陳克=文・写真
京都府と香川県の日本人大学生の一行約50人が3月4〜8日、古都・西安を訪問した。伝統とモダンが交錯する風情を味わった大学生らは、何を感じ何を得たのだろうか。
同団体は、中国駐大阪観光代表処、中国駐大阪総領事館、陝西省文化・旅遊庁などが主催。一行は早速、日本ゆかりの場所を訪れた。
先人の足跡をたどる
日本の晁卿帝都を辞し
征帆一片蓬壺を遶る
明月帰らず碧海に沈み
白雲愁色蒼梧に満つ
(日本の晁卿は唐の都である長安を辞去し、一片の去り行く帆影は蓬壺の島を巡っていった。明月のように輝かしかった君は深い碧色の海に沈み、白い雲と深い悲しみの色が蒼梧の空に満ちわたる)
興慶公園にある阿倍仲麻呂記念碑の前で、京都から来た女子大学生たちは、繰り返し練習していた中国語で唐代の詩人李白の『哭晁卿衡(晁卿衡を哭す)』を詠唱した。詩に詠まれているのは阿倍仲麻呂で、中国名を晁衡と言った。
717年、阿倍仲麻呂は第9次遣唐使に選ばれ、唐の都・長安にやって来た。彼は科挙に合格して官吏となり、朝廷に仕えて大詩人の李白や王維らと親密に交流した。753年、阿倍仲麻呂が帰国時に海上で遭難したという情報が伝わり、李白はそれを聞き、涙をぬぐってこの『哭晁卿衡』を詠んだという。後にこの情報は間違いだったことが分かり、仲麻呂は長安に戻ったが、その後、再び故郷の土を踏むことはなかった。京都女子大学の加藤由佳さんは、「李白の詩の中では阿倍仲麻呂の遭難が、明月が大海に沈むのに例えられていて、二人の友情の深さが分かります。私は上海の復旦大学に2年間留学し、多くの中国の友達ができました。私も彼らのように中国の友人との友情を大切にし、将来は日中友好に貢献したい」と語った。

京都の女子大学生たちが安倍仲麻呂記念碑の前で詩を朗読し、先人に対する思いを表現した
先人、阿倍仲麻呂の足取りをたどり、日本の大学生たちは西安工業大学と西安外事学院にやって来て、中国の大学生との交流を行った。同大で、香川グループの学生たちは伝統的な漢服に着替え、書法学院の学生の指導の下で書道を体験し、互いに作品を贈り合って、書を通じて友となった。一方、京都グループの学生たちは西安外事学院の日本語の授業を見学し、日本語専攻の1年生たちと座談会を行った。1年目の新入生は日本語が流ちょうとはいえなかったが、両国の若者は紙とペン、そしてスマホを使って意思疎通を図り、言語の壁をあっという間に乗り越えてしまった。阿倍仲麻呂から今日の大学生まで、朝廷から民間の一般人まで、中日交流の物語は千年の歳月を経て、いまも続いている。
西安外事学院で中国の大学生と交流を行う日本の大学生
兵馬俑を目の前に興奮
秦の始皇帝陵の兵馬俑は、地下に2000年余り埋もれていた勇壮な軍団であり、「世界八大奇跡」の一つとされている。多くの日本の若者は、西安と言えばこれを真っ先に思い浮かべる。西安から東に35㌔の山の麓にある秦の始皇帝陵は、中国史上初の皇帝の陵墓である。史料によれば、秦の始皇帝はこの陵墓を建造するために70万余りの労働者を集め、建造期間は38年にも及んだという。
写真でしか兵馬俑を見たことのない日本の大学生は、これらを本当に目の前にした時、興奮を隠しきれない様子だった。香川大学の高嶋喜満人さんは「このようにたくさんの兵馬俑の顔の表情がそれぞれ違うことにとても驚き、中国古代の労働者の技に心から敬服します」と褒めたたえた。
西安のもう一つのシンボルとも言える大雁塔は、『西遊記』にも登場する玄奘法師が、天竺(インド)からシルクロード経由で長安に持ち帰って来た経典や仏像を保存するために建てたもので、1300年前のものである。小さい頃から中国の古典文学が好きだったという京都府立大学の栗山瀬奈さんは、大雁塔を目にしてとても興奮した。「『西遊記』の三蔵法師ゆかりの古寺に来ることができ、とてもうれしいです。私のふるさとの京都は西安と友好都市になっています。京都は古代の長安をまねて造られたと聞いたことがありますが、西安に来ると確かに京都と同じように通りが碁盤の目状になっていて、とても親近感を抱きました」と語る。

兵馬俑を参観した後、日本の大学生はミニチュア兵馬俑の製作体験を行った
平成から未来へ
今年5月に、約30年続いた平成という元号は過去のものとなる。今に至るまで日本で使われてきたあらゆる元号が、中国古代の史書に出典を見い出すことができる。またその大部分が、西安の碑林博物館に収蔵されている漢代から現代まで4000点余りの碑石の中に、原文を探し当てることができる。碑林博物館を参観する過程で、平成という元号が『尚書』の「地平天成(地平かに天成る)」から採られていることを知ると、日本の若者たちは興味深げにその石碑を探そうとし、何とか探し当てると、みんな興奮を抑えきれず、次々と記念写真を撮った。京都府立大学の鈴木美憂さんは、「日本の元号が中国の古典に由来することを初めて知り、ここで千年余りも保存されてきた石碑の中から探し出せたことに、みんなとても感動しました。帰ったら友人たちにこの忘れ難い体験を話したい」と語った。
わずか1週間の西安の旅であったが、訪中団は古都西安の魅力をたっぷりと味わった。ほとんどが初めて訪中であった日本の大学生たちにとっては、とても貴重な体験だ。「春に花咲き、秋に実がなる」という言葉のように、今回の早春の西安旅行が彼らの心の中に中日友好の種をまき、いつの日にか実をつけることを期待している。訪問団の団長を務めた香川県国際課の谷口英二課長は、「今年は日中青少年交流推進年で、香川県と陝西省の友好県省提携25周年でもあります。今回の旅行により、学生たちが平成の『遣唐使』として、SNSなどによって中国の魅力を伝え、今後も日中両国の交流の懸け橋となるよう努めてほしい」と語った。