優位性生かし経済再建へ豊富な農村人口と高学歴化が鍵

2023-03-06 11:00:00

陳言=文


都市化がさらに進む中国。その一方、昔ながらの街並みが残る大都市・重慶の人気スポット「磁器口」は、春節休みに帰省した家族連れなどであふれ返った(vcg)

月には、「両会」(全国人民代表大会=全人代と中国人民政治協商会議=全国政協)が開催され、今年1年および今後数年の経済運営の基本方針が定められる。 

昨年、中国の人口は1961年以来61年ぶりに減少した。また、国際通貨基金(IMF)のデータによると、昨年の中国の国内総生産(GDP)の成長率は321%で、これは80年以降2番目の低さだった。だが、新型コロナウイルス感染症が発生した直後の2020年の224%と比べると、やや上回った。人口減少と同時に経済成長の下落は、今回の両会に参加する全人代代表、全国政協委員が関心を寄せる重要問題だ。 

人口のマイナス成長問題にどう取り組むか?特に日本との対比で、中国の特徴はどこにあるのか?これらを明確にすることによって問題解決の糸口を見付けられるのではないか。 


少子高齢化と成長率の鈍化 

日本のメディアには、常に「失われた30年」の関連報道がある。確かに、日本のGDPをドル換算で見ると、1992年の3兆9800億から2002年は4兆1800億に増え、民主党政権下の12年には6兆2700億に達した。ところが、安倍政権でアベノミクスが進められた後、昨年には4兆3000億の規模に戻ってしまった。これが30年来続いた経済規模拡大の限界だった。 

経済が前に進まなくなっている今、人口構成面で日本は少子高齢化の時代に入っている。バブル経済の崩壊や自然災害、社会全体の保守化傾向、技術革新の停滞などの原因を差し置き、日本の世論は多くの場合、停滞の原因を少子高齢化に求め、市場の有効需要が変化したとの認識を示す。つまり、少子化は需要を衰退させ、高齢化は消費をますます萎縮させる、ということだ。 

中国にも人口減少、成長率の減速が起き始めると、日本の「失われた30年」を知るメディアは、当然のことながら日本の事例を当てはめ、中国にも少子高齢化が経済発展の停滞という結果をもたらすと見なす。とりわけ、米国が世界的に中国に対して経済的なデカップリング(切り離し)政策を進め、日本が今年3月以降、主に中国を対象にした経済安保政策を実施すると、中国が経済発展を維持できるのか否か、大きな停滞が起きないか、ということが海外メディアの大きな関心事となるだろう。 

筆者は、中国の農村状況と教育を受けた労働力の特徴から間接的に上述の問題を分析してみたい。 


農業労働力の割合23%維持 

中国が人口減少時代に入ったことで、元中国社会科学院副院長の人口問題専門家蔡昉氏は、「総人口の減少に伴い経済成長は鈍化し、消費全体の伸びも減速する」と予測する。 

しかし蔡氏は、中国の農業労働力の割合が依然として非常に高いことにも注目している。昨年、この割合は23%に達し、高所得国でこの割合が3~4%であることに比べると、中国の優位性は顕著だ。中国は人口大国であり、その1%の農業労働力を工業に移動させるということは、約300万人の新たな労働力が生じることを意味し、この数字は決して小さくない。中国の農業労働力の割合は高所得国ほど低くないので、仮にその10%を移動させたとしても3000万人前後の労働人口の雇用を見つける必要があり、この規模は東南アジア諸国のどの国の労働力人口と比べてもはるかに大きい。 

ここでついでに、中国の都市化のさらなる推進問題について述べたい。今年の春節休み中、筆者は河北省の農村地帯を回り、かなり多くの村落ですでに耕作や収穫などの作業を専業農家に任せ、専業農家の機械化率がかなり高まり、農業の生産効率が大幅に向上し、農村では労働力を都市に移す必要がますます高まっている、と感じた。 

中国の都市化は過去数十年、基本的に東へ南へ、長江沿岸へ沿海へ、と進められてきた。だが現在、その多くが地方に残されており、例えば安徽省や河南省などの地方に工業化の大きな波が現れている。内陸部の省の工業生産部門が拡大を続けるのに伴って中国の生産効率の高い地域が拡大し、中国全体の生産率もさらに向上するだろう。 

こうした工業化のプロセスは、戦後の日本経済の発展史では見たことがなく、日本が今後の中国経済を評価する際にはこうした視点が必要不可欠だ。 

労働者の学歴スキル向上 

筆者は1982年に大学を卒業した。筆者と同年に大学を卒業した人は、基本的にすでに現役を退いている。78年に「高考」(全国統一大学入学試験)を受験したときのことを振り返ると、高校の同学年500人の中で合格したのはわずか数人だった。この年の学生募集数は30万人。当時の中国の人口は9億6800万人で、78年の入試は10年にわたった文化大革命が終了して再開された最初の「高考」で、最終的に40万2000人が合格した。ここから、当時の中国ではいかに大学生が不足していたかよく分かる。 

『中国統計年鑑2021年版』によれば、2020年の中国の人口は14億1200万人で同年の大学合格者は967万5000人だった。今後数年、毎年1000万人前後の大学生が卒業し、しかも中国の大学では理工系の学生が大多数を占め、文科系の学生の比率は日本に比べてかなり低い。 

中国で大学卒程度の学歴を持つ2260歳の労働人口は、20年には約1億3000万人だったが、30年には約2億1000万人に増え、40年には2億7000万人でピークに達する。おそらく、これほど大学教育を受けた労働人口が多い国は世界のどこにもないだろう。 

筆者が1980年代に就職した当時、周りに大卒者はほとんどいなかった。だが、筆者と同年代の人々が徐々にリタイアしていくと、代わりに加わる労働者の大部分は大卒か高卒だ。これは、中国のさらなる工業化や技術革新にとっても、より強力な基礎となる。 

ここ数年、中国では第5世代移動通信システム(5G)や電気自動車(EV)、宇宙開発の急速な発展が見込まれる。テレビのレポートによれば、これらのプロジェクトで活躍する人々の大部分が2000年以降に卒業した学生だ。 

中国に人口減少や経済成長率の低下が現れている現在、農村労働力の都市移転や労働力自体の学歴の向上は中国経済を評価する重要な内容だ。ここには、日本などの先進国とは違いが多過ぎて、日本の「失われた30年」などの経験は、必ずしも中国の問題解決に役に立つとは言えないだろう。 

 

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