「日の出」の太陽光発電産業 「生産能力過剰論」は本当か?

2024-06-18 16:23:00

文=陳言 

国のジャネットイエレン財務長官とアントニーブリンケン国務長官の訪中後、先月号のコラムで触れた「新三様」(電気自動車、太陽電池製品、リチウムイオン電池のいわゆる新三種の神器)の「生産能力過剰論」がにわかに米国で沸き起こった。 

中国について言うなら、筆者はアパレル産業や家具産業の「過剰」現象の方が深刻だと感じるが、米国の政治家やメディアがそれに対し厳しく批判しているところをほとんど見たことがない。米国の政治家や世論がなにゆえ「新三様」に躍起になっているのが不思議だ。 

その理由を突き止めると、アパレルや家具はテクノロジー要素が薄く、一国の経済を左右し得ないからだと考えられる。太陽光発電はそれとは異なり、人類が草木から石炭、そして石油へと進歩した先に起きた革命だ。エネルギー革命の遅れは国の発展そのものの停滞であり、他の国に徐々に追い越される予兆かもしれない。米国の政治家はまだこのレベルで自身の危機感を語っていないが、内心では自国のエネルギー革命の停滞に相当気をもみ、中国の「生産能力過剰」を批判することで時間を稼ぎ、米国の関連企業の投資不足や技術的な遅れを隠したいのだと思われる。 

果たして中国の太陽光産業は「過剰」なのか、それともまだこれからなのか? 

黒いパネルの意外なエコ効果  

今年の労働節連休(5月1~5日)中、筆者は北京から西北部へ車を走らせた。道中、目に映る光景があれよあれよと変わり、丘陵が目立つ黄土高原に入る前から、無数の白い風力タービンに圧倒された。黄土高原から内蒙古自治区の砂漠地帯を通ると、視界に収まり切らない黒い太陽光パネル群が車道両側の黄色い大地を埋め尽くしていた。数ごとに見える変電所の地下に、大型蓄電池が設置されているに違いない。緑の草原と黄色い砂漠はもはや中国西北部のメインカラーではないのだ。 

もう一つの新たな特徴は、メガソーラーが牧畜(牧羊)と兼業という点だ。発電所が砂漠の上に設置した太陽光パネルの下からはよく植物が芽を出す。パネルが直射日光をさえぎり、さらにパネルの上に溜まった夜露が下に流れ落ちて若葉を潤す。メガソーラーはパネルの黒の他に、草の青さを黄色い砂漠に目立たせている。 

草が成長するのなら、薬草だって栽培できる。サクサウールは砂漠の緑化のために昔から使われていたが、「砂漠の高麗ニンジン」と呼ばれるニクジュヨウが寄生する植物としても知られる。そのため、メガソーラーのサクサウール栽培が増え、発電の他に羊肉や薬草も売る新たなビジネスが確立しつつある。 

昨年8月、筆者は富士フイルム(中国)社が内蒙古のホルチン(科爾沁)砂漠で行った植樹ボランティア活動を取材した。同社は内蒙古で植樹活動を25年間続け、ホルチン砂漠に5万2520本の木を植え、510ムー(1ムーは約0067)の砂漠を緑化した。15年前に取材した同社の10周年植樹イベントと異なり、昨年3日間の取材のうち、2日間雨に降られた。砂漠で雨に遭遇するのがかなりまれなので、当地の過酷な気候は植樹などの活動によって大幅に改善されたと見える。 

工業化されたメガソーラーは砂漠化対策をどのように変えるのだろうか?中国の砂漠の面積は日本の国土全体の2倍以上あり、その砂漠はオアシスに姿を変えているところだ。砂漠は発電所になって環境を改善した。その風食対策で果たした役割は過小評価できない。 

莫大な生産能力の社会的影響  

中国の太陽光発電の専門メディアによると、「中国の太陽光発電の生産能力は年間約1テラ(1000ギガ)」だ。中国企業が海外に設置した太陽光パネルの生産能力は含まれておらず、全て合わせると「基本的に世界市場の90%以上のシェアに達する」。これに米国の政治家は危機感を覚えているのだろう。 

1テラの生産能力の背景には、貯蔵エネルギー処理能力、送電網設置、ピークシフトシステム、送配電ネットワークなどさまざまな専門的な処理の仕組み、そして地方政府と産業発展などが関係している。 

経済のデジタル化が進めば、経済的に発達している地域はデジタルデータが多くなるし、処理データ量も当然多くなる。中国経済の特徴に、東部沿海都市の工業経済が発達し、西部が東部へ石炭などのエネルギーを供給している点が挙げられる。データ処理には大量の電力を必要とし、東部のデータ(数据)を西部で演算処理していることを「東数西算」と呼ぶ。これまで東部は西部の石炭資源に大きく依存してきたが、将来的には西部のクリーンエネルギー(風力太陽光発電)への需要もますます高まる。ITや演算処理などのセクションが西部に集中し、IT新産業と関連のある経済モデルが初めて現れるのも西部都市かもしれないし、それと共に豊富な電力が東部に輸送される(西電東送)など、中国の東西経済の構図に新たな変化が生まれるかもしれない。 

現在、中国でシリコン、シリコンチップ、バッテリー、モジュールだけを生産製造しても、もうほとんど何の利益も得られないといっても過言ではない。それらをつなげた産業チェーンがあって、一定の利益が保証されるのだ。 

中国と外国の太陽光発電のコストを比べてみると、中国のエンドユーザーはだいたい3元/1の使用料で、米国のサンラン社は4/1、ドイツのエンパル社も2ユーロ/1ほどかかり、10倍ほども違う。 

米国は太陽光発電産業チェーンの強靭(きょうじん)性の面でも電力コストの面でも中国とは競争にならないのに、「生産能力過剰論」で中国の太陽光発電産業の発展を阻止できるのか? 答えは言うまでもない。 

スマートグリッドで中日は協力可能  

中国の太陽光発電産業が米国の「生産能力過剰論」の影響を受けて足止めする様子を今のところ想像もできない。2022年の世界の発電電力量のうち、風力太陽光の割合は144%を占める42042テラワット時で、中国の風力太陽光の総発電量に占める割合は世界全体の154%に上り、今後ますますの成長の余地がある。 

日本はスマートグリッドの研究開発や使用で先進的な成果を収めている。まだこれからの中国と協力すれば、中国電力市場で新たな成功を収められるだろう。 

 

陳言Chen Yan) 

日本企業(中国)研究院執行院長。1960年生まれ、1982年南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書多数。現在は中国外文局アジア太平洋広報センター副総編集長。 

 

関連文章