浅薄な政治が国と国民を危うくする第2次高市改造内閣を読む
文=ジャーナリスト・木村知義
なんと浅薄な、そして危うい政権を作ろうとするのか……
9月17日午後、第2次高市改造内閣の陣容の発表を見ながら、さらに夕刻、45分に及ぶ高市早苗首相の会見をじっと視聴しながら抱いた感慨である。
今回の内閣改造は、大臣18人のうち8人が留任、残る10人が入れ替わり、うち7人が初入閣というものだが、要は「高市色」に沿うもの、ありていに言えば、高市氏が意のままに動かせる「顔ぶれ」だけで、あるいは高市氏におもねる人々で塗り固められた内閣と言えるものである。そして詰まるところ、全ては来年秋の総裁選での再選、高市政権の存続、すなわち権力の座になんとしても居続けるという一点に腐心した内閣改造および自民党役員人事だと言える。よって、今回の改造内閣の第一の特徴は「高市追従内閣」ということにある。
夕刻の会見で高市氏は「日本列島を強く、豊かにする、決断と実行の内閣」と強調し、「積極性と情熱」「挑戦」という言葉を繰り返した。しかし、政治が本来持つべきダイナミズム、躍動感が伝わってこず、繰り出す言葉はいずれも空虚に響かざるを得なかった。とりわけ、財務、外交、防衛、経済安保など政権の「骨格」をなす閣僚たちは高市氏の思考を一寸たりとも出ることがないことを露呈した。
問題は、大きく捉えれば、二つ。一つは、日本がこれからどのような社会となってゆくのか、もう一つは、外交・安全保障政策の今後、とりわけ昨秋の「高市発言」以来行き詰まっている日中関係をどうしていくのかということになる。この二つは深く相関する問題としてあることは言うまでもない。
「責任ある積極財政」「日本列島を強く、豊かに」と懸命に語る高市氏だが、物価の高騰に苦しむ庶民の生活は日々厳しさを増すばかりで、暮らしに光は見えない。さらに、政府の「借金」(国債・借入金・政府短期証券の合計)は膨らむばかりで、直近のデータでは、過去最大の約1346兆円(今年6月末)、政府総債務残高の対GDP(国内総生産)比は約204.4%に達しており、G7諸国で最悪の水準となっている。高市首相および内閣の財政状況に対する危機感のなさこそを危機とするのは、多くのエコノミストの指摘するところである。
内閣改造に時を合わせたように米経済メディアのブルームバーグは9月15日、「高市政権、防衛費GDP比3.5%に引き上げ検討-米圧力で試される財政運営」と見出しを掲げ「日本は防衛費を大幅に増やす意向を米当局者に示した」として「日本は北大西洋条約機構(NATO)や米国の同盟国と足並みをそろえ、防衛費を国内総生産(GDP)比3.5%に増額する新たな中期目標の設定を検討している。実現すれば、高市早苗政権の財政運営を懸念する金融市場に動揺が広がる可能性がある」と報じた。日本政府は沈黙を続けているが、報道の通りだとするなら、年内をめどに進む、「国家安全保障戦略」など「安保三文書」の見直しと合わせ、日本は世界有数の軍事力を備えた国家として階段を一段上がることになる。それとともに、日本経済は、防衛産業を成長のてことする構造的軍事化が進むことになる。同時に、防衛費の肥大化によって財政悪化リスクは一層高まり、庶民の生活を圧迫することは言うまでもない。
浅薄な政治が国と国民を危うくする
9月17日夕刻、日本経済新聞の「特報」によって、高市首相が改造内閣の発足に当たり、全閣僚向けに出した「共通指示」と各大臣に向けての個別の「指示」の全容が明らかになった。
「共通指示」第3項「外交力と防衛力の強化」では「『力強い日本外交』の維持・強化のため、日米同盟を基軸とし、『自由で開かれたインド太平洋』をわが国のイニシアチブにより進化させていく」「経済安全保障政策の推進、防衛生産基盤の強化をはじめとする防衛力の抜本的強化のための『戦略三文書』の見直しを進める」ことがうたわれている。
また、小泉防衛相に対する「指示」では、「日米共同の抑止力・対処力を一層強化する。その際、わが国の反撃能力をより効果的に発揮するための日米の協力態勢を構築するとともに、それぞれの指揮・統制の枠組みの向上と連携の強化に取り組む」「日米同盟を基軸としつつ、共同訓練、装備・技術協力を含め、日米韓、日米比、日米豪、日米印等の二国間・多国間の防衛協力・交流を推進するとともに、外務大臣をはじめ関係大臣と協力して、『自由で開かれたインド太平洋』を進化させ、地域の安全と安定を一層確保するための取り組みを主導する」ことなどが指示されている。
中国という具体国名こそ挙げてはいないが、端的に言えば、中国に対する抑止を強化して、「反撃能力」の名の下に「戦える日本」を目指すことを督励していると読むのが妥当だ。そして、日米同盟基軸をさらに強化して米国への隷従を一層深くする高市氏の「立ち位置」(思考)が強く反映されている。つまり今回の改造内閣の第二の特徴は、中国敵視と米国隷従の深化にあると言える。
なにより重要なことは、ここには、昨秋の自身の発言によって壊してしまった日中関係を省みる姿勢は全くうかがえないということである。
夕刻の会見において記者から、「11月のAPEC首脳会談に合わせた中国の習近平国家主席との会談の検討状況について」問われた高市氏は、「APECにおける会談の検討状況を含め、今後の外交日程につきましては、現時点で予断することは差し控えます。その上で、総理就任以来申し上げておりますが、中国は重要な隣国でございます。中国との間で戦略的互恵関係を包括的に推進しつつ、建設的かつ安定的な関係を構築していく方針というものは一貫しております。日中間に懸案、また課題があるからこそ、あらゆるレベルでさまざまな機会に対話を行い、意思疎通をしておりますし、それをとても重要だと考えております。これからも中国側と意思疎通を継続しながら、国益の観点から、冷静かつ適切に対応を行っていく考えでございます」と答えを返した。
「中国は重要な隣国」「戦略的互恵関係」「建設的かつ安定的」「あらゆるレベルでの対話」という、いつもながらの「決まり文句」がいかにもうつろに響くばかりだったが、居並ぶ記者からは「あらゆるレベルでの対話と意思疎通とは具体的にどういうものか」という「二の矢」の問いが投げられることはなかった。メディアの{たいらく}頽落も甚だしいと言わざるを得ない。
取り繕いでは問題は解決しない
8月末、2人の日本の国会議員が中国共産党中央委員会対外連絡部の陸慷副部長と面談したことが伝えられた。共同通信によれば、陸氏は昨年11月の高市早苗首相の「台湾有事」に関する国会答弁や、台湾に関する認識が変わらない限り中国政府は対日政策を変えることはないと述べたという。あくまでも非公式の面談で、具体的にどういう文言が使われたのか確たるところは分からないが、報道にある通り、「認識が変わらない限り」という言葉がここで使われたとしたら、極めて重い意味を持っていると受け止める必要がある。
すなわち、一部の政治家や中国研究者が躍起になって「修正」を図ろうとする動きに見られるように、高市発言の「文言」をあれこれ言い繕うことでは問題の本質は解決しないということである。土台にある日中関係、とりわけ「台湾問題」(両岸関係)など全てを包み込む、日中国交正常化に至る日中の歴史的歩みとそこで確認された原則、その後日中間で交わされた確認、原則など、日本と中国の歴史に対する認識総体が問われているのである。高市氏の中国観、中国認識(それは世界観、歴史観と不可分であることは言うまでもない)が根底から問われているのである。中国との外交は、手練手管を弄した「取り繕い」では乗り切れないと肝に銘じるべきなのである。これは独り高市氏にとどまることではなく、日本のわれわれ全てが向き合うべき問題だということを忘れてはならない。
もう一つ、今回の高市改造内閣の発足に当たって見落としてはならないのは、日本維新の会の入閣である。維新は公約の中で「核共有を含む拡大抑止の議論開始」「脱専守防衛」を掲げている。高市氏の政治的「立ち位置」と極めて親和性があると言える。つまり、戦後保守がよって立つ「非核、軽武装」と「専守防衛」そして日中関係を重視する姿勢を、高市氏が踏みにじっていくことと「共振・共鳴」するものとなるのだ。今回の高市改造内閣が、戦後保守の歩みさえ踏み越えていこうとする現在の日本の政治状況は危機的だと言わざるを得ない。(なお、現在の自衛隊は「軽武装」などとはほど遠い強力な軍備も持ち、「専守防衛」も安倍政権以来の「安保法制」などによって、すでに踏み越えられているのだが、それでも、辛うじて、戦後の「穏健保守」が掲げ、踏みとどまろうとしてきたという意味で述べていることに留意が必要である)
さらに、国会における勢力図をもとに考えれば、高市氏が「宿願」とする「憲法改定」も視野に入って来る改造内閣だということである。振り返れば、2月の総選挙期間中に高市氏が掲げた「責任ある積極財政への大転換」と「安全保障政策の大転換」という二つの「大転換」がまさに現実となる事態を迎えていると言えよう。日本維新の会が閣内に入ることの意味も見落とせないことを忘れてはならない。
このように、第2次高市改造内閣を見据えると、日本社会のこれからに希望を抱くことができないばかりか、極めて危険な道を歩もうとする意志が見えてくる。なかんずく、高市政権による日中関係の打開、進展に向けて真摯な努力がなされるとは考えられない、実に寒貧たる新内閣の発足だと言えるのだ。
日本のわれわれにとって、覚悟を持って対峙することを迫られることになったという思いを強くするのである。

木村知義 (きむら ともよし)
1948年生。1970年日本放送協会(NHK)入局。アナウンサーとして主にニュース・報道番組を担当し、中国・アジアをテーマにした番組の企画、取材、放送に取り組む。2008年NHK退職後、北東アジア動態研究会主宰。