「一帯一路」と新しい日中関係

2020-02-21 12:22:20

 横浜国立大学名誉教授 村田忠禧(談)

2013年に習近平主席が提唱した「一帯一路」構想から、すでに5年余りの歳月がたったが、国際社会ではいまだに賛否両論が続いている。新たなデータからその真意に迫り、隣国日本の取るべき態度を改めて探ってみたい。

 

21世紀の「南南協力」となることに期待

 昨年、私は『人民中国』のインタビューで、「『一帯一路』と『人類運命共同体』は中国による改革開放の世界版だ」と語ったが、新たに出てきた数値がそれを裏付けたようだ。

 19年1月までに中国との間で「一帯一路」協力文書にサインした国は121に達するというが、その内訳からは興味深い事実が見えてくる。アフリカが37、アジアが35、欧州が24、オセアニアと北米が各9、南米が7という割合で、アフリカが最も多い。これらの国々を締結した文書の種類ごとに色を塗っていくと、陸のシルクロード、海のシルクロードというベルト(帯)のようにつながるイメージより、形や色、大きさがさまざまなパネルで地球が覆われているかのように見えるだろう。

 アフリカにアジアを加えると72で全体の60%を占め、北米や南米との結び付きも生まれてくるなど、世界中の発展途上国から歓迎され、一緒に参加し、共に豊かになる世界をつくろうとする動きが拡大しつつある証拠である。そのような地球規模での協力や共同作業によって、共に豊かになる世界をつくっていこうとする行動のけん引役として、中国が重要な役割を果たしている。

 発展途上国は国家としての数は多いが、それぞれの国の総合国力は弱く、個別的に先進国に対応するとなると、先進国のやり方で押し切られてしまう恐れが充分にある。発展途上国の要求を上手にまとめて共通の声として取り上げていくことが可能かどうか。まとめ役としての中国の手腕、力量が問われると思う。

 発展途上国には内政面でいろいろ問題を抱えている国が多い。中国の改革開放の歩みそのものが模索と総括の積み重ねの中で勝ち取ってきたものであることを率直に伝え、そこから教訓やヒントを得ることも大切なのではないか。

 「人類運命共同体」という理念を単なるスローガン、看板に終わらせるのではなく、具体的な行動を支えていく精神として根付かせることが大切と思われる。これはまさに21世紀の「南南協力」といえるであろう。

 一方、欧州を見ると、東欧はおしなべて「一帯一路」に前向きな対応であるが、西欧はギリシャ、ポルトガルのみという状況が続いてきた。しかし今年3月に習近平主席がイタリア、モナコ、フランスを訪問し、信頼と協力の関係を築く上で大きく前進した。特にG7(先進7カ国)メンバーのイタリアとの間で「一帯一路」構想についての協力関係が強化されたことは注目に値する。

 実際の動きとして、中国と欧州を結ぶ「中欧班列」という鉄道網が整備され、利便性、経済性が理解されて運行回数が急速に増大している。

 その増加ぶりには目を見張るものがあり、日本の企業もこの大陸横断鉄道を使った物流を手掛け始めている。「一帯一路」で提唱している「開放性、平等性、ウインウイン関係の追求」を堅持して着実に経済建設を進めていけば、仲間に入ろうとする企業や国は必ず増えていくであろう。

 

イタリアを公式訪問した習近平主席は、322日、ローマでマッタレッラ大統領と共に中伊企業家委員会や中伊第三国市場協力フォーラム、中伊文化協力メカニズム会議に出席中の両国代表と会見した(新華社)

 

「債務のわな」「新植民地主義」の真偽

 一方、この1年で米国をメインとする西側諸国は、「『一帯一路』は中国による『債務のわな』や『新植民地主義』だ」という批判を展開し、スリランカの港湾使用権の差し押さえをその一例として挙げている。しかし、これについては今年2月にオーストラリアのシンクタンクから、差し押さえは中国側が原因ではないという研究結果が出ている。スリランカ側が自国の力量を考え、返済能力を無視した借り入れをしなければ、99年に及ぶ港湾使用権の差し押さえは発生しなかっただろう。すでに行われているインフラ整備の計画を途中でストップさせると、むしろそれまでの投資そのものが無駄になり、より一層の赤字を作り出す恐れがある。99年の使用権を取得しても、それは国家主権の譲渡ではないし、中国が港湾の管理をしているからといって、他国の船舶の使用を認めないということでもない。

 

「援助漬け」というのは良くない。援助はあくまでもその国が自立するのを助けるためのもので、健全な経済建設を実現し、借款の返済能力を高め、港湾使用権がスリランカの元に可能な限り早く戻ってくるよう、互いに努力し、協力すれば良い。かつて中国はソ連から多額の借款の供与を受けたが、1960年代前半という、中国自身が非常に困窮していた時でありながら、ソ連へ全額返済し、自主独立を守った。その中国が「債務のわな」を仕掛けることは考えられない。

 「新植民地主義」も同様である。特筆すべきは、中国が昨年11月に上海で第1回中国国際輸入博覧会を開催したことだ。これは単に中国の製品を世界に売り出すだけでなく、世界各国・各地の優れた製品を積極的に輸入しようとする姿勢の現れでもある。そしてこれは援助を受けている国々が自国の産業を発達させ、輸出によって自国の経済発展の好循環を実現することでもある。

 「一帯一路」の重要な理念として「共に豊かになる」がある。中国が自国の海外進出だけに力を入れるのであれば、「新植民地主義」という批判も否定できなかろう。しかし、中国は海外から積極的に輸入する姿勢を取っている。その成果はおそらく急速には現れないかもしれないが、お互いが発展し、共に豊かになっていく道を開拓することになると思う。

 

 

戦争を知らない世代が担う日中関係

 昨年、両国首脳が相互訪問を果たし、日中関係はようやく正常な軌道へと戻りつつある。日中第三国市場協力も、日中協力の新たな道を切り開いた。しかし、日本は依然としてアジアインフラ投資銀行(AIIB)にも「一帯一路」にも加わらず、「自由で開かれたインド太平洋」構想を掲げ、米国共々「一帯一路」構想に対抗しようとする動きを示している。

 日本と中国は引っ越しのできない、お隣同士である。いつまでもけんかばかりしているのは良くない。さらに経済的に見れば、お互いに依存し合っている。そのため、一方が悪くなると相手にも悪い影響が出る。共に手を携えて発展する、という考えになる必要があるし、それ以外に選択肢はない。関係改善が早ければ早いほどお互いにとってプラスと思われるが、もしそうでなくとも焦る必要はなかろう。日本と中国はもはや戦争に訴えて問題を片付けようとする時代ではないので、地道に、粘り強く付き合っていけば良い。

 今年は新中国成立70周年であり、日本は新たな天皇が即位することで元号が変わる。両国にとっての2019年は、特別な意味を持った一年といえよう。今上天皇は、かつての戦争で犠牲になった方々の慰霊の旅を実現し、また震災など自然災害の被害に遭った人々への心のこもった慰問活動をすることで、国民の統合の象徴としての天皇のありようを根付かせた。新しく天皇になる現皇太子は完全な戦後生まれで、日本の国民の大多数が戦後生まれになっている。まさに「戦争を知らない世代」の世の中となる。

 日中関係もこの時代の変化に応じて、共に手を取り合って美しい未来をつくり上げよう、とする未来思考を根付かせる必要がある。もちろん歴史を無視して良いということではない。歴史は客観的、科学的、総合的に認識するものであって、感情、思い込みで語るものではない。とりわけ自身が体験していないことを感情に基づいて語ると、一面的になりやすい。日本と中国では社会体制が異なっているので、自国の価値観に基づくだけでは正しく相手を知ることができない。

 相手の世界を知るためには学ぶことが大切で、学ぶとは書物によるだけでなく、実際の場を自分の目で見ることも学びである。そのため日本から中国を訪れる人が最近あまり多くないのは気になる点である。もっと積極的に、自分の目で見て、実際に交流することを通して中国を知ろうとする努力が必要である。その点はもちろん中国の人々についても言えることだ。

(聞き手・構成=呉文欽)

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