70周年迎え国際化へまい進 第4次産業革命で提携が鍵
江原規由=文
今年は新中国成立70周年の節目の年です。人でいえば古希、長寿を祝う年齢になったわけです。そんな70歳の中国を経済発展史的に見ると、いろいろな見方ができますが、新中国成立(1949年~)、改革開放(1978年~)、「一帯一路」(2013年~)の3区分が考えられるでしょう。見方を変えれば、中国は、政治重視、経済優先、そして、民生向上・国際交流の時代へと、施政の重点を移してきたといえるのではないでしょうか。
さて、新中国の経済70年の実績は枚挙にいとまなしですが、例えば、国内総生産(GDP)は昨年、1952年比で175倍(年平均成長率8・1%)、就業者数では昨年、49年(1億8000万人)の4倍以上(7億8000万人)になりました。そして、2020年には小康社会(ゆとりのある社会)の実現が確実視されるなど、比類なき成果を収めたといえます。経済優先の改革開放期(1979~2018年)で見ると、GDPは30倍以上(同9・4%)と、やはり世界に類を見ないほどの発展を遂げています。今や、中国は世界第2位の経済大国、世界最大の製造大国かつ貿易大国で、昨年時点で、13年連続で世界経済成長の最大のエンジンとされています。
こうした新中国成立70年、とりわけ、改革開放40年の中国経済の発展は、世界との合作共贏(協力・ウインウイン)によるところが大きかったといえるでしょう。
外資96万社進出は世界最多
現在、中国には世界最多の96万社の外資企業が進出しているとされています。こうした外資企業が中国経済の発展(雇用創出、小康社会の実現など)に果たした貢献、役割は言うに及ばないでしょう。今年8月、中国は外資導入の最前線ともいえる自由貿易試験区(FTZ)を6拠点増やし、18拠点とするなど、外資企業との合作共贏の機会を積極的に構築しています。この点、中米貿易摩擦が激化する中、米国最大の会員制の倉庫型卸売・小売店コストコが、8月に上海で大陸部店舗第1号をオープンしたことからも見て取れます。オープン初日には、混乱のため開店4時間後に一時営業を停止するほどのにぎわいとなり、マオタイ酒やブランドバッグなどの高額商品もあっという間になくなるほどの盛況だったと報じられています。
同時に、中国の対外展開も目立ってきています。目下、中国は実質的に世界第2位の対外直接投資国であり、近年、第三国市場や「一帯一路」沿線国市場を開拓するなど、海外展開を積極化してきています。例えば、商務部(日本の省に相当)によれば、今年1~7月、中国の投資家は世界153カ国・地域の4088社に対し、直接投資(非金融分野)していることなどからも明らかです。中国の対外経済協力はグローバルに、より多様化しつつあります。このほか、中国人の昨年の海外観光客数が世界最多(約1億5000万人)であったことも、世界との合作共贏の大きな成果の一つといえるでしょう。その合作共贏の行方に大きな影を落としているのが中米貿易摩擦です。
世界恐慌「二の舞」の懸念も
新中国成立70年の中で、戦後最大の貿易摩擦ともいえる中米貿易摩擦をどう見るか。中国内外のメディアを見ると、米国の行き過ぎた対応を発信する報道、世界の声が目立ちつつあるようです。例えば、
「米国の対中追加関税、米国民の生活直撃―米小売業界の声」(ロイター通信 8月30日)「これがトランプの対中貿易戦の手口か?」(『ニューヨーク・タイムズ』8月29日)などで、新中国成立70周年の今年、中国は中米貿易摩擦に限らず、時代の大きな潮流に直面しているといっても過言ではないでしょう。今年は、新中国成立70周年の節目の年であると同時に、中米国交樹立40周年、そして、1929年にウォール街のニューヨーク株式市場の大暴落を契機に発生した世界恐慌から90年の節目の年でもあります。
いずれにも、米国が大きく関係している点で、現下の中米貿易摩擦がほうふつされます。当時とは、時代的背景やグローバルガバナンスが大きく異なっており、単純比較はできませんが、経済規模で世界第1位、第2位の経済大国間の中米貿易摩擦は、先行きが見通せず、世界経済に大きな影響を及ぼしつつある点で、90年前の世界恐慌の二の舞にならないかと懸念する向きは少なくありません。
歴史的合意となった中米国交樹立は、その後、中国と米国との間に多くのウインウイン関係を構築し、世界経済の安定発展に大きく貢献してきたことは多くの人の認めるところです。それに比べれば、現下の中米貿易摩擦での合意はどれほど難しいのでしょうか。最近の世界の報道には、そんな世界の声が代弁されているといっても過言ではないでしょう。もう一点、40年前の米国は、グローバルガバナンスの形成で圧倒的な影響力を持っていました。今、中国は公正で客観的なグローバルガバナンスの改革を提起しています。中米貿易摩擦の一つの核心がここにあるといえるのではないでしょうか。
中国大陸部1号店として8月下旬、上海にオープンした米国最大の会員制倉庫型卸売・小売店コストコ。ネットで有名な巨大なぬいぐるみのクマがお出迎え(cnsphoto)
5Gでも中米が激しく競合
90年前の世界恐慌時代と新中国成立70周年の関係を時代の変遷からみると、こんな比較も可能ではないでしょうか。90年前、ラジオは米国人の「三種の神器」の一つでした。20年にペンシルべニアで世界初の定時ラジオ放送が開始され、29年には、ラジオは全家庭の40%に普及していたといわれます。当時のラジオは、第2次産業革命期終盤の花形製品であったことになります。第4次産業革命期は人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、ロボットなどが産業、社会をリードする時代に入ったとされ、当時のラジオは、さしずめ第5世代移動通信システム(5G)携帯電話に相当するといえるのではないでしょうか。第4次産業革命における5Gの応用・普及でも、今や中国と米国は激しく競合しつつあります。中米貿易摩擦の最前線といってもよいでしょう。
ところで、米国発の世界恐慌はフランクリン・ルーズベルト大統領下で展開されたニューディール政策で乗り切ったとされています。現下の中米貿易摩擦に対する中国の有効な処方箋としては、「一帯一路」の推進、5Gをはじめとする第4次産業革命の国内外における成果普及、海外との連携強化が期待できるのではないでしょうか。
ソフトパワーを世界に発信
新中国成立70周年の今年、中国は大きな節目の時代を迎えました。歴史的に見て、産業革命をリードした国がグローバルガバナンス改革を担ってきています。第1次産業革命は英国が、第2次と第3次産業革命では米国がその役目を務めてきたといえます。その間の米国の最大の切り札は、アメリカンドリームの実現というソフトパワーを世界に発信してきたことでした。世界恐慌発生の前年、全米で大ブームとなったミッキーマウスも、米国のソフトパワーとして今も世界に夢を提供しています。第4次産業革命ではどうでしょうか。米国はアメリカンドリームの世界との共有から、今やアメリカファーストの「一国主義」を強調しています。一方、中国は第4次産業革命におけるプレゼンスを確実に高めつつあります。今後、中国は、グローバルガバナンス改革と第4次産業革命で、世界とどう連携し、エコノミックパワー同様、中国のソフトパワーをいかに国際化していくか、新中国成立70周年は、そんな大きな節目の時代と向き合っているといえるのではないでしょうか。