第3次産業が首位産業 新時代の「創新」物語る
2020-01-22 14:23:27
江原規由=文
昨年11月20日、国家統計局から中国経済の「健康診断書」というべき第4回全国経済国勢調査結果(以下、「国勢調査」)が発表されました。「国勢調査」は2004年に開始され、以後5年ごとに実施されています。今回は13年から18年までの5年間の中国の第2次および第3次産業の変化、発展状況(法人数、従業員数、資産、営業収入など)をチェックしたもので、160万人の調査員を動員したこれまでにない大規模な「国勢調査」だったとされています。
法人、従業員数も多数占める
今回の「国勢調査」で明らかになった要点で第1に挙げられるのは、18年末時点で、第3次産業が名実共に国民経済の第1の産業となったことでした。例えば、第3次産業の法人数が第2次および第3次産業の総数の80%強、従業員数は55%と過半数となっていることなどが指摘できます。次いで第2次産業では、ここ数年来の供給側(サプライサイド)構造改革などにより産業構造の高度化(特に、製造業のハイテク化)が一段と進んだとしています。このほか、個人経営では女性従業員が過半数(3300万人余り)となったこと、法人数で、前回「国勢調査」では「東昇中西降」――東部(沿海部)上昇、中西部(内陸部)減少――だったのが、今回は「東降中西昇」の傾向が明らかとなったことなどが注目されるでしょう。前者は、目下、中国で続々と出現している「巷経済」(筆者の造語。詳しくは本誌昨年9月号の本欄参照)などで、消費やサービスの拡大、多様化を担う女性の活躍をほうふつとさせます。後者は、「一帯一路」事業の進展、内陸部における交通・流通網の整備、自由貿易試験区の内陸部での設置などと大いに関係があるのではないでしょうか。
総じて、今回の「国勢調査」結果から、最近、マスメディアでよく取り上げられる「三新経済」(新産業、新業態、新ビジネスモデルの生産活動を指す)(注1)の中国経済におけるプレゼンス向上――生産額が18年の国内総生産(GDP)の16・1%――やGDP成長率に対する内需(主に消費)の寄与率アップの理由が読み取れるようです。
創新を軸とした新時代象徴
視点を変えれば、今回の「国勢調査」は中国経済・社会が創新(イノベーション)を軸とした新時代のサービス化、ハイテク化、デジタル化と向き合っていることを雄弁に物語ってくれているといえるでしょう。この点に関し、今回の「国勢調査」が公表された11月に開催された大型展示会、交易会、フォーラムなど大型イベントにスポットを当てて具体的に見てみましょう。
昨年11月は、中国にとって大イベント開催ラッシュとなりました。すなわち、10月15日から広東省広州市で開催された第126回中国輸出入商品交易会には、214カ国・地域から18万6014人のバイヤーが来場。同会が閉幕した翌日の11月5日、上海で開幕した第2回中国国際輸入博覧会(以下「輸入博」)には、181カ国・地域・国際機関が参加、企業3800社余りが出展、50万人の中国内外のバイヤーが来場しました。また同博の閉幕式の翌日(11月11日)には、世界最大ともいえる年1回1日限りのEコマース販売セールの「双11」(11月11日開催にちなんで命名)があり、その直後の13日から17日まで広東省深圳市では、第11回中国国際ハイテク成果交易会(以下「ハイテク交易会」)が開かれ、3300社余りが出展し97カ国・地域から58万9000人が来場しました。さらに、同月21、22日、北京で中米国交樹立(1979年)の米国側立役者の1人で元米国務長官のヘンリー・キッシンジャー氏やマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏など、世界60カ国余りから500人余りの産官学界のリーダーが参加した創新経済論壇(ニューエコノミーフォーラム)が開催されています。
貿易摩擦の影響も浮き彫り
このうち、2回目の「輸入博」でハイテク製品の展示が少なくなかったことは、中国の産業構造の高度化の一端を語っているようです。また、「商業界の五輪」の異名がある「双11」は、中国最大のオンラインショッピングサイトの「天猫」が開始1分36秒で取引額100億元を超えるなど、今や世界が注目するデジタルビジネスの最前線となった感があります。その天文学的ともいえるネット注文品の配送(注2)では、人工知能(AI)やロボットなどハイテク技術の活用が話題となりました。「ハイテク交易会」では、3300社余りが出展、AIやスマートホーム、インテリジェント製造、モノのインターネット(IoT)、スマート運転、第5世代移動通信システム(5G)、ブロックチェーンなど最近の第4次産業革命をリードする1万件余りのハイテク製品・プロジェクトが披露されたといわれています。また、「ニューエコノミーフォーラム」では、キッシンジャー氏が「中米両国は、双方の共同利益のため、相違と真摯に向き合い、対話と協力を強化することが肝要だ」と、まさに中国の姿勢を代弁するかのように、米中貿易摩擦の行方に警鐘を鳴らしています。世界最大の経済大国である米国と世界最大の発展途上国である中国との貿易摩擦は、今回の「国勢調査」の結果に少なからず影響していることは明らかでしょう。
こうしたビジネス・知的交流のプラットフォームとなる大小さまざまな展示会・交易会・フォーラムをほぼ毎週のように開催し、世界にビジネスチャンスを提供し、中国と世界の対話を助長している国は、中国をおいてほかにはないといっても過言ではないでしょう。
昨年9月、上海で「中国と世界:70年の道のり」をテーマに行なわれた第8回世界中国学フォーラムの会場(筆者提供)
小康社会とSDGsの実現
さて、「国勢調査」では、中国経済・社会が抱えている「短板」(補強が必要な弱点分野)についても指摘されています。すなわち、介護、医療、教育、技術革新、研究開発などです。こうした「短板」は前回13年の「国勢調査」時と比べ明らかに改善・向上しているとしていますが、中国経済・社会がさらなる新たな高みを目指す上での要点として、改めて問題提起されたといえるでしょう。第5回「国勢調査」(23年予定)でこうした「短板」がどうなっているか大いに注目したいものですが、この点、今年に実現を目標としている小康(ややゆとりのある)社会の行方がヒントとなるのではないでしょうか。
筆者は、中国の小康社会の実現は、今後30年が最終年となる「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現に深くかかわってくると見ています。中国一国の事業(小康社会の実現)と世界的事業(SDGs)との違いはありますが、貧困撲滅、人材育成などの目的は共有しているところが少なくありません。近年、中国はことあるごとに人類運命共同体の構築を提起・強調していますが、小康社会とSDGsの実現は、人類運命共同体構築へのホップとステップになるのではないでしょうか。
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