自動運転に見る新時代の協力 中国経済の北上と中日企業の共創
陳言=文
小馬智行(ポニー・エーアイ、自動運転技術の開発を手掛ける中国のスタートアップ企業)のシステムをトヨタのレクサスに搭載した自動運転車に試乗した。最初のカーブを曲がったとき、対向車線には荷降ろし中のトラックが停まっており、自動運転車は減速した後、トラックのそばを危なげなく通り抜けた。40分間の試乗中、時速70㌔で追い越しをしたり、自転車や電動バイク、側道上の他の車両を避けながら右折したり、複雑な状況に遭遇したが、自動運転車は安定して走行し、三十数年の運転歴を持つベテランドライバーの筆者に少しも劣らないように感じた。
自動運転は車両に対する情報処理能力、バックグラウンドでの自動車に対する制御技術の要求がとても高い。中国で自動運転を開発している企業が採用している方式はそれぞれ異なり、小馬智行は自動車自体の自動運転能力をより重視しているが、自動運転を第5世代移動通信システム(5G)や都市スマート化と結び付けて研究・開発している企業もある。各形式の自動運転、一般道路での実験、実験時間の長さ、情報の蓄積など、関連分野の中国企業は世界の先頭を歩いている。
「トヨタは小馬智行の投資企業の一つなんです」。自動車業界の専門家が筆者に教えてくれた。トヨタの自動車関連技術は中国の自動車企業の研究・開発の中で使われている。自動車だけでなく、ヘルスケア、脱炭素などの分野で、中日企業には巨大な共創の将来性がある。
技術と経済は南から北へ
中国の技術と経済の発展の特徴は、南から北へと徐々に発展することだ。1980年代に中国が本格的に改革開放の段階に入った後、まず広東の一部の民間企業が香港などの技術や資本によって活気づいた。その後、80年代中期になると、日本から技術導入した宝山製鉄所が正式に開業し、国家主導の技術導入が重工業部門で役割を発揮し始めた。軽工業から重工業へ、南から北へと徐々に展開し、後に経済全体が向上したことは、この四十数年の中国経済の発展の特徴というべきだろう。
軽工業がまず発展したが、そこで生産する日用品や小型家電によって急速に中国市場を開拓し、深圳の町自体も人口数十万人から2022年には1766万人の大都市に発展したのを人々は目撃した。上海はもともと中国最大の都市の一つで、宝山製鉄所など重工業が真の役割を発揮した後、経済も急速に発展し始め、特に2000年以降、浦東が正式に快速発展の軌道に乗り、上海の経済規模は4800億元から22年の4兆4600億元にまで拡大した。浦東の開発がなかったら、上海経済がこれほどの規模になることを想像するのは難しい。
経済発展は北へと拡大し続け、20年前後になると、長江以北の中国で、山東省済南市が北京、天津に次ぐ第3の大都市になるのを人々は目にすることとなった。日本の読者は済南についてあまり知らないかもしれないので、少し補足すると、済南は南は泰山、北は黄河に面した細長い都市で、長い間経済発展が地理条件による制限を受けていた。しかし近年、黄河以北の数県を合併し、面積が拡大し、済南の経済発展は加速し始めた。20年以降、済南の経済規模は1兆元を超え、北京、天津に次ぐ北方第3の大都市となっている。
中国経済の北への拡大の過程において、京津冀(北京市・天津市・河北省)地域の雄安新区は同様に重要な意義を持っている。済南が単一の都市の発展を特徴とするなら、雄安の出現というのは、北京と天津の経済や科学技術など分野の一部の資源をここに移し、雄安の発展を通じて河北の経済をけん引して快速発展の軌道に乗せるものだ。
中国経済の南から北への発展の脈絡について、地理上からだいたいこれらの特徴を見いだすことができる。
導入から共創への転換
中国の経済発展のもう一つの変化は、深圳や上海は最初資本と技術の導入を通じて重要な役割を発揮したが、済南や雄安に至ると、国内の資本と技術が主となり、国外技術との共創が徐々に重要な特徴になったことだ。
済南は、香港に隣接する深圳のような地理的優位性がなく、宝山製鉄所など国外技術を導入した上海のような機先もなく、同地の発展は自身が比較的完備した産業チェーンを備えることをより必要とし、通信技術(IT)、医薬・衛生、脱炭素の方面で新たな道を行く必要があった。近年、済南の発展は基本的に国内の技術イノベーションを主な原動力としているが、国外からの技術と資本の導入も非常に重要なため、済南はこのところ毎年、日本企業と共同で産業交流大会を開催しており、会議の内容を見ると、国外と技術協力し、全く新しい方式によって済南および国内の市場ニーズを満たしており、新たな特徴となっている。
新分野での中日共創
引き続き済南から中国と国外企業との協力を見てみよう。筆者はこのコラムで、移動手段、ヘルスケア、脱炭素の方面の中日協力の将来性を何度も語ってきたが、ここで再度これらの分野の中日共創の可能性について強調したい。
本稿の冒頭で触れた小馬智行は、自動運転のIT技術の面で、国外企業が及びもつかないほど膨大な自動運転実験データを蓄積している。同社の北京、上海、広州、深圳各都市での実験の中で不断にアップグレードするIT技術によって、自動運転技術は日に日に成熟している。トヨタが小馬智行に投資するに当たって、注目したのはトヨタに足りない公道での自動運転に関する経験があったことで、一方、小馬智行はトヨタ側から運転をより簡単・快適にする関連技術を得たいと望んだ。このような中国のITと日本の製品製造の結合は、中日企業にとってまさに一種のウインウインだ。
筆者は7月に済南で中日産業交流大会に参加した。済南側からは、同地には中国の比較的集中した医療資源があり、同時に製造分野の重要都市であり、脱炭素方面で大きなニーズがあるため、今後中日企業には、移動手段、ヘルスケア、脱炭素分野で大きな協力のチャンスがあるという情報が伝えられた。
中国の経済発展が南から北へと徐々に進む過程において、中国企業と国外企業の協力の方法にも変化が起きており、共創は重要な特徴の一つとなるはずである。
今年7月、北京市は、インテリジェント・コネクテッドカーの「車内無人」での商業化試験走行を正式に開放すると宣言。無人運転タクシーがまもなく商業化運行を始める。写真は小馬智行とトヨタ・レクサスが協力した無人運転自動車(vcg)