新年も中国経済は上向き ブラックスワン、灰色のサイは無縁

2022-01-29 15:37:08

陳言=文

 昨年末、急きょ広州に行き、ある企業を取材しなければならなくなった。

 ちょうどその頃、広州市白雲区で新型コロナウイルス感染症患者が1人見つかり、同区は感染発生中リスク地区に指定された。幸いなことに取材予定の企業は白雲区ではなかったので、広州行き自体は全く問題はなかった。しかし、広州側からPCR検査の結果の提出を求められ、広州でもPCR検査をしなければ北京に戻れなくなった。

 北京と広州でPCR検査を受けられる場所を調べると、地図上では数㌔ごとに1カ所の割合で検査ステーションがあった。医療保険を使えない場合、検査は1回58元(約1028円)—病院で検査すれば12元(約213円)—であまり高くはないので、安心して広州に行けた。

 PCR検査についていえば、この1年余り、北京だけではなく中国全土の他都市でも、感染症患者の有無を問わず、PCR検査は非常に簡単になった。感染症患者が見つかると、中国では直ちにそのエリアの滞在者全員のPCR検査を実施する。こうした厳戒態勢を敷いているので、武漢以降、感染が広範囲に拡散したことはなく、社会生活、生産活動は整然と維持されている。世界中のいかなる国に比べてもこの点は明白だ。今年、感染症はさらに下火になるだろう。中国経済自体のコロナの影響は比較的軽微だ。国際環境がかなり複雑化していたが、中国経済の安定的な発展には何の疑問もなく、今年はさらにそうであるに違いない。

 

昨年4月開催の上海モーターショーで、トヨタの新EVシリーズ「TOYOTA bZ」のコンセプトカーが注目を浴びた(新華社)

 

コロナ下でも安定成長維持

 昨年12月に財経シンクタンクの年末フォーラムで聴講した清華大学中国経済思想・実践研究院の李稲葵院長の講演は印象的だった。

 彼は講演の冒頭に、「現在の世界経済には恐らく1羽のブラックスワンと3頭の灰色のサイがいる。1プラス3であると考えている」と述べた。ブラックスワンというのはマーケットにおいて事前にほとんど予想できず、起きたときの衝撃が大きい事象を指し、灰色のサイはマーケットにおいて高い確率で大きな問題を引き起こすと考えられるにもかかわらず、軽視されてしまいがちな材料のことを指す。

 現在のブラックスワンは当然、新型コロナウイルス感染症だ。彼は、戦後最大の世界的な衰退に直面している可能性があるという認識を示した。灰色のサイについて、債務危機、サプライチェーンの再編と低炭素を挙げた。これら3要素は世界経済を収縮状態に引き込み、少なくとも経済を拡張する推進力にはならない。

 コロナを克服できれば、経済は安定を維持でき、曲がりなりにも前に進むことができる。昨年の中国経済が安定を維持できた最大の要因は、国内のいかなる地域でもコロナのまん延を絶対に許さなかったからである。局地的に感染症が見つかった場合、可能な限り、全力を挙げて対応した。昨年は、雲南省、内蒙古自治区、遼寧省などで外部から感染症が持ち込まれ、突発的に患者が出現し、拡大し始めたことがあったが、最終的には1カ月以内に制圧し、全国的には安定を維持している。

 筆者が取材先の大連から北京に戻って半月後、大連で感染症患者が発生した。筆者はウイルスの潜伏期間とされる14日間が経過していたので気にしていなかった。しかし、自宅がある町内会事務所から無料でPCR検査を受けるようにとの電話があった。感染防止の厳格さは想像以上である。多額の国家財政をつぎ込んでいるからこそ、このような安定した局面を維持できているのである。

 

成長の足引っ張る経済安保

 昨年末に上海で日本の金融専門家と懇談し、債務問題などについて話し合った。中国恒大集団の社債利子未払い問題が日本メディアの注目を集め、中国版のリーマンショックのような危機報道になっている。しかし、その金融専門家は中国事情に精通しており、国家政策によって不動産業の無秩序な発展は規制され、住宅価格や地価はほとんど変わらず、リーマンショックのような状況にはならないと認識していた。

 財政危機についていえば、米国などの国々はコロナで大量に通貨を発行し、国家債務は急迫している。

 トランプ氏は2017年に米国大統領に当選後、直ちにハイテク分野での中国とのデカップリング(切り離し)、貿易分野では関税引き上げによる中国の対米輸出制限政策を採用した。また産業分野でも一連の製造業の米国回帰政策を取った。しかし、トランプ政権下の4年、中米貿易は総体的に維持され米国の対中貿易赤字は全く減少しなかった。国内産業に投資する政策も目立った成果は挙げられず、逆にバイデン政権下では中国との関係再構築を求める声が大きくなり始めている。

 日本は昨年、経済安全保障をますます重視するようになり、とりわけ半導体、電池およびサプライチェーン分野で立法措置の準備を始め、今年は経済安保関連の立法が国会審議の重要な政治イシューになるだろう。12年に第2次安倍政権が発足して以降、日本の国内総生産(GDP)成長率はドイツなどに比べると、規模拡大の面で足踏み状態が続き、ドイツにかなり追い付かれている。また中国や米国に比べると差は広がる一方である。こうした結果を生んでいる大きな理由は、日本で企業投資が不足し、また投資を決断させる技術革新が他国に比べて少なくなっているからだ。経済安保政策が実行されれば、日本企業と国外企業との往来が制限され、企業の市場開拓を阻害することになるのだろうか?日本で経済安保関連の法律、法規の制定準備が進んでいるが、こうした懸念を抱かざるを得ない。

 

EV、新エネ市場の開拓を

 昨年、トヨタは中国に電気自動車(EV)をデビューさせる方針を決め、AGCは最先端技術を中国に持ち込み、液晶と自動車用ガラスの生産に取り掛かろうとしている。

 日本がEVに対する考え方を転換するか否か、世界最大かつ最新の液晶テレビ工場を建設するのか否か、中国では推測が困難である。しかし、EV、太陽光発電、風力発電などの新エネルギー、電池、半導体などの産業が中国で巨大な発展のチャンスがあることは全ての企業がよく分かっている。国際通貨基金(IMF)などの経済成長予測から見て、今年の中国はすでに巨大な経済規模を抱えている中でも、発展のスピードが世界最速の国の一つとなろう。

 昨年、ブラックスワンと灰色のサイは世界各国で事件を起こし、影響力を発揮した。ブラックスワンが飛び去る可能性が高い今年は、数頭の灰色のサイが世界をうろつくとしても、中国で事件を起こす可能性はかなり低い。こうした結論を信じられる理由は、昨年における中国の感染症対策、財政・経済政策、最終的に獲得した成長の成果が他国に比べて少なくないことにある。

 こうしたことから、今年の中国経済に対しても自信を持てるのである。

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