孫文「大アジア主義」演説100周年記念シンポ 神戸で開催
李一凡=文、写真
「日本民族は既に一面、欧米の文化の覇道を取入れると共に、他面、亜細亜の王道文化の本質を有している。今後、日本が世界の文化に対して、西洋覇道の犬となるか、或は東洋王道の干城となるかは、日本国民が慎重におえらびになればよいことです」
1924年11月28日、中国民主革命の先駆者である孫文は、神戸高等女学校(当時)で「大アジア主義」と銘打つ演説を行い、上述のような魂を揺さぶる問いを日本各界に投げかけ、自国の未来に向けた正しい選択を日本に迫った。それから100年後の2024年11月28日、中国駐大阪総領事館主催、中国外文局アジア太平洋広報センター共催による「孫文『大アジア主義』演説100周年記念シンポジウム」が、神戸で開催された。
主催者あいさつを行う薛剣総領事
シンポジウムの皮切りに主催者あいさつとして薛剣中国駐大阪総領事が登壇し、「今、アジアの世界経済への貢献度は60%に達し、平和・安定の高みにあり、発展・協力が最も盛んな地域となっている。隣国同士、そしてアジアの重要な国同士である中日両国は、アジアの発展に重要な責任を持っている。100年に一度の大変局を前に、地域諸国は中日両国が時代の発展の大勢に順応し、アジアを率いてチャンスをつかみ、より明るい未来へと導いていくことを期待している」と表明。さらに「中国と日本は特別な隣国同士で、昔から持ちつ持たれつの運命共同体だった。日本に願うことは、新しい情勢の中で歴史の流れに順応しつつ、近代以降の脱亜入欧という古い考えから脱却し、自ら積極的にアジアに回帰し、アジアを抱きしめ、『立己達人』『天下大同』といった東洋文明の思考をもって、アジアの隣国とともにアジアや世界に対し、より多くの安定と繁栄をもたらすということだ」と強調した。
シンポジウム会場
テーマ講演では、孫文と親交が深かった日本人の関係者、専門家、学者、メディア代表などが、「孫文と『大アジア主義』」「『大アジア主義』演説の現代的意味」「アジア運命共同体の構築に向けて」などのテーマをもとに、突っ込んだ討論が展開された。「孫文と『大アジア主義』」というテーマについては、梅屋庄吉の曾孫で日比谷松本楼社長の小坂文乃氏、上海交通大学人文学院副研究員で明治学院大学国際平和研究所研究員の石田隆至氏が登壇した。
小坂文乃氏
小坂氏は曾祖父の梅屋庄吉と孫文の30年にわたる友情について発表。梅屋庄吉が孫文の革命を全力で支援し、孫文逝去後に巨額を投じて孫文の銅像4体を造って中国に贈ったという感動的なエピソードとともに、「孫文と梅屋庄吉の友情は、100 年の時を超えても日本と中国を結ぶ懸け橋となっている」と述べた。
石田隆至氏
石田氏は孫文が「大アジア主義」演説を発表した歴史的背景を分析し、五四運動が孫文の思想的転機になったと見解を述べた。また、ロシア革命や中国共産党との交流が帝国主義批判の思想を孫文にもたらし、日本の侵略性や中国民衆の政治力を認識させたとも指摘。さらに、孫文演説は脱植民地主義思潮の先駆けとして、平和と協力に基づく国際秩序を構築しようとした構想力を示唆していると語った。
続いて「大アジア主義」演説の現代的意味をテーマに、アジア記者クラブ前代表の森広泰平氏、旅日華僑中日交流促進会代表の林伯耀氏、立教大学前総長で立教大学経済研究所所長の郭洋春氏、名古屋外国語大学名誉教授で日中関係学会副会長、東海日中関係学会会長の川村範行氏が登壇した。
森広泰平氏
森広氏は孫文が提唱した「大アジア主義」について「欧米列強による植民地支配に反対し、アジアの団結と連帯を主張するものであり、宮崎滔天、梅屋庄吉、山田良政・純三郎兄弟など日本の盟友たちの支持を得ていた」と指摘。今の日本が進むべき道は、アジア各国との平和外交を協調し、共存共栄の経済協力関係を構築することこそが「東方王道」であると述べた。
林伯耀氏
林氏は、百年前に孫文が日本に投げかけた疑念は現在に通ずると指摘。「大アジア主義」は仁義道徳を基礎とし、アジア諸民族の団結を願い、西洋の覇道に対抗せよと主張している。中日両国間の平和と友好を支える力をさらに維持・強化し、過ちを繰り返さないよう努めるべきと述べた。
郭洋春氏
郭氏は「大アジア主義」について、「今日においても、依然旺盛な生命力を持ち、現代の日本に多くの示唆を与える」と述べ、今こそ日本が「大アジア主義」の精神を実践し、対米重視外交から脱却し、アジアの一員としてバランスの取れた外交を実現するための好機だと指摘した。
川村範之氏
郭氏と同様、川村氏も「日本は『アジアへの回帰』を果たし、米国追随外交からアジアに立脚した自主外交へと転換すべき」と述べた。百年に一度の大変動の中、西洋の普遍的価値観が限界を見せ、世界は新たな思想や価値観求めていると指摘した。さらに、日中両国は「人類運命共同体」の理念のもと、さらなる連携を進めることが求められていると強調した。
次に、「アジア運命共同体の構築に向けて」というテーマを巡って、インフィニティのチーフエコノミストである田代秀敏氏、拓殖大学海外事情研究所教授でジャーナリストの富坂聰氏、北東アジア動態研究会主宰でジャーナリストの木村知義氏が講演を行った。
田代秀敏氏
田代氏は「中国は多くのアジア諸国にとって最大の貿易相手国であり、トランプ政権が再び中国経済の封鎖や制裁を試みれば、アジア全体に負の影響を与えるだろう。と同時に、トランプ政権による中国やアジアへの恣意的な行動は、米国をさらに財政破綻へと追いやるだけだ。予期される危機に備えるため、アジアは運命共同体を築き、「アジアの世紀」の早期到来を目指さなければならない」と分析した。
富坂聰氏
富坂氏は人類運命共同体について、「ひとつの利害を共有する構成者として世界を捉え、排除ではなく協力を推進するためのスローガンだ」と持論を展開。中国の人類運命共同体構築を推進する取り組みは一貫しており、その具体的な青写真は「一帯一路」構想だと述べた。
木村知義氏
「アジア運命共同体」というカテゴリーについて木村氏は、人類運命共同体の一構成部分として位置づけられると定義。「アジア運命共同体は、『大アジア主義』の問いを受け継ぎ発展させられる存在だ。ここには真の多国間主義と開放的地域主義があり、協力をもってウィンウィンの関係を築き、未来を目指す夢がある。日本にとっては対米・対中関係における『非対称性』の解決こそが歴史的課題だ」と提起した。
呉文欽氏
シンポジウムの総括のために登壇した中国外文局アジア太平洋広報センター東京支局長の呉文欽氏は、反ファシズム戦争勝利80周年を目前にする今、中日韓三カ国、さらにアジア全体が和解と協力をより一層強調できる格好のチャンスだと強調。アジアの人々が求めるのは「アジア版NATO」のようなではなく、信頼、互恵、平等、協力に基しく「アジア運命共同体」であり、共に成長し利益を分かち合う「人類運命共同体」だと述べた。
記念撮影をする来賓
孫文と親交が深かった日本の友人の子孫、専門家、学者、メディア代表、友好関係代表など120人余りが出席した。