電気自動車が中国市場を席巻 ニーズと潜在力が強み
最近になって「新三様」(新三種)という対外貿易関係の中国語をよく耳にする。日本語に翻訳すれば、「新・三種の神器」が妥当だろうか。
「新三様」とは電気自動車(EV)、太陽電池製品、リチウムイオン電池を指し、二酸化炭素(CO2)排出量削減や脱炭素などの新産業と関係がある。CO2排出量削減と脱炭素を真っ先に提唱したのは欧州諸国の企業で、日本企業がその後を追った。中国は産業の発展が欧米や日本と比べて100年近く遅れていたため、本来なら産業がCO2排出量削減や脱炭素の影響を受けて経済成長が停滞する恐れもあったが、まさかいま、中国が新エネルギーや新技術の分野で世界をリードしているとは誰が予想しただろうか。
自国の産業力が弱いのに、国際社会のCO2排出量削減と脱炭素の呼び掛けに応え、新産業を急速に発展させた中国の自信の源は?欧米の一部メディアが言うように、関連産業の好調ぶりは国からの大量の補助金が原因なのか?EV産業の発展から何か答えを見つけられるかもしれない。
「新三様」が成長した理由
中国政府のデータによると、中国貿易の輸出超過は昨年急増し、昨年の物品貿易は5兆7900億元(約8000億㌦)の黒字だった。先ごろ、李強国務院総理は、中国の「新三様」の輸出が昨年より30%近く増えたと指摘した。対外貿易に関するデータを詳しく見ると、自動車の輸出はこの3年間(2021~23年)、それぞれ104%、82%、57・4%と爆発的な増加を維持し、輸出における重要な成長要素となっている。国際的な産業の特徴から見ると、中国の「新三様」は研究開発において独自技術を持ち、生産の面では大規模化を実現し、市場では政府によるCO2排出量削減と脱炭素の政策の要求を満たすとともに、市場の新たなニーズにも応えている。
EV、ソーラー電池、リチウム電池は中国企業のオリジナル製品ではなく、欧米・日本の多くの企業が中国より早く産業化を始めたが、工業先進国において、EVとガソリン車、ソーラー電池と従来型エネルギーの供給者間の対立は中国の比ではなく、EV市場規模を拡大したこともなければ、リチウム電池の大量生産は言うまでもない。工業先進国には工業生産の既存秩序があるため、関連産業を存分に発展させられないのだ。
中国の状況は大きく異なる。ガソリン車のコア技術を中国企業はまだ完全に把握しきれていない。産業政策を推し進めた結果、中国は石油輸出国から輸入国になり、その輸入量も毎年増加している。エネルギー供給の問題を解決するため、中国は自国の地理的特徴から太陽光や風力などの新エネルギーを成長させなければならなかった。年間数百万台も販売されるEV、そして太陽光発電や風力発電といった定置型蓄電池へのニーズによって、中国は電池産業を発展させなければならなかった。また、リチウム電池は動力電池に、または定置型蓄電池として活用するにしても、いずれも素晴らしい役割を発揮するので、リチウム電池を選んで大規模な投資を行い、その生産力を迅速に拡大させれば、中国での生産コストは他国よりはるかに低くすることが可能だ。
国際社会のCO2排出量削減と脱炭素の呼び掛けに応え、「新三様」が中国で大規模生産を実現すれば、自国の市場に供給できるばかりか、国際社会にも関連製品を提供できる。これが中国が関連産業の発展を推し進める社会的背景だ。
原油価格と新技術が後押し
ロシア・ウクライナ衝突、パレスチナ・イスラエル衝突の影響で、2020年当時の年平均39・31㌦だったWTI原油価格が、22年にロシア・ウクライナ衝突が起きてからまたたく間に94・43㌦に跳ね上がり、昨年から今年4月にかけて77㌦台の高値をキープし続けており、今後ますます高くなる見込みだ。
国家統計局のデータによると、中国の昨年の原油輸入量は前年比11%増の5億6399万㌧だった。中国はもともと、輸入規模がとても大きく、増加スピードもとても速いので、原油価格の小刻みな値上がりは中国にとってすさまじく、その負担は想像もできない。排出削減と脱炭素のニーズがあるというだけではなく、石油以外の新エネルギーの模索は欧米や日本よりも切迫しているのだ。
EV産業の大規模化が実現すれば、電池も急速な発展を遂げ、その発展もEV産業の規模のさらなる拡大を推し進める。今年に入って大幅な値下げラッシュが中国新エネルギー車(NEV)市場に巻き起こった。中国EV大手BYDが激しい価格競争を起こしたのを皮切りに、テスラ、吉利、五菱、NIO、理想など24の自動車メーカーから63車種が参戦した。多くのメーカーは「ガソリンより電気が安い」を合言葉に、NEVの最低価格を10万元以内に抑えた。しかし10万~15万元クラスの市場はもともとガソリン車の「主戦場」だったため、NEVはガソリン車市場にかつてないほど打撃を与えている。政府が補助金を支給したのではなく、企業の値下げが中国自動車市場の競争の枠組みを変えたとともに世界に影響を与えているのだ。
そのとき欧米の一部の自動車企業はEVの研究開発あるいは生産の先延ばしを始め、EV産業で中国企業と競争する姿勢を捨てたようだ。
電池産業の技術革新と全固体電池の研究開発のさらなる進展は、充電時間が長い、航続距離が限られている、リチウム電池が発火するなどの問題を解決し、EV産業の規模の拡大をさらに進めるだろう。今年4月以降、メディアは中国企業の全固体電池関連の最新の進展状況を報道しており、これはリチウム電子のみならず全固体電池などの新技術でも中国企業が他国に先駆けて革新を続けている表れだ。
EV開発を続ける日本企業
日本は自動車大国であり、今のところ市場ではハイブリッド車が主流になっており、企業もそれによって大きな利益を得ている。日本企業は欧米企業とは異なり、強大な中国企業を前にして研究開発や生産を一時的にやめるか、政府筋から圧力を与えるかして、産業リスクや国の補助金などを口実に中国の自動車企業を抑え付けることはしていない。
関連技術を保有していれば、世界の自動車市場で協力が可能だ。日本企業は電池やEVの技術を有しているし、今後EVを発展させられるし、これが中日企業協力の布石となる。
モビリティー関連の「新三様」などの産業で中日間の技術協力は、今後ますます増えていくだろう。
陳言(Chen Yan)
日本企業(中国)研究院執行院長。1960年生まれ、1982年南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書多数。現在は中国外文局アジア太平洋広報センター副総編集長。