女性専用車両

2017-12-09 14:22:06

      文・写真=須賀 努

  中国を初めて旅してから30年になり、最近ではアジア各地を旅する機会も増えている。旅では日々、さまざまな物を見て、また触れるのだが、大抵はそのまま流れ去ってしまう。ただ時々「日本と中国はここが根本的に違うんだな」とか「インドから見れば日本と中国なんて似た者同士さ」などとふと思うことがある。今回から、旅の中で感じたふとした思いを文字にしてみようと考えた。

  先日東京から成田空港へ向かった。東京の朝のラッシュというのは旅人にとってはある意味恐怖である。大きな荷物を持って、あの人ごみに身を投じるのだ。しかも日本人というのは相手との間合いが気になるのだが、その気づかいを全く許さないのが、通勤通学電車ではないだろうか。更には暗黙のルールも存在するので厄介だ。

敢えて各駅停車を選んで、しかも一番前に乗ったところ、その電車はそれほど混んでいなくてホッとした。因みに一番前に乗った理由は次の乗り換えが便利だから。乗り換えにどの車両が便利かは、日本の地下鉄などでは大抵の駅で表示されており、このサービスは有り難い。中国でもこれは導入した方がよいと思うのだが、必要はないだろうか。

                                                   東京の地下鉄における女性専用車両

ただ車内の雰囲気が何となくおかしかった。ハッと気が付くと、その車両に乗っていたのは女性ばかり。そこで初めて「これは女性専用車両ではないのか」と気が付いたが、実は東京の場合、朝の一定の時間帯で専用車両が実施されており、午前9時頃の各駅停車が、それに該当するのかどうかは全く分からない。しかもよく見ると、男性も2-3人、同じ車両に乗っていたので、安心してしまった。

                                                      東京の地下鉄における女性専用車両の表示

そこへ次の駅でどう見てもアメリカ人と思われる白人男性が発車間際に飛び乗って来た。「ああ、彼は外国人だし、女性専用列車なんて、気が付かないよな」とみていると、女性客の注目を一身に集めてしまった。それは彼が大声で英語を使い携帯で話していたからだ。日本の電車車内では携帯の通話はマナー違反である。それを女性専用車両と思われる場所で男性が堂々と行っている、彼は日本をよく知らないようだ。日本人女性たちもそれを察してか、誰も何も言わない。

結局降りた駅で確認すると乗っていた車両はやはり女性専用車両だった。しかし空いている時間帯だからか文句は出なかった。では一体何のためにこの車両はあるのだろうか。調べてみると「痴漢防止」が主な理由のようだ。だから接触がない状況ではあまり問題にはならないらしい。ただネット上の書き込みを見るとさまざまな意見があることに少し驚いた。

男性からは「女性専用があるのなら、男性専用車両も用意すべきだ。男性が痴漢と間違われる冤罪が多発しており、それを防ぐ必要がある」という意見は、最近東京で起こった事故を想起させる。女性の中にも「痴漢被害に遭う女性の年齢は10-30代が90%以上。50代の私に乗る資格はあるのかしら」という意見までありビックリ。

「女性専用車両があるのだから、それに乗れ」という厳しい声には、「急いでいるのに一番前の車両まで行くのは不便だ」という回答もある。確かにそれも言える。そういえば大阪の地下鉄の専用車両はど真ん中の6両目あたりではなかったか。大阪は女性のパワーが強いのだろうか。

                                                      クアラルンプールの女性専用車両

アジアでは例えばマレーシアのモノレールで女性専用車両を見たことがある。しかも時間帯は関係ない。イスラム教徒が多い国では男女が分かれているのは当然だという考えがあるからだろう。インドの地下鉄にも確かあったはずだ。宗教や生活習慣の違いにより、このような車両が配備される国もあるのだ。

  中国はどうだろうか。今のところこのような車両を見かけた記憶はない。ただ最近行った広州空港の荷物検査場に面白いゲートがあった。女性専用レーンの横に「男性専用レーン」が登場したので、思わずそちらに並んでみた。単にボディチェックする担当者が男女別だというだけかと思うが、このような配慮があるのなら、その内中国にも女性専用車両が設置されるのではないか。と考えていたところ、やはり今年7月には広州や深圳で女性専用車両が導入されていた。

                                                           上海の地下鉄乗車風景

今や北京や上海などの大都市の通勤ラッシュは東京を越えている。それに伴い整列乗車なども行われ、上海などでは他者へ配慮もあり、車内マナーも格段に向上してきたと感じることが多い。一方武漢などの地方都市では、未だに降車する前に乗り込んできて、激しい戦いが繰り広げられている都市もある。

これが急速な経済成長の証かもしれない。日本がこれまで歩いてきた道を中国が歩いているとしたら、この成長によりさまざまな問題が発生しているはずだ。実はわれわれのような旅行者が気付かないだけで、車内でのトラブルも増えているのかもしれない。女性専用車両の設置は、その国が進化したことを意味するのかどうか、考えが纏まらないまま、今日も電車に乗っている。

関連文章