2023年は対中投資の大チャンス

2023-03-03 14:32:00

呉文欽=聞き手・構成

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹瀬口清之(談)

2022年の中国経済は、「高度成長時代が終わった歴史的転換点の年」と総括できるだろう。 

高度経済成長の終焉をもたらした要因として、21年から始まった「共同富裕」政策がまず挙げられる。これは独占禁止法に違反していた、あるいは独占をやっていた企業への制裁が目的であったが、この措置を見た多くの民間企業が、「政府は民間企業に対してあまり優しくないのでは?」と考えてしまい、投資意欲を若干低下させた。 

昨年以降は、さらに六つの新たな要因が加わった。 

第1に、新型コロナ感染症対策の影響で物流や人流が止まって経済が大幅に停滞したこと、第2に、大卒の失業が大幅に増大したこと、第3に、不動産市場の停滞が予想以上に深刻化してしまったことの3点が挙げられるだろう。 

第4は世界インフレの影響だ。ウクライナ情勢によってエネルギーや穀物価格などが値上がりし、世界的な金融緩和とも相まってインフレが高進した。その結果、各国が利上げに踏み切ったため、今後は景気後退が予測される。 

第5は米中摩擦の激化である。ウクライナ問題発生後も続く中露の緊密な関係に対する米国の反発に加え、米国が挑発する台湾問題などを巡り非常に厳しい米中摩擦が起き、半導体の対中輸出規制の強化などの問題につながった。これが中国経済にも暗い影を投げ掛けている。 

最後が出生率の低下。21年の総合出生率が752‰だったことが昨年1月に発表され、21年の人口増加が48万人にとどまった。その結果、中国の人口はもう増えないのではないか、という見方が広まっている。 

以前から25年前後には中国の高度成長は終わるだろうと考えられていた。しかし、その前にこれだけ多くの下押し要因が発生するとは誰も思っていなかった。このため、昨年に入ってから急に経済の見通しが不透明になり、このまま中国の高度成長が終わっていくだろうと考える人たちが増えた、というのが現況だ。 

その結果、消費者は消費を抑制し、企業経営者は投資を抑制し、内需の中心である消費と投資の伸び率が共に低下したため成長率も低下した。これが昨年の大きな経済の特徴だったと思う。 


外資系一流企業は依然中国を重視 

習近平総書記は昨年12月に開かれた中央経済活動会議を主宰し、今年の経済発展における一連の政策を策定した。 

私自身は12年以降の習近平指導部の経済政策運営の中核を担い続けてきた劉鶴副総理が一線から退くことを非常に心配しており、政策運営がどんな方向に向かうのか注視していた。今回の中央経済活動会議の方針を見ると、劉鶴副総理がこれまでの10年にわたって中国の経済を引っ張ってきた基本方針が、そのまま受け継がれていることがよく分かったので、とても安心した。 

特にサプライチェーンの安定確保に関して、「イノベーションを重視し、民間企業を重視する」という姿勢が明示され、米中摩擦への対応も考えられている。加えて、対外開放を重視し、外国企業の誘致や中国の投資環境改善にも注力しようとしている点で、適切な政策方針だと思う。国内のイノベーション促進と対外開放は、今後の中国経済の発展にとって非常に重要な柱である。今回の中央経済活動会議の決定内容は、劉鶴副総理がリードしてきたこれまでと同様に的確な政策運営が示されている。 

中国政府は昨年11月に感染症対策に関わる防疫措置の変更を発表し、12月以降大胆に実施した。このことは、中国経済の成長にとって確実にプラスの効果が出てくると思う。昨年は確かに大変な1年だったが、その反動で今年は成長率が伸びるだろう。私は5%を超える成長率を予想している。 

これまでの3年は消費が感染症対策の影響を受けていたが、飲食、旅行、交通、運輸などの分野での制約が感染症対策の調整で大きく開放されるため、これが雇用にもいい影響を及ぼし、今年の経済は消費を中心に押し上げられていくだろう。 

中国経済は高度成長期が終わり、安定成長期に向かっての過渡期に入りつつあるが、今後10年ほどは34%台の成長率を維持するとみられている。一方、西側先進国はインフレ抑制のために金利を引き上げた影響で、成長率が低下する見通しである。今後10年の世界中の経済を展望すると、中国のように巨大かつ高い品質ニーズがあり拡大が続く市場は、世界中どこにもない。よって、中国市場が世界で最も魅力的なマーケットであるという状況に変わりはない。 

世界の一流企業の経営者は以上のような中国市場の見方で一致しているため、日米欧諸国の主要なグローバル企業の対中投資姿勢はほとんど変わっていない。これまでは厳しい感染症対策の影響でCEOの中国訪問が難しく、大きな投資計画の実施を見送っていた外資企業が多かった。しかし、感染症対策が調整されれば、外資企業の経営者が中国に自由に来られるようになるため、これまで先送りされていた大型投資の決定も順調に行われる可能性が高まるだろう。 


進む在中外資系企業の二極化 

近年、感染症対策や米中摩擦などの影響で、中国市場から撤退する外資系企業が増えていることがメディアで頻繁に報じられている。それは事実だろう。 

ただし肝心なのはその中身だ。中国市場から撤退しようとしている企業の大半は、競争力がなくて中国ビジネスがあまりうまくいっていない企業なのだ。 

これに対して、高い競争力を持つ世界の一流企業は積極的な対中投資姿勢を変えていない。従って、競争力がある企業は対中投資を増やす一方、競争力のない企業は撤退もしくは対中投資の縮小に向かうという二極分化が、日米欧諸国の企業に共通する今後の対中投資の特徴になっていくと考えられる。 

今年は出入国および国内移動等の規制解除により外資企業にとって重要な投資決定が行いやすくなることに加え、中国政府が外資企業の対中投資拡大促進のため、外資企業の積極誘致に力を入れる1年になるだろう。つまり、対中投資を考えている外資企業にとっては非常に良いチャンスになるということだ。私も日本企業の経営者の方々には、対中投資を本格的に増やすのであれば今年がチャンスと言っている。 

以上のような背景により、外国企業、特に世界の一流企業の対中投資は、今年から再び加速方向に向かうと考えられる。感染症対策の変更に伴う消費の回復と外国企業の対中投資が中心になり、中国企業の投資の回復も加わり、今年は昨年に比べてかなり高い成長率になると考えられる。 


国民の健康と地方財政の安定化 

今年の中国経済が予想されている回復をその通り実現するためには、いくつかの事柄に関してしっかりと行動する必要がある。真っ先に挙げられるのが、医療の充実と国民の健康の保障だ。 

一番心配な問題はコロナの感染拡大である。今の中国は感染症対策の調整に大胆に踏み出している。しかしそれとともに、多くの人が健康の心配を抱えている。重症化患者に加え、お気の毒なことに亡くなられた方も増えている。そうした調整後の現状をどのようにうまくコントロールしていくのかが非常に重要だ。そのためにも医療レベルを全国的に引き上げ、特に医療レベルの低い農村部における医療を充実させていくことが、とても重要だと思う。 

海外の医療現場では、海外製ワクチンの有効性がすでに証明されていることから、海外製ワクチンを中国でも活用することを奨励したり、日本や欧米諸国で開発された新たな特効薬を中国でも積極的に使ったりすることは、有効な施策であると思う。 

とにかくあらゆる手段を使って中国人の健康を守り、重症化患者と死者をできる限り少なくすることが、今年前半の最大の課題である。それをうまく乗り切ることができれば、感染症対策の調整とともに、消費、外国企業の投資、国内の投資などが自然に盛り上がってくるだろう。 

もう一つの重要な課題は、不動産市場の問題だ。中国経済に深刻なダメージを与えないよう、ソフトランディングの方法を考えていくことが大切だ。不動産市場の問題はそう簡単に解決できるものでないというのは、誰もが認識している。これが急速に悪化することを防ぐためには何をすべきか、というのが重要課題だ。不動産市場の停滞により、これまで不動産開発収入で税収不足を補っていた地方政府の財源が非常に苦しい状況に陥っている。この地方財政収入不足を中央政府からの移転支出で補填することも、重要な今年の任務になってくると思う。 

そうした施策を組み合わせることで、地方経済の急速な減速を防ぐとともに、経済全体の順調な回復につなげていくことが、今年の中国経済において最重要課題だと私は考える。 

 

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