世相小説:あなたの後を歩く

2018-01-24 11:01:56

  呉躍明=

 

 彼女と彼が付き合っていたとき、公園で彼女と一緒に歩いているとき以外、道では彼はいつも彼女の後を歩いていた。彼女はこれがどうしてだか分からなかった。「私と一緒に歩くのが嫌なの?」と聞いたが、彼は実直そうな笑みを浮かべて、「そんなはずないだろ、うれしくてたまらないくらいだもの」と言った。一人で前を歩くのは少し寂しいといつも思っていたが、そんなとき、時に彼は「前から車が来るよ」「右側に穴があるから」などと注意し、車が猛スピードでやって来たりすると、彼女を傍らに引き寄せてくれた。

 彼女が友人たちに彼のことを話すと、友人たちは「新聞や雑誌では、左側を歩く人と結婚すれば間違いはない。彼はあなたに安全をくれるから、と言っているけど、後ろを歩くってどういう意味だろうね」と言った。彼女たちはみんな不思議に思い、真意をつかむことができなかった。それでも、彼の優しさや気配りに彼女はほだされ、彼と共に赤いじゅうたんの上を歩むことになった。

 女性がウインドーショッピング好きなのはよくあることだが、彼女は彼と腕を組んで一緒に歩きたかった。しかし、街に出ると彼はまた彼女の背後に回った。「どうしてなの?」と彼女が聞くと、彼はやはり優しい口調で、「君は好きに歩いていいよ。僕はついてゆくから」と言った。それが何度も重なると、彼女は彼が自分のことを気に掛けていないように感じ、自分は孤独だと思い、家に帰るなり、彼と口げんかをした。彼は彼女に口応えもせず、彼女が文句を言い終えるまで全て聞いてから、家の用事を済ませに行った。彼女は、「何なの、あの男は! まったく男らしくない」といっそう腹を立てた。気骨のない男性に頼ることなんてできようか。

 彼らは冷戦状態に陥り、冷戦の結果、彼女は離婚を持ち出した。彼はただ真面目に、「本気なの?もう決心してしまったの?」と聞いただけだった。彼女の意思が固いことを見ると、彼は同意するしかなかった。「ほら、見てみなさい。離婚すら私の言うなりなんて」と、自分の決定が正しかったと彼女は思った。彼女は借りた部屋に引っ越していったが、それでも彼は時に電話をよこし、何か困ったことはないかと聞いた。ガスボンベのガスがなくなったら彼が取り換えに来てくれたし、大きなものを買ったら、運んだり、家具を並べ替えたりを手伝ってくれた。

 ある時、彼女は病気になり、家で休んでいた。戸をたたく人がいたので開けてみると、やはり彼で、手にはスープ用の容器を下げていた。彼は、「病気だと聞いたんで、あなたが好きなピータン粥を作って持って来たんだ」と言った。彼女は不思議に思って「どうして病気だって知ったの?」と聞くと、「あなたの同僚に聞いたんだ」と答えた。

 何を食べてもおいしくなかったのに、このピータン粥は本当においしく感じた。でも、彼女は理解できず、「離婚したのに、どうしてあなたはひそかに私のことを心配してくれるの」と聞いた。彼は誠実げに、「あなたのことを後ろから見守っているのが好きなんだ」と答えた。後ろから…? 彼女は心を打たれて、手に持ったスプーンを容器の中に落としてしまった。

 ある日、彼女はお父さんと街に出た。お父さんはいつも彼女の後ろを歩いた。彼女が「パパも、どうしていつも私の後ろを歩くの?」と聞くと、お父さんは笑いながら「こうすればお前の全部を見ることができるからだよ。安全でない道や、でこぼこな道でも、いつでもお前を支えることができるからね」。このお父さんの言葉を聞き、なぜだか知らないが、彼女は突然彼を思い出し、心が熱くなり、慌てて手で顔を覆うと、涙が指の間からこぼれ出てきた。

   

翻訳にあたって

 中国ではけっこう多い、優しい男性と気の強い女性というカップルのお話だ。「三歩下がって歩け」と言われる日本人女性にとってはうらやましい話でもある。 「饭盒」は普通、「お弁当箱」のことだが、「提」(手に提げる)という動詞が使われていること、中に入っているのがお粥であることから、液体用の保温容器だと思われる。(福井ゆり子)

   

   

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