新型コロナウイルス克服し新たなパートナーシップを

2020-04-16 15:21:45

江原規由=

2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が中国を襲った時、筆者は北京でその推移を心配していました。今、世界的流行が危惧されている新型コロナウイルスによる肺炎(COVID-19)と何が異なっているのでしょうか。

まず、日本との関係では、例えば、SARSにかかった日本人がいなかったのに対し、今回は、2月27日、安倍晋三首相が小中高校と特別支援学校について3月2日から春休みまで臨時休校するよう要請するなど国内感染の拡大が懸念される事態となっていること。

中国では、特に、トップダウン方式による断固たる封じ込め措置やヒト、モノの大動員(注1)が行われ、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長をして、「このような動員は私の人生で見たことがない」(人民網 2月18日)と言わしめたほどの多くの対応策を取っています。例えば、広大な武漢臨時医療施設の超短期間での建設。4万人以上の医療従事者の大動員から、ニューエコノミー(オンライン経済、オタク経済、クラウド経済など)や無接触サービス(コンビニ、デリバリー、診断など)の新展開。第4次産業革命の成果(5G、AI、ロボット、ドローン、ビッグデータ、クラウドなど)の普及。さらに、全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)の異例の開催延期や国有企業の医療物資生産転換(注2)などによる支援、自動車製造工場へのマスク製造設備の緊急導入、北京のガソリンスタンド(340カ所)での野菜販売に至るまで、官民挙げての対応策、動員の数々が指摘できます。

何より、多くの国から、「中国武漢加油(中国武漢頑張れ)」の声援や支援が多いことも、SARS時を上回っているのではないでしょうか。まだ予断は許されませんが、今や、中国は「日本頑張れ」の声援や支援物資を送るなど、地域と世界の公衆衛生上の安全を守る姿勢を表明しています。中国が希求する人類運命共同体の構築へ向けた実践の一端が垣間見られるのではないでしょうか。

経済的影響は短期、限定的

経済的影響については、COVID-19の世界的拡大への懸念から、一時、上海証券取引所を含め世界各地の株式市場が下落したことや1月10日から2月18日までの40日間に中国国内の陸海空の交通機関利用者数が前年同期比503%減と半減(14億8000万人)するなど多々指摘できますが、総じて、中国経済への影響は短期的かつ限定的と見る中国人識者は少なくありません。ただ、中国が経済、貿易、製造、観光、人材など多くの分野で大国の地位にあること、さらに、グローバル産業、サプライチェーンの中核(日本はマスクの大半を中国から輸入など)にあることなどを勘案すると、COVID-19の行方は世界経済、国際公衆衛生に深刻な影響を及ぼさないとも限りません。過去17年間、中国経済は規模にして約9倍と高度成長と急速な国際化を遂げ、世界経済におけるプレゼンスを高めてきています。まさに、「中国経済がくしゃみをすれば世界経済が風邪をひきかねない」状況にあるわけです。この点、習近平国家主席が「感染状況の情報を速やかに公表し、国際協力を深める必要がある」との「重要指示」を出していることからもうかがい知ることができるでしょう。

社会主義市場経済の本領

筆者は、中国のCOVID-19への対応には、前述した中国のトップダウン方式、そして、中国の特色ある社会主義市場経済の本領が発揮されているのではないかとみています。一概には言えませんが、トップダウン方式では、例えば、必要措置の早期策定、実施、ヒト、モノの大規模動員など、社会主義市場経済では、国有企業の機動的活用などが指摘できます。いつ起こるとも限らないCOVID-19のような緊急事態への対応や危機管理に中国的トップダウン方式、社会主義市場経済の果たす役割に注目する必要があるといえるでしょう。

さらに、中国のCOVID-19への対応で注目すべきは、国際協力の深化と情報開示の必要性が強調されているところでしょう。この点、習主席と各国首脳とのCOVID-19に関わる電話会談でも必ず言及されています。例えば、マレーシアのマハティール首相との電話会談(2月13)で習主席は、「われわれは引き続き人類運命共同体理念に基づき、国際社会と協力を強化して新型肺炎との闘いに共に打ち勝つ。国際社会が中国に貴い理解と支持を寄せている。(中略)われわれは引き続き公開性と透明性ある姿勢で、マレーシアを含む東南アジア諸国連合(ASEAN)各国と感染拡大阻止の協力を強化し、地域の公衆衛生上の安全を共に守る」としています。

「ウイルスに国境なし」です。国際協力と情報開示は、世界経済の安定、発展は言うに及ばず、世界保健衛生の強化にとっての要点であることを再確認している国人は少なくないのではないでしょうか。

要点は国際極力と情報開示

国際協力と情報開示は、「国境なきウイルス」戦を勝ち抜く要点であり、WHOはこれを推進しているわけですが、中国には、COVID-19などの危機管理や国際協力の強化に有効かつ独自のグローバルネットワークがあります。すでに100余カ国地域(組織)と構築されている伙伴関係(パートナーシップ)ネットワークがそれです(筆者の調べでは16種類)(注3)。習主席は各国首脳との電話会談でもよくこのパートナーシップに言及しています。例えば、サウジアラビアのサルマン国王とは、「中国がCOVID-19を迎え撃っている重要局面で、国王陛下は中国側への断固たる支持を繰り返し表明した。これは中国と貴国の真摯な友情と全面戦略パートナーシップの水準の高さを十分に示すものである」、さらに、インドネシアのジョコ大統領とは、「正念場を迎えた新型コロナウイルス肺炎との闘いで(中略)インドネシアが中国に示した友好と支援は両国の戦略パートナーシップを体現するものであり、貴国のわが国に対する信頼と理解に感謝する」と述べています。

新日中パートナーシップを

中国はパートナーシップを国家間交流の指導原則としていますが、その最大の特徴は条約や協定でなく、元首首脳の信頼関係に基づく共同声明をもって構築される点にあります。この点、相手国の事情(経済発展水準、宗教、体制の相違など)に応じ臨機応変に対応できる融通性がパートナーシップにはあるといえます。

遅かれ早かれ、COVID-19のワクチンが開発され、その脅威は薄れるでしょう。今、大きな転換期を迎えつつある世界では、SARSやCOVID-19などの感染症に限らず、国際的な危機管理を必要とする事態、事件が発生しないとも限りません。パートナーシップは、COVID-19のワクチンではありませんが、国際的危機管理、国際関係の安定、世界経済の発展への布石となるのではないでしょうか。両国首脳による国際電話からそんなやり取りが漏れ聞こえてくるようです。

さて、日中間ではCOVID-19対応に止まることなく、両国の協力連携強化でコンセンサスが形成されたようです。この点も、03年当時と大いに異なるところでしょう。今年予定されている習主席の来日がCOVID-19の世界的終息と新たな日中パートナーシップの新構築を祝う機会となってほしいものです。

注1 習主席はカタールのタミーム首長と電話会談で、「中国は強大な動員能力があり、新型肺炎との闘いに勝利する自信と能力がある」と強調。

注2 中国石油化工集団は3月から医療用マスクを日産150万枚生産予定。

注3 パートナーシップを築いているEU、ASEAN、アフリカ連合、ラテンアメリカカリブ諸国共同体の地域組織加盟国を入れると中国とのパートナーシップ構築国は国際連合やWHOの加盟国数に近い。

人民中国インターネット版 2020416

 

 

 

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