福建人が作った遵義紅

2017-11-01 09:53:53

                                                              文・写真=須賀努

 

 貴州省遵義、と言えば、中国共産党があの歴史的な長征を行った際、重要会議、いわゆる遵義会議が開かれた場所として有名だ。たまたま遵義に行かないかと誘われ、なかなか行く機会もないので、無理をして飛んで行った。貴州省のお茶と言えば、都匀毛尖という銘茶もあり、どうしても緑茶のイメージが強い。果たして紅茶はどんなものだろうか。

                            世界最大級の茶畑で紅茶栽培 

 

 われわれ一行は遵義の空港に降り立ち、そのまま車で湄潭県に向かった。ちょうど4月の終わり、ここで貴州の茶業博覧会(茶博会)が開かれていたのだ。茶博会は今や全国各地で定期的に開催されており、特に珍しいものではないが、貴州省は近年観光と茶業に殊のほか力を入れており、非常に盛大な開幕式が行われ、少数民族の衣装を着た売り子が盛んに茶葉の販売を行っていた。 

 何しろ湄潭県の郊外には、広大な茶畑が広がっており、小茶海、中国茶海と名前が付くほどの規模になっている。実際に中国茶海を訪ねてみると、何と360度、視界の全てが茶畑といった光景が人々を驚かせる。総面積4万ムー(約2600?)、世界でも最大級の連続する茶畑だと説明を受けた。この10年、貴州省全体の茶畑面積は約7倍に急拡大し、中国全体で見ても雲南省と並ぶ面積を誇るまでになってきている。ここは茶畑でもあり、それ自体が観光地でもある。貴州の目指していることがうかがえる場所と言えるだろう。

                    

                            どこまでも茶畑が続く中国茶海

 

 ここではずっと緑茶の生産が続けられてきたが、近年紅茶へのシフトが進んでいるらしい。もともと貴州の紅茶は存在していた。それは雲南省の滇紅と時を同じくして、1939年に試作が開始される。理由は日本軍の侵攻である。この地が紅茶栽培に適していると見抜き、茶樹を植え、試験場を作ったのが、第4回で紹介した張天福氏、国民政府に派遣された若き日の中国茶専門家であったというのはまさに歴史だ。今回同行した張夫人によれば「この山区にたどり着くのに馬と徒歩で1カ月近くかかり、それは大変な道のりだった」とご本人が回想しているという。なお張先生は去る6月4日、数え年108歳(茶寿)で天寿を全うされ、旅立たれた。ご冥福をお祈りしたい。 

 張氏が建てた中央試験茶場跡は今も山の上に残っており、付近にいい感じの霧が立ち込める中、茶畑が広がっている。ここはいわゆる中国茶の故郷と言われる雲貴高原の一帯なのだ。張氏がここを選んだのもうなずける。さらには茶工場跡もほぼ完全に残されており、そのレンガの建物の中には、初期の貴重な製茶道具が数多く展示されていた。今でも紅茶が作られているような、そんな香りがする場所で一見の価値がある。 

 1950年代には湄紅と呼ばれたリーフタイプの紅茶が作られていたが、58年にはいわゆるCTCタイプ(茶葉を細かく粒状に丸める製茶法)が導入され、これを黔紅と称した。茶葉も雲南や福建から大葉種が導入され、60年代以降、大量生産され輸出されていった。だが80年代以降は、その競争力に陰りが見られ、生産が減少、この地区はほとんど緑茶になっていく。いわゆる「紅改緑」と呼ばれる政策だ。中国人が飲むお茶は緑茶であり、紅茶ではないという判断からだ。 

                   

                               茶博会で茶葉を売り込む

 

 今回の茶博会で、見慣れぬ紅茶があった。遵義紅と呼ばれるこの紅茶を最初に生産した茶工場へ足を向けてみた。何と生産者は福建人だった。琦福苑のオーナー葉文盛氏、彼らは福建より貴州の将来性に着目して、2003年から投資を始め、福建産の品種を持ち込み、CTCではなく、福建の技法で紅茶を作り、遵義紅という新たなブランドを確立した。もちろん土壌や気候は異なるが、貴州の湄紅と福建の特性を織り交ぜた、独特の紅茶作りを目指している。福建を中心に活躍した張天福氏の意志を、福建人が継いでいく、そんな茶業もあるかもしれない。

  

                          資金提供で誰でも茶園主に 

 

 もう一つ、今回目に付いたのが、蘭馨茶業。こちらは前述した小茶海と呼ばれる広大な茶畑を有しており、そこを散策するには30分以上かかるほど広い。「茶葉を売るのではなく、茶畑を売っている」と同行の茶業者が驚いていたその手法。希望者に資金を提供してもらい、小さな茶園主になってもらう試み。茶園主には茶園で作られた茶葉が送られ、さらに必要なら割引で茶葉を買え、敷地内の施設内での宿泊、食事などが優遇される。既に多くの人々がこの1株茶園主に出資しており、茶畑を回ると、出資した人のプレートがはまっている。まずはここの紅茶(緑茶もある)を知ってもらい、ファンを増やし、そして口コミで広げる、巧みな戦略が感じられる。 

 蘭馨茶業の総経理、蒙永紅さんは、筆者から見ると、猛烈な営業ウーマン。どんな相手とも仲良くなれ、仲良くなった相手の要望は何でも聞く、その彼女の誠実な姿勢には驚かされた。その深い人脈は、茶博会中、一体どれだけのお客が彼女の元を訪れたのか、と思ってしまうほど、全中国から人が集まっていた。貴州省の茶業および観光業を支えていくのは、このような情熱に満ちあふれた人材ではないだろうか。

 

人民中国インターネット版 2017年8月

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