなったのかです。

経済問題のそれぞれについて挙げていくときりがありませんが、今回トランプ氏に同行した経済人は半導体、IT、金融、投資ファンド、航空機など実に多彩で、トランプ氏が会談の場に経済人たちを招き入れるという異例の場面がありました。「私たちには最高の実業家たちがいる。規模も最大級で、おそらく世界最高の人々だ。彼らは全員、私とここにいる。世界のトップ30に声をかけたら、一人残らず、『イエス』と答えた。企業の二番手や三番手はいらなかった。欲しかったのはトップだけだ」(ブルームバーグによる)とトランプ氏が自慢げに紹介した陣容によって、経済、貿易における実務的な深化、相互の「実利」における多岐にわたる進展があったことがすでに知られています。また、当初、同行リストに載っていなかったエヌビディアのジェンスン・フアンCEOも急遽同行することになったことは、AI分野における中米の協力に新たな可能性が開けるのではと注目され、今後の展開から目が離せなくなりました。

習主席も会談の席で「米国企業は中国の改革開放に深く関与し、双方が利益を得ている。中国の開放の扉は、今後さらに大きく開かれていく。中国は、米国が互恵協力をさらに強化することを歓迎し、米国企業が中国でより広い発展の展望を持つと信じている」と述べています。

一方、北京で米国のテレビメディアCNBCのインタビューに応じたベッセント長官は、「中国が投資できる分野は数多くある」と語り、安全保障に抵触しない業界で中国企業の対米投資を容認する可能性を探る「投資委員会」の設置を両国で協議していることを明らかにしました。また、「儲けになるかどうか」の実利を重視するトランプ氏にとっては、大豆をはじめとした農産物の購入やボーイング機の受注において手応えを得られたことは大きな成果と言えるでしょう。経済、産業における競合、競争関係は続くとしても、中米二大国が対立、競争を管理できる状況は、中米両国にとどまらず、世界大の視界で大きな意義を持つ首脳会談になったと言えます。これが「有利」のゆえんです。

最も重要な原則としての「有節」

今回の首脳会談で最も注目されていたのは「台湾」を巡る問題だったと言えます。メディアや識者によって、トランプ氏が、従来「曖昧戦略」と言われてきた米国の立ち位置から踏み出す「危惧」が多く語られました。「台湾独立を支持せず」から「台湾独立に反対」へとトランプ氏を引き込みたいという中国の思惑があって懸念されるといった言説があふれたのでした。

会談での台湾に関わる習主席の言及はこうでした。

「台湾問題は中米関係の中で最も重要な問題である。適切に対処できれば、両国関係は全体的な安定を保つことができる。対処を誤れば、両国は摩擦を生じ、さらには衝突に至り、中米関係全体を非常に危険な状況に追い込むことになる。『台湾独立』と台湾海峡の平和は水と火のように相いれず、台湾海峡の平和と安定を守ることは中米双方の最大公約数である」

極めて端的かつ簡潔に全てを言い尽くしていると言うべきです。

ここでは、「台湾は中国の不可分の一部」ということは原則であり、原則というものはトランプ氏の専らとする「ディール」(取引)にはそぐわないという認識が必要だということを知らなければなりません。内政干渉となる台湾への介入は許されず、外勢による介入とそれに連動する独立の策動さえなければ台湾の平和は守られるという論理構造にあるのです。これが「有節」が重要となる意味です。このことを、また改めて、トランプ氏はじめ米国側が学ぶことを迫られることになったのです。中国そして習主席は、台湾問題は原則を巡る問題であることをトランプ氏に知らしめることが最重要だと考えていたことを認識できていれば、トランプ氏が中国に誘い込まれる懸念などといった姑息、浅薄極まりない発想で物事を考えることは起きていないと言うべきです。台湾問題への誤りない認識を迫ることは原則であり、どう力を加えても、あるいはどう「取引」しようとしても、一切動かすことのできない、すなわち曲げることのできないものだということを米国側に、また再び、学習することを迫る場となったのが今回の首脳会談だったというわけです。これが「有節」が今回の首脳会談の重要な鍵だという読み解きの意味です。

日本の私たちはどう進むべきか

最後に、今回の中米首脳会談に日本の私たちはどう向き合うべきか、です。

今回の首脳会談を受けて木原官房長官は記者会見で「会談におけるやりとりの逐一について政府の立場でコメントすることは差し控える」としたうえで、「わが国に対する影響も含め、今後、情報収集を進めながら適切に対応していきたい。引き続き、同盟国の米国との強固な信頼関係のもと、中国に対して、その立場にふさわしい責任を果たしていくよう働き掛けていくことが重要だ」と述べました。しかし、「中国に対して、その立場にふさわしい責任を果たしていくよう働き掛けていくことが重要だ」と言う前に、日本および日本の私たちは中国とどう向き合うべきなのか、自身の足下を厳しく見つめ直すことが必要ではないでしょうか。今こそ、昨秋の「高市発言」以来の日中関係のありように対する厳しい自己省察に基づいた日中関係の再構築、とりわけ信頼関係の回復に向けて真摯な努力を傾けるという覚悟こそが、歴史的と言うべき今回の中米首脳会談から学び取る態度でなければならないと考えます。

トランプ大統領は晩餐の席で習近平主席を国賓として9月に米国に招きたいと表明しました。また、11月にはAPEC首脳会議が広東省深圳で、さらに年末にはG20がフロリダで開催される予定となっています中米の首脳が顔を合わせる機会は複数回にわたる可能性があるということになります。今回の中米首脳会談はまだ「通過点」と位置付けるべきです。中国は多分、そうした長い射程でものを見ているだろうと思います。よって、私たちの中国と世界そして時代への視界をさらに広く、深くしていくことがますます大事になると考えます。

 

木村知義 (きむら ともよし)    

1948年生。1970年日本放送協会(NHK)入局。アナウンサーとして主にニュース報道番組を担当し、中国アジアをテーマにした番組の企画、取材、放送に取り組む。2008NHK退職後、北東アジア動態研究会主宰。  

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