父の遺書

2023-05-09 10:26:00

張先豊=文

鄒源=イラスト


雷の父の辺老人は、節約が身に染み付いている人だった。今では年のせいか、突然頭にぽっかり穴が開いたようで、ぜいたくを覚え、しょっちゅう辺雷に電話をしてきて、金をねだった。 

「私にスマホを買っておくれ。お前と連絡取るのに便利だから」 

「マッサージチェアを買いたいんだ。村の孟さんも買ったそうだよ」 

「デスクトップのパソコンを買ってくれよ。流行に乗って、若い人に倣ってネットをするんだ」 

「湖の西側にこの間開発された住宅地は、環境がいいので、すごい売れ行きだそうだ。私もそこに家が欲しい」 

この類の電話が数多くかかってきて、辺雷をひどく煩わせたが、母が早くに亡くなり、父が一人で自分をここまで育ててくれたことを思い、どうにか耐えて、秘書に父の口座にお金を振り込ませ、できる限り父の願いをかなえようとした。 

しかしあるとき、辺雷は耐えられなくなった。父が電話で、「すぐに6万元を振り込んでくれ。孟さんにマージャンで負け、拘束されてしまったんだ」と言ったのだ。辺雷は電話を落とすと、怒りのあまり「俺はどうしてこんな父親を持ってしまったのか!」とののしった。冷静になって考えると、父はたった一人で、家で話をする相手もなく、他に楽しみもないのだから、マージャンでもしなければやっていられないだろう。お金を少しばかりすったところで何でもない、お金を払って楽しみを買ったと思えばいい。辺雷はそう考え、それ以上文句を言わず、すぐに父に送金した。 

ある日突然、辺雷の会社に問題が起き、裁判所に差し押さえられてしまった。十数年間、苦労して経営してきたのに、あっという間に跡形もなく消えてしまい、今まで肩で風を切って歩いていた辺雷もひどく傷ついた。このときから、父が金をねだる電話をしてくることはなくなった。 

辺雷は破産した後に残ったわずかなお金で、苦難に満ちた二度目の起業を始めた。初期資本金が足りないため、辺雷は事業の進展に苦労していた。こういうときに災いは続くもので、父が病気で亡くなり、悲しみと憂いがこもごもの辺雷は、長らく足を踏み入れていなかった故郷へと戻った。 

やはり昔のままの貧しいぼろ家だった。辺雷は父がねだったたくさんの金は、きっと全てマージャン卓に吸い取られてしまったのだろうと思い、思わず恨みを覚えた。父の葬式が終わると、姉が辺雷に小さな鉄製のケースを渡し、父が臨終前に用意していたものだと言った。辺雷がそのケースを開けると、たどたどしい筆跡で書かれた父の手紙が入っていた。 

息子よ、この手紙を読んでいるときには、私はもういないだろう。私はお前の経営する会社が遅かれ早かれ失敗すると、とっくの昔に見抜いていたよ。理由は三つある。一、お前は当初、あまりにも簡単に成功したので、ビジネスの難しさを予測し得なかった。二、お前は友人を選ぶことなく、進取の心を持たなかった。三、お前は高と離婚すべきではなかった。高はお前にあんなに良くしてくれたのに、その恩を忘れるべきではなかった。自分の本分を見失った人間には必ずその報いがくる。私はずっとお前と話し合いたいと思っていたが、そのチャンスがなかった。お前はいつも忙しいと言って、長いこと家にも戻らず、電話をしても、いつも私が口うるさく言うのを嫌った。いろいろ考えたが他に方法はなかったので、私はいろんな口実でお前に金をねだり、お前のために今後の身の振り方を準備しておくことにした。もらった金の一部は高親子に渡し、余った金はお前の名義で預金してある。私はこんなことしかできないが、息子よ、人として、本分を忘れてはならない。これをしっかり頭に刻み込まないと、また同じ轍を踏むことになる。 

ケースの中には、預金通帳も入っていた。 

翻訳にあたって 

タイトルの「家」は、家への手紙、家からの手紙を意味する言葉だが、家の中に保存されていた書籍を指すこともある。この文章を見ると、どの意味にもあまり当てはまらないので、日本語タイトルは「父の遺書」とした。 

(福井ゆり子) 

12下一页
関連文章