薛剣中国駐大阪総領事
“草の根”に踏み込み “普通の人々”と触れ合うことで
新時代の中日民間交流をより強固に
呉文欽=聞き手
5月5日、世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスの流行について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態にはもはや当たらない」と表明。国際社会はポストコロナの時代へと歩みを進めた。年初に中国と日本がコロナ対策を最適化したことで、両国間の民間交流が盛んになりつつもある。民間や地方交流の回復を進めつつ、ポストコロナの時代における民間交流の質とレベルをいかに向上させるかについて、薛剣駐大阪総領事に聞いた。
―今年6月に大阪総領事就任2年目を迎えられますが、最も印象深かったことは何ですか。
薛剣 私は東京の駐日中国大使館での駐在経験が3回ありますが、地方勤務は大阪総領事館が初めてです。この2年、特に日本の普通の方々との交流に注力し、管轄区域内の学校、農村、工場、漁村などで草の根訪問を行い、極普通の日本の友人がたくさんできました。
新時代に入った中国は今、あらゆる面で発展と変化が非常に速くなっていますが、日本の一般民衆はそのリズムについていくことができず、対中認識や理解において、それが大きな障害となっています。第一線で働く外交官として、普通の日本人に触れることは、中国のイメージをより直感的、現実的かつ立体的に伝えるのに有益であると私は思っています。
私はまた、日本のネットユーザーとのコミュニケーションも大切にしています。総領事就任後、日本のネットユーザーとの交流を目的にツイッターアカウントを開設し、中日両国の学生によるFree Birdという青年交流団体と出会いました。そこで2021年10月に、日本の学生が中国の、中国の学生が日本のビールを飲むというオンライン飲み会を開催しました。すると、「中国の総領事がこんな形で自分たちとコミュニケーションを取るなんて!」と、非常に驚かれました。その後も対面交流を重ねることで、彼らとの関係をより緊密なものにしています。かつて日本の若者は比較的内向的で、中日交流に対して積極的ではないと言われていましたが、決してそんなことはありません。単に交流の機会が少なすぎるだけなのです。
様々な世論調査によると、日本の人々の対中感情については楽観視できるものではありませんが、実際に日本の一般の人々との関係を深めると、必ずしもそうではないということがわかります。この問題を解決するためのキーワードの一つは、コミュニケーションです。と同時に、両国関係の発展がもたらすメリットについて、身近に体感してもらうことも必要だと思います。
―中日両国は人的交流を加速させつつありますが、領事館がある関西は中でも両国交流が最も盛んな地区の一つでもあります。今後、より活発な人的交流を促すためにはどうすればいいと思いますか。
薛 新型コロナ流行前の両国の人的交流数は、18年と19年で延べ1200万人を超え、市民間の真の人的交流を実現していました。しかしコロナの影響を受けて、この好ましい勢いがほぼゼロになってしまいました。
総領事として最も関心があるのは、いかに多くの日本の一般の方々に訪中してもらうかです。新型コロナの流行前に中国を訪れる日本人は年間にしてわずか200万人程度でした。しかもその8割がビジネスによる訪中で、残りの2割が一般人です。このことも、日本社会での対中認識に影響を与えています。
ですから、われわれは両国民の相互交流、特により多くの日本の方々が訪中し、新時代の中国の姿を理解する機会やプラットフォームを、可能な限りつくらなければいけないと思っています。両国政府は5年間で3万人の中日青少年交流を推進すると合意しています。われわれはできるだけ早く、このプロジェクトを実行すべきでしょう。
交流についてもう一つの重点は中日両国の企業間交流です。すでに中国には数万社の日本企業が進出しています。中日経済の相互補完が高まっている今、日本企業もスタッフを中国に派遣し、中国企業の経営モデルを体感し、中国の現場の職員の勤務状況を理解すべきでしょう。これは日本企業が今後中国市場でさらに発展し、協力関係構築を実現する上で、とても有益なことと思います。
―大阪総領事館はドキュメンタリー『趙樸初』に関するフォーラムを企画しているそうですね。この作品は2018年に完成し、昨年末は再編したものが日本のテレビ局でも放送されました。趙樸初が鑑真坐像を里帰りさせようという試みを追った作品ですが、領事館がこの作品関連のイベントを行おうと思ったきっかけをお教えください。
薛 戦後、趙樸初先生は長期に渡って中日仏教界の友好交流における旗手となられ、両国関係の改善と発展に特別で大切な貢献を果たした方です。この2年、私は領事館管内の著名な寺院を多数訪問しましたが、どの寺院でも趙先生への深い思い入れを感じることができました。日本の仏教は中国が源流であり、宗派による特色や違いはありますが、趙先生の名前を挙げると誰もが畏敬の念を表すのです。
少し前に私は日本のテレビで放送されたドキュメンタリー『趙樸初』を見て、中国外文局が制作したものの改編版だということを知りました。そしてこのドキュメンタリーを見ることで、私は趙先生が中日友好という大切な精神的遺産を残されたということを深く感じ、われわれは趙先生の精神を継承し、広める義務があると思ったのです。
遣唐使のほとんどは僧侶であり、仏教の交流を通じて当時の中国の先進的な政治、経済、科学技術、文化などの成果が大量に日本に伝えられました。中日仏教交流の歴史を顧みることで、我々も二千年にわたる中日友好の本質をより深く理解でき、更に共通の文化的価値観の認識を形成し、両国関係の長期的発展に利する精神的絆を確立することができるでしょう。
私たちはよく「中国と日本は引っ越しできない隣国だ」と言います。しかし私は、中日両国は決して単なる隣国関係ではなく、親戚関係であると考えています。両国を「中日友好、敬邻永安(隣人を敬い永安を得る)」関係とするには、お互いに良き隣人となるよう努力をし、心からお互いを尊重することが前提となるでしょう。これこそがドキュメンタリー『趙樸初』からえられるヒントの一つだと思います。
―今年は中日平和友好条約締結45周年ですが、「新時代の要求に合った中日関係」の構築についてどのように考えますか。
薛 過去50年にわたり、中日関係は目覚ましい発展を遂げました。良い面としては、中日経済貿易協力の成功が挙げられるでしょう。統計によると、2022年の両国間の経済貿易総額は43兆8400億円にも達するのに対し、日米間の経済貿易総額は29兆9800億円にすぎないのです。
しかし他の分野においては課題が山積しています。現在解決しなければならないのは、政治的な相互信頼という問題です。近年、日本の一部の政治家は「台湾有事は日本の有事」と繰り返し主張しています。こうした誤った言論は中国の核心的利益に抵触するのみならず、日本にとっても百害あって一利なしです。両国は、過去50年においてどのような協定が結ばれ、中日関係がどのようにつくられてきたのかをよくよく考えるべきなのです。
さらに、安全保障の相互信頼という問題もあります。昨年末、日本が「安全保障3文書」を閣議決定し、中国を「過去最大の戦略的課題」と公然と位置付けたことは、平和友好条約の精神に著しく反しています。日本は米国と安全保障条約を結んでいますが、中国との間に締結した平和友好条約では、平和共存五原則に基づき永続的な平和友好関係を発展させていくと約束しています。日本はこの条約の義務を着実に履行すべきでしょう。