5年後も30年後も世界一 二つの「国別番付」が予測

2019-12-26 16:26:09

江原規由=文

今年10月、国際通貨基金(IMF)と世界4大会計事務所の一つであるプライスウォーターハウスクーパース(PwC)が、相次いで大変興味深い、未来における国別番付を発表しました。

IMFの発表は、5年後の世界経済の国内総生産(GDP)成長率に対する国別寄与率番付、PwCの発表は、2050年におけるGDP国別番付です。

その上位10傑を見ると、IMFでは、①中国②インド③米国④インドネシア⑤ロシア⑥ブラジル⑦ドイツ⑧トルコ⑨日本⑩エジプトの順で、米国の世界経済の成長率に対する寄与率が13・8%から9・2%と下がっているのに対し、インドが13・5%から15・5%へと上昇していることが注目されます。ちなみに、IMFは今年の世界経済の成長率を3・0%と予測していますが、その寄与率は、①中国②米国③インド④インドネシア⑤日本⑥ロシア⑦ドイツ⑧エジプト⑨英国⑩フランスの順となっています。

30年後の予測となるPwC発表では、GDPのトップは中国、以下、②インド③米国④インドネシア⑤ブラジル⑥ロシア⑦メキシコ⑧日本⑨ドイツ⑩英国の順となっています。この点、18年の順位(世界銀行発表)は、①米国②中国③日本④ドイツ⑤英国⑥フランス⑦インド⑧イタリア⑨ブラジル⑩カナダとなっていて、両発表では国別順位に大きな変動が認められ、国際経済を担う主役が大きく変わろうとしていることが分かります。

 

転換期入り検証の手掛かり

 さて、IMFとPwCの発表には、対象年が四半世紀以上も差があるにもかかわらず、共通点が見いだせるのにはやや驚きです。例えば、両者の上位6傑のうち5位と6位(ブラジルとロシア)は前後しますが、同じ6カ国がリストアップされていること、特に、BRICS(新興5カ国)の中でブラジル、ロシア、インド、中国のプレゼンスが目立つのに対し、G7(フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダの先進7カ国)、とりわけ、日本の順位が低いことが容易に見て取れます。

 IMFとPwCの二つの「番付」がどこまで客観的かつ正確かは考慮すべきですが、現在、世界が歴史的転換期に入っていることを検証する、有意義な「手掛かり」を提示しているといえるのではないでしょうか。

 

グローバルガバナンス改革

 「何が歴史的転換期か?」。この二つの「番付」から見る限り、いずれもトップの座にある中国がその転換期に重要な役目を担っているといえるのではないでしょうか。一言でいえば、中国がことあるごとに提起している「公正で客観的なグローバルガバナンスの改革」こそが歴史的転換期を代表する潮流といえるでしょう。この点、例えば、習近平国家主席がボアオ・アジアフォーラム(昨年4月)の基調講演で強調した、「中国は…(中略)…積極的にグローバルな伙伴関係(パートナーシップ)(注1)を発展させ、積極的にグローバルガバナンス改革を推進し、新型国際関係を構築し、人類運命共同体(注2)の構築を推進する」としているところに、歴史的転換期に向き合う中国の姿勢が認められるようです。すなわち、「公正で客観的なグローバルガバナンス改革」は、伙伴関係、新型国際関係、人類運命共同体と「四位一体」で推進されると深読みできるでしょう。

 数千年の悠久の歴史を有する中国は、近世以前、経済・文化的に世界に冠たる地位を築いていますが、グローバルガバナンスのあり方について、今日ほど世界に向けて発信したことはなかったのではないでしょうか。中華人民共和国成立70周年の大きな成果の一つといってもよいでしょう。

 

国家ガバナンス現代化が鍵

 今年10月末に開催された中国共産党第19期中央委員会第4回全体会議(四中全会)で「中国の特色ある社会主義制度の堅持と整備および国家ガバナンス・システムと能力の現代化の推進における若干の重大な問題に関する党中央の決定」(以下、「決定」)が審議・採択されました。その中で、「わが国は…積極的にグローバルガバナンスに参加し、人類運命共同体の構築に貢献する上での優位さを堅持する」と言及しています。「決定」では主に中国のガバナンスにおける課題・行方に関わる対応・方針が記されていますが、グローバルガバナンスの改革期に、国家ガバナンスの現代化を推進するとした意義は大きいといえます。すなわち、GDPの規模や成長率に対する貢献で世界経済のプレゼンスを高めるだけでなく、グローバルガバナンスの形成においても中国の貢献度向上を図っていこうとする姿勢が、「決定」の行間から読み取れるようです。ちなみに、「決定」では「四つの自信」と「16の堅持」(注3)を強調していますが、中華人民共和国成立100周年となる2049年までに、国家ガバナンスのシステムと能力の現代化を全面的に実現するとしています。

 

 

6・2%成長は世界の2倍超

 現時点では、エコノミックパワーこそ中国が公正で客観的なグローバルガバナンス改革を提起する最大の原動力といえます。そのエコノミックパワーですが、今年1~9月のGDP成長率で見ると、前年同期比6・2%と四半期ベースでの統計が確認できる1992年以来最低の水準となりました。これをどう読むか。相対的視点から読み解くことが肝要なのではないでしょうか。例えば、IMFが今年の世界のGDP成長率を3・0%に下方修正する中、①中国はその2倍以上の成長率を維持していること。さらに、②第2回中国国際輸入博覧会の開催(11月)、「一帯一路」(2013年に提起した人類運命共同体構築へのプラットフォーム)の推進、対外開放の拡大措置(例として20年1月施行予定の外商投資法制定など)、内需主導の成長パターンへの転換、第5世代移動通信システム(5G)や人工知能(AI)などによるデジタル経済の積極的推進、都市化など、国際経済の発展に寄与する機会を創出、提供していることなど、依然、国際経済の発展に最多ともいえる貢献しているといえます。「6・2%プラス」の成長と言い換えられます。この点、今年10月、世界銀行が発表した「ビジネス環境の現状2020」で、中国のビジネス環境が昨年の世界46位から大幅上昇し31位となり、かつ、ビジネス環境が大きく改善した10カ国・地域に、2年続けて選ばれていることなどからも明らかでしょう。

 

新型国際関係と伙伴関係を

 今年は、中国にとってどんな年であったのでしょうか。中華人民共和国成立70周年の祝賀大会が最大の出来事であったことは言うに及びません。世界経済にとってはどうでしょうか。中米貿易摩擦の影響を思い浮かべる人は少なくないでしょう。冒頭のIMFとPwCの「国別番付」の決定に、現下の中米貿易摩擦の影響がどれほど反映されているか計り知れませんが、中国が米国は言うに及ばず、インド、インドネシア、ロシア、ブラジルなど新興諸国と、今後どんな新型国際関係や伙伴関係を構築するのかが、公正で客観的な国際経済およびグローバルガバナンスの形成、人類運命共同体の構築の鍵を握っている__これを世界が明確に意識した一年であったといえるのではないでしょうか。

 

注1

国家間関係の指導原則で条約や協定でなく元首の共同声明をもって構築・格上げされる。「不結盟、結伴」(同盟せずパートナーとなる)が前提。100余りの国・地域組織とグローバルネットワーク(筆者の調べでは16種類)を構築済み。

注2

各国の共同発展を中心とする価値観。グローバルガバナンスの中国版(筆者の見解)。

注3

グローバルガバナンス形成への積極参加、人類運命共同体構築への不断の貢献など。

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