大阪G20で存在感を示す 習主席が新時代構築提案
江原規由=文
「一度あることは二度ある、二度あることは三度ある」との言い伝えがありますが、今、世界経済はまさにその三度目を経験しているようです。過去20年間に、世界経済を揺るがせた危機が三度、10年ごとに発生しています。すなわち、1998年のアジア通貨危機、2008年のリーマンショック(国際金融危機)、そして、18年から顕著となる保護貿易、一国主義の台頭です。前2度の危機の火消し役として、世界経済の安定に大いに貢献したのが中国でした。三度目はどうでしょうか。自由主義と多国間主義の堅持を主張する中国は、目下、米国との貿易摩擦の真っただ中にいます。果たして、今回も世界経済安定に向けた中国による「三度目」はいつ、どのようにして起こるのでしょうか。
リーマンショック後に誕生
国際通貨基金(IMF)の今年の世界経済見通しによると、4月時点の成長率(予測)は、1月時点のそれに比べ、中国(0・1ポイント増)を除く主要経済国でマイナスとなっていて、世界全体では3・3%(0・2ポイント減)で、世界経済の下方リスクが懸念されています。
そんな情勢下、6月28、29日両日、大阪で主要20カ国・地域(G20)首脳会議が開催されました。G20はリーマンショックを契機に発生した経済・金融危機に対処するためのフォーラムとして開催されているもので、いわば、リーマンショックの「落とし子」といってよいでしょう。
四つの提案と五つの措置
習近平国家主席は、G20首脳会議での発言(テーマ「手を携えて共に進もう、力を合わせて高水準の世界経済を構築しよう」)の中で、開口一番にこう発言しています。「国際金融危機発生から10年後、世界経済は再び十字路を前にしている。保護主義、一国主義の台頭は続いており、貿易・投資紛争は過激さを増している。(中略)G20は国際経済協力の主要フォーラムであり、われわれは、世界主要経済体のリーダーとして、この重要な時期に世界経済とグローバルガバナンスの針路をしっかり定める責任がある」と。習主席のこの発言から、世界経済が、中米貿易摩擦の是正もさることながら、新時代の国際経済・貿易ガバナンスの再構築に直面していること、すなわち、習主席の発言を借りれば、「すでに、世界経済は新旧エネルギーの転換期に入っている」ということです。では、世界第2位の経済大国として、中国は現在の世界情勢にどう対応しようとしているのでしょうか。習主席発言では、四つの提案(建議)と五つの措置が示されています。
四つの提案のほうはG20向けメッセージとなっています。その要点は、①デジタル経済の発展、社会保障措置の完備など未来の発展に向けた産業構造、政策枠組みの構築など②時代の変化に対応したグローバルガバナンスの適正化――多角的貿易体制の強化、世界貿易機関(WTO)改革、気候変動対応に関する多国間の国際的な協定(パリ協定)の実施など③発展のボトルネックの解消――持続可能な開発目標(SDGs)への対応、「一帯一路」の推進など④パートナーシップの堅持――相互信頼、大同小異、コンセンサスの拡大など。
また、中国の対応としての五つの措置は、①さらなる市場開放――19年版外資参入ネガティブリストの公表、6自由貿易試験区(FTZ)の新設など②積極的輸入拡大――関税率水準の引き下げ、非関税障壁の解消努力③ビジネス環境の改善――来年1月1日からの新規外商投資法律制度の実施、知的財産権保護水準の向上など④平等待遇の完全実施――ネガティブリスト以外の外資参入制限の完全撤廃など⑤自由貿易協定(FTA)の積極推進――東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、中国―EUFTA、日中韓FTAとなっています。
このうち、特に注目したいのが、4提案では、デジタル経済の発展とグローバルガバナンスの適正化です。現在、世界は、人工知能、モノのインターネット(IoT)などに代表される第4次産業革命期に入りつつあり、人類の未来に急激かつ大きな変化をもたらそうとしています。今回のG20のデジタル経済はその中核に位置し、世界経済の発展に新たな機会を提供しつつあるといえます。その一方、デジタル経済には国際的なルールづくり、協力体制の強化が求められています。この点、G20の「大阪宣言」で、国境を超えるデータ通信の国際ルールづくりの枠組み「大阪トラック」の創設が宣言されたことからも明らかです。デジタル経済は中国での発展が著しく、習主席の提案はそうした現状を踏まえてなされたと考えられますが、その発展は、何より、国際経済ガバナンス、グローバルガバナンスの適正化(改革や再構築)を促進することになるのではないでしょうか。
五つの措置では、習主席の発言にある「世界主要経済国のリーダーとして、この重要な時期に世界経済とグローバルガバナンスの針路をしっかり定める責任がある」との中国の姿勢を具体的に示したことになるでしょう。この点、FTAの積極推進において、RCEP、中国―EUFTA、日中韓FTAに言及されていますが、近い将来、4提案にあるパートナーシップに基づく一帯一路FTAネットワークの構築が焦点となると考えられます。
G20は経済規模にして世界全体の90%、貿易額にして同80%ほどを占めています。そのほとんどの国が、中国を主要貿易相手国、経済連携パートナー国としており、また、中国は世界経済の成長率への貢献率において30%以上と群を抜いています。こうした中国の一連の提案と措置が、「三度目」になると、大いに期待されるでしょう。
6月に大阪で開かれた第14回G20サミットの国際メディアセンター前に設置された大きなシンボルマーク(cnsphoto)
中米、日中首脳会談の成果
G20では、中米首脳会談に注目が集まりましたが、その折、習主席は1971年に日本で開催された世界卓球選手権大会を契機に、中米関係が劇的に改善された「ピンポン外交」のことに言及し、「協調と協力、安定を基調とした両国関係を推進したい」と発言したとされています(NHKNews WEB 19年6月29日)。一方の米国は「対中追加関税第4弾」(3000億㌦超の輸入品に対する追加関税徴取)を見送るなど、「一時休戦」状況をつくり、対話による解決の余地を残しました。主要国首脳が集うG20のなせる業といってもよいでしょう。
日中首脳会談では、安倍晋三首相が、「日中関係は完全に正常な軌道に戻った」と述べ、これに対し、習主席は、「中日関係は新しい歴史的スタートラインに立っている」と応じています。多国間主義、自由貿易を支持している点で日中両国は一致しています。78年12月、改革開放政策が打ち出された中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議(三中全会)が開催される直前、同政策の生みの親である鄧小平氏が来日しました。以後、日中関係は熱烈歓迎の時代を迎え大きく発展しました。来年、国賓として来日する習主席に、鄧氏に続く「一度あることは二度ある」成果を期待できるのではないでしょうか。
時代要請に応える「枠組み」
中米、日中両国に限らず、G20は首脳会談の場でもあります。ちなみに、習主席がG20開催中に会見、会談した各国首脳、国際・地域組織代表は国連、アフリカ指導者、新興5カ国首脳会議(BRICS)各首脳、ロシア、インド、日本、韓国、南アフリカ、インドネシア、ドイツ、米国、フランスでした。
総じて、今回のG20は、新時代のグローバル化、デジタル化などに既存の国際協調・協力の「枠組み」をどのように調整し、時代の要請に応えたものにしていくのか、との問題提起に大きな一石を投じたといえるでしょう。