杭州から中国の未来を考える

2018-11-16 16:50:06

文=朝日放送グループホールディングス国際事業担当 永野ひかる 

銭江新城

「みなさん!杭州市内に到着です!」杭州・蕭山空港からバスにゆられることおよそ30分。コーディネーターさんの声にバスの窓から外を見て息を飲んだ。「ここってホンマに杭州なん?」今からもう30年近く前、私は日本の文部省(当時)の交換留学生として1年間南京大学で学んだ。週末や長期休暇には留学生仲間や仲良くなった中国人の友人たちと一緒に各地を旅行した。そのときに訪れた杭州の印象は「西湖」と「霊隠寺」に代表されるどことなくのんびりした落ち着いた街。ところが私たちが案内されたのは眼の前には巨大な金色の球形の国際会議センターがそびえたち、アウトレットモールや大劇場が広がる、所謂「銭江新城」と呼ばれる新開発地区。まるでハリウッド映画やアニメなどでよく見る未来都市そのものだったのである。

 今回、私は国務院新聞弁公室が開催した日本人ジャーナリスト向けの「中国取材ツアー」に参加した。メンバーは日本全国の新聞社、通信社、放送局から集まった17名。期間は1週間。北京での取材活動に始まり、途中「インターネットプラス」「貧困対策」という2つのテーマにわかれて、前者は浙江省、後者は江西省へ向かいそれぞれのテーマに沿った取材を行った。その後再び上海で合流し、第一回中国国際輸入博覧会の関連イベントである「国際経済メディアとシンクタンク~開放型世界経済の構築とメディアの役割」に参加し、さらに輸入博会場の取材をするというなかなか盛りだくさんのプログラムだった。 

 

Alibaba社屋にて

「インターネットプラス」とはインターネット技術とあらゆる産業を連携させ新しいビジネスの創出をはかるというもの。杭州で「インターネットプラス」といえば即ちアリババ。つい先日、日本でも報道された「独身の日1日で取扱高が3兆円を超えた」というニュースで日本でもおなじみのEコマース中国最大手であるが、それだけではない。傘下のアリクラウド社がお膝元である杭州市政府と協力して「ET都市ブレイン」を構築したということで、世界初の人工知能による都市交通モニタリングのデモンストレーションを見せてもらった。市中にある監視カメラのデータ解析を通じて交通信号変換調整、交通事故、渋滞、違反などを把握するというものである。もはやSF小説に出てくるような無機質な街になってしまい、私の記憶の中にあった優しく人情味あふれるあの杭州は消滅してしまったのだろうか?誇らしげにプレゼンされる最先端技術を見ながらなんとなく物悲しい気分になってしまっていた。 

 

 翌日早朝、早起きした私たち10名の日本人ジャーナリストは西湖のほとりに集合した。取材ツアーの一環で太極拳を学ぶためである。私たちは、見よう見まねで先生の指示にあわせて手足を動かし、呼吸を整えていった。最初はぎこちなかった動作もしばらく続けているとなんとも柔らかな気持ちになり、身体もポカポカしてきて、周りを見渡す余裕すらできてきた。すると、湖畔の緑地には、同じように太極拳に励む人、音楽にあわせて踊る人が大勢いることに気づいた。「これだ!」30年前私が西湖を訪ねたときと変わらぬ、古き良き時代から伝わる中国のもう1つの顔はちゃんと残っていた。 

 

1990年5月17日 杭州保淑塔をバックに

 今後、経済的にも文化的にもより一層ボーダーレスな世界になっていくことは間違いない。そのスピードは止められないが、太極拳のような「人間味あふれる」文化は消さずに後世に伝えていきたい。私達メディアの役割はそんなところにもあるはずだと確信しながら太極拳を終えた。 

 

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