AI時代の「新たな石油」
新疆の石油都市・カラマイは近年、コンピューティング・パワーで名をはせている。現在も年間1600万㌧以上の原油を生産するカラマイは今、AI時代の「新たな石油」――コンピューティング・パワーの発展に取り込んでいる。
2013年、カラマイ市クラウドコンピューティング産業パーク(以下、同パーク)が正式に稼働し、10年以上にわたる歩みを経て、今ここには190社以上の企業が立地し、六つの大規模データセンターも建設された。パーク内の企業は北京、上海、広州などのAI企業に演算能力サービスを提供しており、その規模は1万7000P(ペタフロップス)を超える。
グリーン電力で安定供給を実現
AIブームは世界のコンピューティング・パワー需要の急成長をけん引している。インターナショナル・データ・コーポレーション(IDC)の予測によると、27年までに中国のAIサーバー市場規模は134億㌦に達し、年平均成長率(CAGR)は21・8%になる見込みだ。コンピューティング・パワー需要の急増は、電力需要の拡大ももたらしている。
データセンターの電力コストは非常に高いため、安定した安価な電力は、企業がデータセンターを建設する際に最も重視する要素となっている。同パーク管理委員会の李啓明副主任によると、東部地域に比べ、新疆の電気料金には明らかな優位性がある。「上海で最も安い工業用電力は1㌔㍗時当たり0・8元以上ですが、カラマイでは平均的な電気料金は0・4元前後です」
AIがもたらすエネルギー需要は、単に安価であるだけでなく、クリーンで効率的であることも求められる。OpenAIの創業者サム・アルトマン氏はかつて、「エネルギー分野でブレークスルーを達成できなければ、技術目標の達成は不可能だ」と公言した。新疆は豊富な太陽光エネルギー、風力資源を有しており、これはコンピューティング・パワーの発展を電力面で強力に保証している。
「昨年3月、『風力・太陽光資源の優位性をさらに活用し、特色ある産業の質の高い発展を促進する政策措置に関する通知』が正式に公布されました。政策の支援を得て、カラマイの『グリーン電力』の価格はさらに低下する見込みです」と、カラマイ市クラウドコンピューティング産業投資開発有限公司(以下、「雲投」)の李倩執行取締役兼総経理は語る。
カラマイの気候条件も、データセンターの電力コストを大幅に削減する要素だ。李副主任によれば、カラマイでは、データセンターは約半年間、エアコンによる冷却が不要だという。さらに、新疆は面積が広く地質構造が安定しており、カラマイの有史以来、マグニチュード4・7以上の破壊的な地震は一度も発生しておらず、これら全てがコンピューティング・パワーセンター建設に有利な条件となっている。
ネットワーク接続に注力
多くの強みを持つにもかかわらず、データセンターの立地を新疆にすることに、多くの企業がなお懸念を抱いている。最大の難関がネットワーク問題であり、これはコンピューティング・パワーネットワークの構築だけでなく、現地の産業構造にも関わる。
「新疆の地理的位置は、中国のコンピューティング・パワー需要が集中する東部地域から遠く離れているため、業務におけるネットワークの遅延(レイテンシ)やオンサイト保守などに一定の課題があります」と、中国信息通信研究院(以下、「信通院」)クラウドコンピューティング・ビッグデータ研究所の李潔副所長は指摘する。
ネットワーク接続の問題について、同パーク招商局の薛巍巍副局長は、大規模言語モデルが急速に発展し始めた23年から、カラマイはすでにデータセンターの統合作業をスタートしたと説明する。カラマイ市内のネットワーク資源を統合するとともに、新疆内のコンピューティング・パワーネットワークも積極的に接続し、ハミ(哈密)、ウルムチなどの重要拠点と連結することで、ネットワークのボトルネックを効果的に緩和した。
「雲投」と奥瑞徳光電社が共同運営する「シルクロード新雲(ニュークラウド)グリーンコンピューティング・パワーセンター」も、コンピューティング・パワーの「ネットワーク」への統合を積極的に進めている。現在、シルクロード新雲はすでに北京、上海、深圳など12の理事会構成組織と連携し、コンピューティング・パワー多元管理プラットフォームを構築している。また、信通院や国家情報センターとも連携を図っており、全国のほかの拠点や都市との連動に取り組んでいる。
「10年以上にわたるクラウドコンピューティング産業の積み重ねにより、カラマイは新疆でコンピューティング・パワーネットワークを構築する能力と適合性を共に備えた都市となっています」と薛副局長は語る。
企業のもう一つの懸念は、西部地域が東部地域より産業支援が相対的に弱いところにある。つまりデータセンターが建設された後、どの分野で応用されるかという問題だ。
当初、カラマイはネットワークの遅延に対する要求がそこまで高くない映像レンダリング産業に的を絞り、西北地域では単体で最大規模を誇る映画・ドラマ・アニメレンダリング基地を構築していった。ここ数年、カラマイでレンダリングされた映画・ドラマ作品はすでに3000部以上に上り、全国のレンダリング演算リソースの約40%を占めている。『流転の地球』『永遠の桃花~三生三世~』『熊出没』など、中国の視聴者におなじみの作品は全てカラマイでレンダリングされたものだ。
AIの発展によりGPU(画像処理装置)がさらに注目を集め、AIデータセンターも急速に成長している。IDCと中国のサーバーメーカー浪潮情報(Inspur)が共同発表した「2025年中国AIコンピューティング・パワー発展評価報告」によると、昨年の中国のAIコンピューティング・パワー規模は前年比74・1%増加し、市場規模は前年比86・9%増加した。
「GPU時代の到来によって、従来のCPUレンダリング産業は大きな打撃を受け、利益率は次第に縮小しています。このため、近年、カラマイもGPUコンピューティングに立脚し、変革を模索し始めています」と薛副局長は語る。
従来のデータセンターのサーバーが主にCPUを搭載しているのとは異なり、AIデータセンターは通常、GPUなどのAIアクセラレータチップを大量に搭載している。これは並列計算に優れ、AIアルゴリズムの実行に適している。「AIデータセンターの1ラック当たりの電力密度は通常、従来のデータセンターよりも高く、30㌔㍗以上も少なくありませんが、従来のデータセンターの電力密度は平均10㌔㍗未満です。そのため、AIデータセンターにとって放熱がさらなる課題であり、ハードウエアの安定した稼働環境を維持するために、より先進的な冷却方式が必要です」と李副所長は説明する。
昨年建設が完了し稼働を開始したシルクロード新雲グリーンコンピューティング・パワーセンターの第1期プロジェクトは、160基の35㌔㍗高電力ラックで構成され、各ラックに7台のサーバーを設置可能で、電力使用効率(PUE)は業界平均を上回っている。
「自治区発展改革委員会からシルクロード新雲にもたらされた優遇政策は、建設するデータセンターの規模に『上限を設けない』というもので、投資・建設した関連施設が検査に合格すれば、全て新エネルギー指標を付与されます」と李副主任は説明する。
さらに、より先進的な液体冷却データセンターもすでに同パークに導入されているという。このデータセンターは液体冷却プレートシステムを採用しており、システム全体のエネルギー消費量は従来のデータセンターのわずか6分の1である。
海外展開を加速
カラマイが中央アジア諸国に近いという地理的優位性に依拠し、コンピューティング・パワーネットワークの越境配置やデジタル技術の国際協力などの分野で、より大きなチャンスが潜んでいると多くの業界関係者は考えている。
カラマイは北京から3000㌔以上離れているが、カザフスタンの首都アスタナまではわずか1000㌔だ。ユーラシア大陸全体の地図に置けば、ちょうど中央に位置する。
同パークの責任者がウズベキスタンやカザフスタンなどの中央アジア諸国の企業と交流した際、現地の開発基盤が相対的に{ぜいじゃく}脆弱であるため、これらの企業は中国にコンピューティング・パワーネットワークを配置する必要があることが分かった。
李副所長は、新疆が「一帯一路」の核心地域として、中央アジア諸国とのデジタル技術交流協力において、明らかな立地優位性を有する上に、中国(新疆)自由貿易試験区の建設と関連優遇政策も、新疆のコンピューティング・パワー産業の発展に有力な支援を提供していると考える。
23年11月、信通院とカラマイは共同で「中国―上海協力機構(SCO)ビッグデータ協力センター新疆サブセンター」の設立を推進した。「信通院はこのプラットフォームを通じて、新疆のコンピューティング・パワー産業発展に新たな機会をもたらし、より広範な国際協力の空間を提供したいです」と李副所長は語る。
このような協力がきっかけとなり、カラマイの現地企業も積極的に海外展開を図っている。カラマイ市紅有ソフトウエア有限公司、新疆金牛エネルギーIoTテクノロジー有限公司など複数の企業が、石油・ガス業界での豊富な経験を生かし、ここ2年で海外進出の歩みを絶えず加速させ、石油・ガス関連の数々のプロジェクトが順調に国外に進出し、製品はロシア、カザフスタンなどの国々に輸出され、カラマイのコンピューティング・パワーおよび関連産業が国際市場に深く溶け込むための成功モデルを提供している。