中国人女性初の宇宙遊泳 子どもたちの好奇心育む

2022-03-08 16:02:39

高原=文 

今年1月、王亜平さん(42)は昨年の「中国で話題になった10人の女性」に選ばれた。彼女は中国の宇宙ステーションに滞在した初の女性であるだけでなく、中国人女性で初めて船外活動を実施して宇宙遊泳を行った宇宙飛行士だ。米国の元宇宙飛行士キャスリン・コールマンさんは、王さんに送ったお祝いの言葉の中で、「あなたが宇宙船の窓から外を眺めて私たちの地球を見ている時、私を含む数十億人の女性も窓の外を眺めています」と言った。 

王さんはこれより前の2013年に有人宇宙船「神舟10号」に搭乗し、軌道上を15日間飛行した。昨年10月に神舟13号に搭乗して宇宙ステーションに滞在、今年4月中旬に地球に帰還する予定だ。今回の滞在期間は約半年で、中国人宇宙飛行士の累計での宇宙滞在日数の新記録を打ち立てる。   

  

昨年10月、神舟13号の打ち上げ前に手を振る王亜平さん(中央)(asianewsphoto) 

  

農村から空、そして宇宙へ 

王亜平さんは1980年に山東省煙台市に生まれ、山間の張格荘村で育った。有名なサクランボの産地である村には「サクランボ代理購入」「サクランボ市場」などの看板が至るところに掛けられ、街路樹にもサクランボの形のイルミネーションが飾り付けられている。王さんの両親はかつて村のサクランボ農家で、4~5ムー(1ムーは約0・067㌶)のサクランボ農園を経営して生計を立てていた。長女の王さんは、小さい頃から聞き分けが良い孝行娘と周囲からいわれ、7、8歳で両親の農作業を手伝えるようになり、同い年の中で抜群の身体能力を発揮した。「特に中長距離走で強い忍耐力を見せ、運動会では毎年入賞していました」と王さんの高校時代の教師はこう語る。 

17歳で空軍の選抜試験に合格し、37人いる中国女性パイロット第7期生の一員となった。この頃から王さんが村に帰ることはめっきり少なくなり、彼女は時々、野山に広がる甘くかぐわしい大きなサクランボを懐かしんだ。 

長春飛行学院で王さんが同期と共に経験した訓練はとても厳しいものだった。初めてのパラシュート降下の時は何とも思わなかったが、2回目になって恐ろしいと感じた。女性パイロットたちは帰りの車の中でみな涙を流したが、泣き終わると再び訓練を続けた。 

同学院卒業後、王さんは無事女性パイロットになり、約1600時間を安全に飛行した。2003年に神舟5号が中国初の宇宙飛行士・楊利偉さんを乗せて飛び立った時、王さんは宇宙飛行士になりたいと思った。「中国に男性の宇宙飛行士が生まれましたが、女性の宇宙飛行士はいつ生まれるのか。この時から、心の中に『宇宙への夢』が人知れず芽生えました」 

09年に第2期宇宙飛行士選抜試験の通知を受け取ると、すぐに申し込みました。当初は家族から危険過ぎると言われて反対されました。父からは『地球の上を飛び回っていればいいじゃないか。地球の外に行くなんて危険が多過ぎる』とからかわれました。しかし、家族は私の決意が固いのを見て、何も言わず応援してくれるようになりました。03年に心に根差した宇宙への夢が、10年でかなうとは自分でも思っていませんでした。そして13年に神舟10号の宇宙飛行士となって、宇宙へ飛び立ったのです」 

  

水中で船外活動訓練する王さん(cnsphoto) 

  

女性の参加がなければ不完全 

一人の女性宇宙飛行士である王さんが受けた訓練は男性と何も変わらない。「宇宙は、女性だからといって環境を変えませんし、そのハードルを下げることもありません」と王さんは話す。 

それでも、女性が公平に有人飛行任務に参加できるように、数々の便利な環境が整えられた。それまでの宇宙機器はどれも男性の体格に合わせて設計されていたが、12年から中国の有人宇宙船と宇宙ステーションには女性飛行士の体に合わせた特製の椅子が用意され、女性専用の船内服と船外服も設計された。比較的細い女性の手には本来の手袋が重過ぎるため、毎回女性宇宙飛行士の手に合わせて型を作り、特注の手袋を製作した。排泄物回収器の高さや位置も女性に合わせて一部改造した。 

  

コアモジュール「天和」の中を飛ぶ王さん(asianewsphoto) 

中国宇宙技術知識普及専門家の龐之浩氏は、これまでの研究から見て、女性宇宙飛行士には宇宙において独自の長所があると語る。宇宙環境への適応能力が高く、感覚が鋭く、より周到に問題を分析でき、言葉の伝達力とコミュニケーション力が高いなどが挙げられる。また、宇宙の無重力状態でのエストロゲンとマグネシウムの代謝の働きが男性より優れており、血栓症、鉄中毒、血管攣縮、不整脈などを発症しづらく、長期的に宇宙を飛行するのに適している。それに、女性の参加がなければ宇宙生命科学研究は不完全だ。 

しかし、現時点で世界の女性宇宙飛行士の数は依然非常に少なく、全体のわずか10%ほどだ。しかも女性宇宙飛行士の大半が搭乗運用技術者であり、宇宙飛行や船外活動任務を行うのはまれだ。この点から、王さんの2度の宇宙滞在と船外活動任務の実施には、手本としての貴重な意味合いがあり、男性向けだと思われている宇宙事業などへの女性の進出をさらに後押しすることができる。 

王さんは「宇宙教師」となって13年と昨年の2回にわたりライブ配信で「宇宙授業」を行い、無重力状態での物体の運動の特徴と液体の表面張力の役割など、科学的な内容を講義した。8年前に彼女の授業を受けた子ども――特に多くの女子生徒が宇宙科学研究の道に進んだことを知り、王さんは喜びを隠せない。 

8年前、高校2年生だった張舒琪さんは、軌道上実験モジュール「天宮1号」で行われた初めての宇宙授業をテレビで見た時、奇妙な思いに包まれながらも興奮し、この時から彼女の宇宙愛が止まることはなかった。現在、彼女は宇宙ステーション飛行姿勢制御実験チームのメンバーになり、周囲の同僚と共に宇宙にいる飛行士を見守っている。王楠さんも初めて宇宙授業を見た時は高校2年生だった。当時、彼女はクラス全員どころか学年全員に呼び掛けて宇宙授業のライブ配信を見た。その日、王亜平さんは無重力状態でのこま、振り子、水の球の実験を実演し、地球では成功させるのがとても難しい「アクロバット」を披露し、子どもたちに思い出を残した。現在、王楠さんは北京航空航天大学大学院を修了し、宇宙開発技術者となった。 

  

中国宇宙ステーションで行われた宇宙授業の映像を見る王さんの母校の生徒たち(cnsphoto) 

王さんの人生は自分の娘にも深い影響を与えている。「職場には宇宙へ飛び立った宇宙飛行士たちの写真が飾られ、娘はそこに行くたびに、『あれがうちのママ!』と遠くから指をさすのです。まだ小さいから、宇宙飛行士が何をしているのか分かっていませんが、その職業が非常に神聖であると思い、誇りに感じています」 

「若い人に言いたいのは、夢というものは宇宙に散らばる星々のようだということです。はるか遠くにあるように見えますが、努力しさえすれば、いつか触れられる日が来ます。若者なら、恐れず夢を持ち、果敢に夢を追い掛け、努力して夢をかなえましょう」 

 

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