老若が活躍するまちづくり 個性を引き出す世代間交流

2022-10-14 16:58:57

高原=文 27院=写真提供 

7年前、帰国子女の牛瑞雪さんが北京ので開催した芸術祭に、同市東城区の朝陽門街道弁事処副主任の李哲さんは興味を持った。管轄区での「まちづくり」はかねて挑戦したいと思っていたが、ふさわしいプロジェクトと団体が見つからないことに悩んでいた李さんは牛さんに、「うちには700平方㍍の中庭があるんですが、コミュニティーが行う文化イベントを手伝ってくれませんか?」と打診した。牛さんと、彼女のビジネスパートナーの于歌さんは、若いメンバーで構成される団体「北京ONE芸術創意機構」を率いてその依頼を引き受けた。 

2016年9月、朝陽門街道と「北京ONE」が共同運営する朝陽門コミュニティー文化生活館が正式にオープンした。同区の内務部街27号にあることから、「27院」と呼ばれている。街道弁事処が「27院」に課した任務は、住民の7割が高齢者のこのコミュニティーで、住民の幸福感を高め、若者を呼び込むことだ。 

  

異世代を追体験 

最初、「北京ONE」は以前成功に終わった胡同での芸術祭を27院で再演した。若い芸術家たちは四合院で前衛劇やモダンダンスを披露し、フランスの芸術家の作品を展示した。これらの芸術イベントは大勢の若者を引き付けたが、付近の中高年層の住民はあまり関心を示さず、門の前を通りがかって気になる様子で中をのぞく人は多かったが、中に入ろうとしなかった。騒音が迷惑だと怒鳴ってくる人もいた。 

力の入れどころを間違えていたと、「北京ONE」のスタッフは気付いた。そこで彼女らは近所の街道弁事処とコミュニティー居民委員会にアドバイスをもらった。内務コミュニティー党委員会書記の史海寧さんのサポートにより、コミュニティーの高齢者で構成される書道・絵画サークル、ダンスサークルが27院でイベントを行った。 

「北京ONE」の頼柔柔さんは振り返る。「近所の高齢者も若者もイベントに参加しにきましたが、各自それぞれ楽しむ感じで、双方が交流できる機会に欠けていました」。それを踏まえて27院は18年に「あなたのようになる」と題したイベントを行った。その第1回目はコミュニティーの高齢者15人と、さまざまな業界から集められた1990年代生まれの若者15人が参加し、ペアを組んだ。若者はパートナーの高齢者を今の若者がよく行くイベントに誘った。頼さんはこれを「デート」と呼んだ。「デートが終わると、若者たちはお年寄りたちが若かった頃の服に着替え、お年寄りたちは今風のファッションに身を包み、一緒に写真を撮りました。誰もが普段とは異なる姿を見せ、とても楽しそうでした」 

19年に開催した第2回「あなたのようになる」では、高齢者がホスト役になり、若者たちを北海公園や天壇公園など自分たち好みの北京の観光地に連れて行った。3回目は中国共産党員の高齢者が党員の若者とペアを組み、激動の時代を振り返りながら、現在の社会問題・公共の課題についても話し合った。 

  

4回「あなたのようになる」でボードゲームを楽しむ参加者 

今年でこのプロジェクトは4回目を迎えた。イベントに参加した高齢者と若者はボードゲームを楽しみ、ポッドキャストを録音し、それぞれの時代の女性の結婚、出産などのテーマについて語り合った。この番組製作に参加した2000年代生まれの王さんと1980年代後半生まれの胡さんは「子はかすがい」という見解について否定的な意見を述べ、女性はまず自分の人生をしっかり生きてから、相手と親密な関係になることを考えるべきではないかとした。しかし1950年代生まれの女性たちは、結婚して子どもを産んでこそ人生は完璧になるという考えを述べ、王さんと胡さんの理想とする結婚相手を聞き、彼女らに相手を紹介しようとした。両者はリラックスしたムードで自分たちの経歴や見解を語り、笑い声の中で異なる見解を受け入れた。 

プロジェクト担当者の頼さんはこう語る。「私たちのチームのほとんどは1990年代生まれです。北京で学生生活を送り、働き、暮らしています。家族とは離れて住んでいて、年長者との日常的な会話も、今日の天気はどうだ、最近忙しいか、いつになったら結婚するのか、いつになったら実家に帰って働くのか程度で、意見が対立してすぐに口論になるときもあります。だからもっと平和的に互いの意見を交わせる方法が欲しかったんです」 

  

年の功を参照 

ある日、美術館で働く女性が27院にやってきて、コミュニティーに裁縫サークルがあると聞いたが参加できないか、年配の女性と一緒に学びたいと言った。「北京ONE」のメンバーにとってこれは大きなヒントになった。既存のサークルをバージョンアップすれば、若者たちの参加を促せられるのではないかと考えた。 

今年、彼女らはこの考えを実行に移し、バージョンアップしたサークル名を「ベンティサークル」にした。青年、中年、老人を飲み物のトール、グランデ、ベンティサイズに見立て、人間は老いても人生の下り坂に入るのではなく、年齢とともに大きくなっていき、経験と知恵が増え、人生もますます充実するという理念を伝えようとしている。 

「ベンティ」にはすでに三つの整ったサークルがある。裁縫サークル、演劇サークル、気候変動研究サークルだ。裁縫サークルは若いファッションデザイナーを招き、コミュニティーの高齢者たちと一緒に、持ち寄った古着を帽子やスカーフ、手提げ袋など実用的な小物に変えている。ある若者から普通のTシャツのリメイクを要求され、みんなで相談した結果、装飾を施すことになり、パンク風のTシャツに変えた。 

  

「ベンティサークル」の裁縫サークルの活動で、参加者の若者にセーターの裁ち方を教えるコミュニティーの女性(写真・胡茵夢) 

演劇サークルは二人の若いアーティストが高齢者をまとめて、従来と異なる実験演劇に挑戦している。「ベンティサークル」プロジェクト責任者の鄭圓さんはこう話す。「アーティストがお年寄りたちに、中庭から自分と心を通わせるものを選び、それとの関係性を演じてくださいと言いました。ある女性は、自分の髪型とそっくりな小さな盆栽を選びました。それは言わばもう一人の彼女であり、とても生命力に満ちていました。またあるときは、アーティストが私たちにお互いの手を観察させました。私とペアを組んだ馮さんは指の関節が特に大きくゴツゴツしていたので、聞いてみたところ、若い頃に鍛造をやっていたと言われましたが、それまで知りませんでした。その後、鍛鉄の工程や工場の風景を細部まで語ってくれて、とても感動しました」 

気候変動研究サークルはコミュニティーにあった「ゴミ分別ボランティアチーム」をもとにつくられた。鄭さんは、高齢者の日常からマクロな問題とのつながりがないか調べたかったと述べ、「お年寄りの行動主義さえも探ることになりました」と語る。 

気候変動は非常にマクロな問題だが、鄭さんとそのサークルは調査と研究をする中で、胡同の住民たちもこの問題に対し、ミクロな視点からリアリティーがある自分なりの見解を述べたと語る。「気候変動は健康と関係があると考える女性がいました。気温が高いせいで、クンシランが枯れたと言った女性もいました。北京の河川の変化に気付いた男性もいました。とにかく、さまざまな角度から問題を結び付けてくれるんです」 

鄭さんらは水道事業の専門家を招き、その男性と一緒に北京市内を散策してもらい、男性の視点から北京の水系の変化とその背後にある気候の影響を理解するつもりだ。クンシランの女性にはエコ農園に案内し、有機野菜がどうして高いのか、気候変動が農作業にどのような影響を与えるのか説明したい。「彼女らが系統的な見方を持てば、家族や近所の住民にもそれらの知識を普及できます」 

  

知りたいお年寄りのこと 

「あなたのようになる」と「ベンティサークル」以外に、27院は世代間交流の促進でまだまだ多くの試みをしている。日本のメディアでも報道された「老好使(よく使う)」ショップは、すでに高齢者をテーマにした商店として27院に定着している。ここはお年寄りたちが愛用する帽子、留め具、孫の手、かかとのあかすり、懐中電灯、ルーペなどの安価な日用品、孫のために買う文房具などを置き、生活の知恵が詰まっている。スタッフによると、これらの商品を買いに来る若者たちも少なくなく、一番売れるのがさまざまな色のウィッグだ。 

  

「老好使」ショップの一角。ツボ押しなどマッサージ関連のグッズが置かれている(写真・高原/人民中国) 

さらに「北京ONE」は「さびしいおばあさん」という動画も作り、コミュニティーに住むおばあさんの一日を生配信し、視聴者たちの質問にその場で答えた。「往事近事」では、老人と若者が社会問題についてそれぞれの見解をカードに書き、メッシュパネルに掛けて全員が自由に読めるようにした。 

これらのプロジェクトは社会に幅広い影響を与える前に、「北京ONE」の若者たちの大きな刺激となった。頼さんは自身の経験を振り返った。「実は私は以前まで少し人見知りで、歩いているときはずっとうつむき、人に声を掛けることもあまりありませんでした。しかし『あなたのようになる』をやってから、毎日胡同を歩いているとお年寄りたちに声を掛けられます。そうしていると、彼らが自分のおじいちゃんやおばあちゃんに思えてきて、私の方から声を掛けるようになったんです」 

 

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