欧州勢が盛んに訪中外交 春節は世界の「黄金週」に

2018-04-28 11:14:01

江原規由=文

 

 世界の中国に対する関心期待の高さや中国経済社会の変化の速さには目を見張るものがあります。

「馬到成功」狙うフランス

 1月8日から10日までフランスのマクロン大統領が訪中し、良馬を贈ったことが話題となりました。フランス大統領府によれば、良馬は両国の友誼をさらに強化するシンボルであり、その贈呈は、中国の「パンダ外交」(2012年、中国がフランスにつがいのパンダを貸与)への答礼でもあるとしています。中国には、「馬到成功(着手すればたちどころに成功する)」という言い方があります。良馬には、ユーラシア大陸の東西を代表する両国が協力関係の強化で「早期成果」をとのフランスの期待も読み取れるようです。

 さて、中仏両国の「馬到成功」ですが、首脳会談後発表された4000字に及ぶ共同声明の中に認められます。そこでは、緊密かつ持続的中仏全面戦略伙伴関係(パートナーシップ)(注1)の推進、「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」の枠組み内での協力強化、新型国際関係の構築での協力、デジタル経済人工知能(AI)先進製造業などの分野での共同発展、インターネット未来工業分野での国際ルールづくりでの協力などがうたわれています。具体的には、中国の「メイドインチャイナ2025」とフランスの「未来工業計画」の連携、22年北京冬季オリンピックパラリンピックと24年パリ夏季オリンピックパラリンピックなどスポーツ交流強化、民用核エネルギー―分野での積極協力、貿易投資自由化促進、人材育成協力強化など。共同声明以外では、中仏両国の多国籍主要企業からなる中仏企業家委員会(注2)が成立したことや習近平国家主席が昨年5月の「一帯一路」国際協力サミットフォーラム(北京)で発表した国際輸入博覧会(今年11月、上海で開催)(注3)にマクロン大統領が高級政府代表団と大規模企業ミッションを派遣するとした点が注目されます。

■脱EUの英国は「渡りに舟」

 131日から22日まで英国のメイ首相が約50人からなる経済貿易代表団を同行して訪中しました。首脳会談で、メイ首相は、15年の習主席訪英により、中英関係は「黄金時代」を切り開いたと評価し、一方、習主席は、この「黄金時代」をさらに強化していく必要があると力説しています。例えば、両国の発展戦略の連携強化、金融、原子力発電分野での協力強化、投資促進、AI、デジタル経済、シェアリング経済、「一帯一路」構想の枠組み内での協力強化など。実際、中国商務部(日本の省に相当)は、「中国と英国は、『一帯一路』建設、金融、農業、イノベーション、科学技術などの各分野で、総額90億ポンド(約14000億円)の経済貿易協力協議を締結する」と公表しています。このほか、雄安金融テクノシティー建設協力や青島中英創新(イノベーション)産業パークの共同建設で合意しています。注目すべきは、中英企業家委員会(注4)設立大会同第1回会議が開催されたこと、そして、中国が、狂牛病(牛海綿状脳症、BSE)の発症で22年間禁止されていた英国産牛肉の対中輸入を解禁すると発表したことが指摘できます。

 中英黄金時代の幕開けは、欧州連合(EU)からの脱退を控えた英国にとって、「渡りに船」とする内外の識者が少なくありません。フランスとの「馬到成功」の協力強化もそうですが、中英黄金時代の幕開けは、中国が提唱している新型国際関係構築までの距離、そして、世紀の大事業とされる「一帯一路」の行方をみる重要な視点を提供しているといえるのではないでしょうか。

■「一帯一路」への参加と支持

 マクロン大統領、メイ首相のほか今年の春節までの短期間に、中国を訪問した元首要人は、北欧のフィンランド、ノルウェー、スウェーデンやアイスランド、バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の議会指導者、オランダのウィレム=アレクサンダー国王、そして、キャメロン前英国首相と、いずれも欧州勢(順不同)です。訪中時の首脳会談で最も多く言及されたのは、「一帯一路」における協力強化についてでした。例えば、氷上シルクロードの共同建設、「一帯一路」と「琥珀の道」(注5)の連携への参加支持表明などが指摘できます。

 これまで、英仏両国は米国とともにグローバルガバナンスの構築に大きく関わってきました。今回の欧州各国要人の中国訪問は、「一帯一路」が中国と欧州の政治的かつ経済的距離、時間的距離を急速に縮め、名実ともに「世界の公共財」になりつつあることを物語っているのではないでしょうか。同時に、今、歴史が時代のニーズに合ったグローバルガバナンスの構築を求めているとすれば、この「世界の公共財」は、中国が提起する、新時代の「公正で合理的な」グローバルガバナンス構築のためのプラットホームになりつつあることを、世界に印象付けたのではないでしょうか。

■休暇中に650万人が海外

 来る人あれば行く人ありです。3月の全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)が閉幕すると、習主席をはじめ中国要人の外遊が始まりますが、中国人民の外国詣ではすでに始まっています。春節期間(215日~21日)とその前後に海外旅行に出た中国人は延べ650万人超(主要国内200都市から世界68カ国地域の700都市)で過去最高になると予測されています。春節という中国の伝統的かつ最大の休日が、今や、地球規模のゴールデンウイークとなりつつあるといっても過言ではないでしょう。中国観光研究院によれば、最も人気が高い目的国トップ10は、タイ、日本、シンガポール、ベトナム、インドネシア、米国、マレーシア、フィリピン、オーストラリア、カンボジアの順で、うち、7カ国(東アジア中心)が「一帯一路」沿線国です。短期間にこれほど多くの国民が海外旅行に出る国は中国をおいてほかにはなく、世紀的変化といえるのではないでしょうか。

■中国人観光客をターゲット

 こうした中国人観光客を取り込むため、世界は各種各様の対応を取りつつあります。英国では、今年のイヌ年にちなんで、女王陛下の飼い犬で大英帝国のブランドとされるウェルシュコーギーに中国人観光客の取り込みに一役買ってもらってはいかがかとの声が高まったと報じられています(注6)。熊本県のクマモン的存在にしようということになります。今や、中国の春節は、英国の女王陛下に言及されるほど国際化しつつあるといえるでしょう。

 中国観光客が増え、中国文化風俗習慣が国際化されれば、中国のソフトパワーが発揮されることになります。セルビアの首都ベオグラードでは、今年の春節時に、十二支や犬に関する李白、杜甫、陶淵明の詩の紹介に市民が興味津々だったとのことです。

 今年は、改革開放40周年に当たります。改革開放は中国経済や春節の国際化を推進し、今や、「一帯一路」の登場で新時代の新型国際関係の構築にも大きく貢献しようとしています。良馬外交や春節に関わるウェルシュコーギーの一件は、まさにそのことを能弁に物語っているのではないでしょうか。

 

1本誌今年3月号の本欄を参照。

2中国銀行、中国移動等国有11社、アリババ、華為(ファーウェイ)等民営4社とエアバス、ルイヴィトン等仏企業17社。

3主催協力機関は商務部、世界貿易機関(WTO)など。国内外から約15万社のバイヤーが参加予定。

4金融、エネルギー、自動車、通信、交通、医薬など中仏代表企業31社で構成。

5古代の琥珀交易路。欧州ーアジア、北欧ー地中海間の交通路。

6『環球時報』(222)が英国の『インデペンデント』紙(20)を引用して報道。

 

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