電気設備を無料で修理 何でも屋の電気工事士
高原=文
浙江省慈溪市では、市民の間に口コミで広まっている携帯電話番号があり、人々から「電力110」と呼ばれている。携帯電話の持ち主は、国家電網浙江慈溪市電力会社カスタマーサービスセンターのコミュニティー(社区)マネージャー・銭海軍さんだ。彼は1998年から長きにわたってコミュニティーの住民たちに電気設備のメンテナンスを無料で実施し、1000人余りの仲間を引き連れてボランティアに行き、浙江省、チベット自治区、吉林省、貴州省、四川省を回った。今では、彼のもとに届く支援要請は、1000人以上のボランティアが積極的に対応する「銭海軍ボランティアサービスセンター」のウイーチャットグループに一律転送される。
「千戸万灯」プロジェクトの対象となる、障害者のいる家庭に蛍光灯を取り付ける銭さん(vcg)
電気関係なら引き受ける
銭海軍さんは浙江省の農村で育った。村人は純朴な気質で、どこが家を建て誰が結婚するといった一大イベントを聞きつければ、総出で手伝いに行く。銭さんの父親は人助けにとりわけ熱心だった。「父は電気工事士で、共産党員でもあり、いつも無料で隣近所の照明器具を修理したり、ヒューズを交換したりしていました。長い間その姿を見てきて、そういうことはやって当然だと思うようになりました」と銭さんは話す。父親の言動によって、人助けをすると自分も気持ち良くなれることに気付いた。
92年、銭さんは電気工事士になった。そのとき父から、「仕事というものは謙虚な態度で先輩に学び、一生懸命腕を磨き、自分なりの特技を身に付け、人々のためによく働かなければならない。そうしてこそ一人前の電気工事士になれる」と忠告された。父の励ましを受けた銭さんは先輩や班長から学び、発電所の保守作業員から電気主任技術者になり、コミュニティーのマネージャーを経て電気技術士(電気関連の資格において最高レベル)になっていった。
巡回検査を行う銭さん。22カ所のコミュニティーに暮らす約6万世帯の住人を対象にサービスを行っていて、これまで低評価がついたことがない(vcg)
98年、銭さんは農村から慈溪市に引っ越し、隣近所の照明器具の修理、スイッチの交換をしょっちゅう無償で行った。そこは古い住宅区と老朽化した建物が多く、高齢者も多かった。銭さんは、「大勢の高齢者は日常生活もままならず、電気の安全な使い方などなおのこと保証できない」ことに気付いた。70歳過ぎのおじいさんの家へ照明を修理しに行ったとき、「年を取ってもうどうしようもない。電球さえ替えられないとは」というなげきを聞き、銭さんの心は大きく突き動かされた。そのおじいさんは元8級(最高ランク)電気工事士で、業界の「大先輩」であり、腕前は当時まだ経験が浅かった銭さんをはるかにしのいでいた。そのような先輩でも、年を重ねれば高いところに上れず、視力も著しく低下し、点灯管を替えるような簡単な仕事すら不可能になる。老人の諦めたような話し方と落ち込んだ表情が銭さんの心を突き刺した。
そこで彼は名刺を500枚刷り、コミュニティーの高齢者に配り、「電気関係で困ったことがあれば電話してください。これはボランティアだからお金は取りません」と宣伝した。電気設備の修理のほか、銭さんは近所の高齢者たちの日常生活で困っている点を見逃さなかった。李というおばあさんは糖尿病を患っているため、血糖値を誰かに測ってもらわなければならなかった。王さんは独居老人だから定期的に家庭訪問しなければいけない。張さんの家の洗濯機はモーター音が大きく、睡眠に支障をきたすので一刻も早い修理が必要だ。銭さんはこれらを余さず記憶した。
自宅に骨董品レベルの古い家電があり、買い替えるのは惜しいがどこへ修理に出せばいいのか分からず、銭さんに相談しに来る高齢者もいる。最初は銭さんも直せず、身銭を切って専門の修理業者を呼んで、自分の同僚だとうそをつき一緒にその老人の家に修理に上がった。彼はそのそばで技術を盗む一方、『家電修理実用マニュアル』などの参考書を買って独学で学んだ。いつしか家電のよくある故障はたちどころに直せるようになり、「万能の電気工事士」と呼ばれるようになり、「電気」と名の付くものならなんでも修理できると言われた。これに対し銭さんは、「万能は無理ですが、助けを求めている人を失望させたくないだけです」と語る。
高齢者たちは銭さんの名刺を枕の下に敷いたり、ポケットに入れたり、冷蔵庫に貼ったりして、日々さまざまなトラブルに遭遇すると銭さんを呼び、銭さんの携帯電話番号は民間の「相談ホットライン」となった。連絡がつかないことがないよう、銭さんは携帯電話を24時間オンにし、忙しいときには1日で20件以上の相談の電話を受けた。深夜2、3時に電話がかかってきたときも、銭さんは文句を言わず話を聞いた。一つ一つ手助けしていき、もう23年になる。
人から人へ伝わる精神
2012年、銭さんが働く国家電網浙江慈溪市電力会社は彼の名前を冠したボランティアチームを設立し、多くの参加者を引き付け、慈溪市の独居老人や特殊困難世帯、そして他にも助けを必要としている人々のために、日常生活の電力使用に関する無償のメンテナンスサービスを提供した。15年、ボランティアチームは慈溪市銭海軍ボランティアサービスセンターと名を改め、子どもたちを対象にした「星星点灯」社会体験、独居老人を思いやる「暖心行動」、貧困家庭援助と学業支援などのボランティア活動を定期的に推し進めている。目下、チームには1200人余りのボランティアがおり、300以上の村やコミュニティーで活動を展開、活動時間は21万3000時間を超える。
ボランティアサービス用の名刺を渡す銭さん(vcg)
同年、銭さんと会社は「千戸万灯」公共プロジェクトを立ち上げ、障害者がいる家庭に住宅の照明の配線工事と修理、電気の安全な使い方の啓発活動などを行い、慈溪だけで1800世帯以上が恩恵を受けた。その後、このプロジェクトは慈溪から寧波に波及し、浙江省から他の省まで広がり、農村電気工事士養成クラスを拡大し、技術を教えていく中で、この7年の間にチームの移動距離は合計20万㌔余り、改修工事をした家は6000世帯以上になり、6万人以上の生活向上を支えた。
四川省涼山イ(彝)族自治州に住む吉子友伍さんは障害があり、もともと「千戸万灯」の支援対象だった。交流する中で、銭さんは吉子さんが配線修理にとても興味を持っていることに気付き、彼に手ほどきを始めた。吉子さんは銭さんと50世帯以上を回り、しっかりした電気工事士のスキルを身に付け、現地でボランティア精神を伝えている。こうして「千戸万灯」プロジェクトは規模を拡大し、農村の電気工事士を育成し、農村の家電修理ステーションを建設し、一般就労が困難な障害者の起業支援も行うようになった。
チベット自治区シガツェ(日喀則)市リンプン(仁布)県では、村々に電気がすでに行き渡っているとはいえ、電気を使用する上で障害があったり安全上の問題があったりする家庭は依然少なくなかった。銭さんは現地の老朽化した配電設備や乱雑な配線、子どもたちがむき出しの配線の近くで遊んでいる様子を見て、冷や汗をかいた。「時限爆弾みたいなもので、いつ悲劇が起きてもおかしくない」。これらの問題を解決するため、銭さんとチームはリンプン県165世帯の配線改修作業を終えた。
銭さんのチームは訪問サービスのほかに、チベット族にとって一番必要な土地に電気を通わせる方法を考えた。チベット族は毎年3~4カ月放牧に出なければならず、放牧の数カ月間は電気がない長い夜に耐える必要があり、携帯電話の電源を入れるのも3、4日に一度だ。放牧地はあちこちに点在しているから、大規模な電力設備を敷設するのは現実的ではない。銭さんが彼らに移動式太陽光発電機と発電式多機能ライトを持たせたことで、広大な牧草地の長い夜に初めて明かりがともった。銭さんが去った後も、地元民のソランドジさんは自分が撮影した動画を銭さんに送り、ソーラー充電器を手に入れてから放牧の日々でもいつでもスマホで家族に無事を報告できる喜びを伝えた。
銭さんの10年来の同僚で、ボランティアサービスセンター主任の唐潔さんはこう話す。「ここ数年、銭さんとの会話で一番多く話題にするのは、どのようにしてより多くの価値のある公共プロジェクトを計画し、より多くの人を率い、より多くの優秀なボランティアを育成し、チームをますます規律正しく、強大にさせ、助けを求めている人たちに手を差し伸べるかです」