恒大の経営危機と東電の排水問題 30年後に記憶に残るのは……

2023-11-03 17:06:00

陳言=文

10月は中国では住宅など不動産取引のピークシーズン。マンションの華やかな完成模型が並ぶショールーム(vcg)

から30年後の2053年に今年の中日経済を振り返った時、中国に恒大(中国恒大グループ)という超巨大不動産企業があったことを覚えている人はいるだろうか。また、日本最大の電力会社東京電力グループについて語る人はいるだろうか。おそらくその頃には誰も恒大を知らないだろうが、東電は間違いなく変わらず覚えているだろう。 

恒大と東電は今年それぞれ自国の経済に影響を与えた。将来もこの企業が記憶されているかどうかは別として、今われわれは両社が自国や世界経済に与えた影響について記録しておく必要がある。 

不動産負債の影響は限定的 

筆者は1980年代に日本に留学し、2003年に中国に帰国した。日本にいた頃、日本の株式と不動産がピークから底を打つまでの一部始終を目の当たりにした。1995年は日本の不良債権が最も多い年で、大蔵省(現財務省)によると、日本の全金融機関の不良債権は38兆860億円に膨れ上がった。 

恒大が発表した今年6月の中間決算によると、負債総額は2兆3882億元で、これは約48兆円に相当する。一つの企業の負債が、すでに日本の95年1年間の不良債権の総額を大幅に上回った。日本の95年の国内総生産(GDP)が5兆5400億で、これは同年の米国のGDP7兆6400億725%だと分かっていれば、もう少し頑張って米国を越えることもできただろう。当時の日本は、この程度の不良債権の処理は問題ないとされていた。だがその後、日本と米国の差は大きく開き始め、今年の日本のGDPは4兆4000億で、米国の26兆8500億1638%になってしまった(いずれも国際通貨基金のレポート)。 

日本では、恒大など中国の不動産デベロッパーの負債問題は大きく報道されている。これはもちろん日本のメディアが日本経済をよく知り、不動産デベロッパーの負債からこの問題の深刻さを察知しているからだ。しかし、中国と日本で異なる点が一つある。日本は家を購入する際に5%程度の頭金を支払うが、中国では多くの場合、優遇されても30%、セカンドハウスの購入となると頭金はさらに50%以上と、日本の当時のレバレッジと大きく異なる。 

日本の不動産バブルの崩壊後、東京や大阪の商業地の地価は8割ほど下落した。だが北京や上海では、在宅勤務を推奨する会社が日増しに増えてはいるものの、これほど価格が下落することはないだろう。不動産関連の融資は、かなり地方の融資平台(資金調達事業体)と関連しており、融資平台もかなり不動産価格に影響を与えているため、簡単に不動産価格の引き下げには同意しない。一方、銀行の不動産融資についても、銀行のバランスシートに占める不動産の比率は高くなく、恒大などの不動産デベロッパーの負債が銀行に与える影響は限定的だ。この点では中国と日本の事情はかなり異なる。 

30年後、ほとんどの中国人はかつて恒大という会社があったことを忘れていると思う。恒大など一連の不動産企業の負債問題には、1990年代の日本のようなバブル崩壊の効果はないと思われる。 

30年後も処理終わらぬ排水 

中国のほとんどの国民は、日本の「処理水」という考えを受け入れていない。また、日本の一部の政治家が「飲用可能」と強調するのは、東電のやり方に対する中国国民の不信感をいっそう募らせている。中国メディアは「核汚染水」という言葉を使っている。 

日本政府が出している関連情報によると、東電は今後30年間この核汚染水を海に流し続ける。より大きな問題として、東電の福島原発の廃炉問題を解決するに当たり、核廃棄物の保管をどうするのか、処理過程で核汚染水以外の放射性物質が海に流出することはないのか、どうやって東電のやり方に関する情報公開、透明化を行うのかなど、疑問は尽きない。 

これまでの東電と日本国内の漁業団体などとの交渉ぶりを見ると、日本国民の不安は払しょくされてはおらず、国際社会の理解を得るのはさらに難しい。 

現在、「処理水」と「核汚染水」で、日本国内外の世論は引き裂かれ、国レベルの外交問題になっている。政治家同士の直接的な意思疎通が非常に不足し、引き裂かれた世論はいっそうの対立を生んでいる。福島原発の事故は日本国内の原発事故にとどまらず、日本と周辺諸国、日本と国際社会に緊張をもたらす導火線になっている。 

30年に及ぶ放射能汚染水の処理、さらに長く答えのない原発の廃炉問題は、日本経済の足を大きく引っ張り、日本が不況の深みから抜け出せない大きな要因となる。またそれにとどまらず、福島原発の事故は日本と周辺諸国との外交に深刻な支障をきたし、日本の国際的なイメージを著しく損なう。 

30年後、東電は相変わらず日本の重要な電力会社だろうが、依然として原発事故の影から抜け出せないだろう。また、福島原発事故が日本と周辺諸国に与えた悪影響は基本的に変わらず、解消できないだろう。 

政府管理と企業ガバナンス 

恒大の2兆元の負債問題は、決して突然起こったものではない。地方融資平台や銀行から融資を受け、建設会社の出資で建設を行い、販売会社に住宅の前売り販売を代行させて不動産業務を処理する。その一方で、自らは手元の巨額の現金で新エネルギー車や介護、サッカー球団の経営など不動産と無縁の事業を行い、ぜいたく三昧の生活を送る――これでは企業が破綻するのは時間の問題だ。企業自身の管理に問題があり、政府やメディアの企業に対する監視も行き届かず、恒大の経営破綻問題が全て明らかになったときには、すでに中国経済に大きな損失を与えていた。 

東電がどこまで自らの企業責任を果たしているか、原発事故の後に追及する意味はもはやない。事故は2011年に起き、すでに12年たった。東電は自社の事故とその教訓を積極的に世界の国々と共有しただろうか。同じような事故を二度と起こさないために、世界各国の原発企業と共に経験を総括し、他国の原発企業も原発事故の処理に参加させただろうか。関連情報は非常に少なく、東電はますます分かりにくい企業になっている。 

福島原発事故から12年たち、日本では原発問題の反省は薄れ、海洋への核汚染水の放出は次第にやむを得ず、ポリティカルコレクトネス(政治的にも正しいこと)になっている。他国から疑念と批判が出されると、その瞬間に日本の世論では日本が被害者となる。もし旧ソ連のチェルノブイリ原発事故で旧ソ連も自分が被害者だと主張したら、日本はこれをどう見て、どうコメントするだろうか。 

30年後、人々が恒大のことをほとんど忘れた頃、東電は相変わらず人々の記憶にとどまり、依然としてネガティブな面から抜け出せないだろう。そして、原発事故が中日関係に落とした影も、より長くより大きくなっているだろう。 

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